2018年9月29日土曜日

日米物品貿易協定(TAG)の問題点―交渉は関税分野だけではない


2018927日、日米首脳会談の結果、両国は共同声明を発表。日米物品貿易協定(TAG)交渉を開始することになった。政府によればTAGとは「包括的なFTAではない」と説明するが、包括的かどうかは問題ではなく、国際的にはFTAとしか説明ができない。仮にFTAでないとすれば、GATTに規定される最恵国待遇の例外とはならず、日本はTAGで決めた関税をWTOのすべての加盟国に等しく適用しなければならない。このWTOとの整合性問題は実は非常に大きく、別途より詳細に検証したいと思う。

とにかく米国におけるTPA(貿易促進権限)手続きが終わる約3か月後には実際の交渉が始まる。この物品貿易交渉一つとっても日本の農産物市場には大打撃であるし(TPP水準でとどまったとしてもである)、また交渉中日本の自動車に関税をかけないということも約束したというが、交渉の推移次第でどうなるかもわからない。交渉自体が早期に決裂し、ただちに関税をかけられる危険もあるのだ。

ところで私が日米共同声明を読み、最も注視しているのが物品貿易交渉以外の部分である。今回決まった交渉の枠組みとスケジュールの全体像と言ってもいい。まずは共同声明文の第3項および4項を引用する。

  日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する。
3. Japan and the United States will enter into negotiations, following the completion of necessary domestic procedures, for a Japan-United States Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services, that can produce early achievements.

  日米両国はまた、上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする。
4. Japan and the United States also intend to have negotiations on other trade and investment items following the completion of the discussions of the agreement mentioned above.

出典:内閣官房TPP等政府対策本部




メディアでは物品貿易協定について主にクローズアップされているが、第3項では物品貿易協定とともに、「他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」と記されている。要するに「物品貿易協定」と「早期に結果が出せる重要分野」の二つの交渉が同時に始まる、ということである。

問題は、この「早期に結果が出せる重要分野」とは何かということだ。サービスも含むとあるので相当に広範囲なものの中から、「早期に結果が出せる」ものとしてピックアップされたものであるわけだが、日米間の長いTPPでの交渉の推移や、また今回、自動車への関税だけは避けたかった日本政府の立場から考えても、当然、これは「米国にとって有利な結果となる分野・項目」と読むのが自然だろう。

ここでどのような内容が議論されるのか、またこの「早期に結果が出せる分野の交渉」の枠組みは、物品貿易協定のような形とならない可能性が高い。つまりいつどこでどのような内容で交渉されるのかが極めて見えにくいことになるだろう。

さらに、第4項を見ると、「上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする」とある。ここには投資の他、サービス、非関税障壁などあらゆる分野(要するに物品貿易以外のすべて)が盛り込まれてくる可能性が高い。言い換えれば、これらの分野から「早急に結果が出せる」部分が第3項で先んじて交渉対象になると言ってもいいだろう。
まとめると、今後の日米交渉は、①物品貿易協定および②その他分野で早期に結果が出せるもの、が並行して進み、さらに①の妥結前後に③投資、サービスなどの分野の交渉が始まる、という建付けになっている。結局、③まで完了すればTPPがカヴァーした多くの分野が交渉されることになる。その意味で、現時点では「FTAではない」と強弁する政府も、最終的には「包括的なFTA」となる(すべてが含まれるFTAという協定の形をとるかどうかは別として)ことをもちろん理解しているはずだ。

さて、最も気になるのは、では②や③にどのような分野が含まれてくるのか、とりわけ②の「早期に結果が出せる分野」とは何か、という問題である。端的に言えば以下のような項目になることが予想される。
1.TPPにおける日米並行協議において取り交わした約束
2.米国のTPP離脱後から現在までで改めて米国が日本に求めている内容

1.のTPP交渉時に日米が取り交わした約束には、自動車の非関税措置や保険、食品添加物の規制緩和などが米国から片務的に日本に求められる内容が記載されている。米国にとっては、「一度日本が呑んだ水準だろう」と、当然これらの厳格な実行を求めてくるだろう。
TPPにおける日米並行交渉に関する文書はTPP等政府対策本部のウェブサイト参照

2.については、20183月の米国外国貿易障壁報告書をはじめ、トランプ大統領が就任して以降、現在までに改めて提示されている、米国から日本への様々な要求がある。これらのうち、「早期の結果が出せるもの」が順次挙げられていく可能性が高い。特に、日本の薬価算定制度の改定に対して強く批判をしている米国製薬業界、また韓米FTA再交渉でも論議となった為替操作に関しては交渉のテーブルに乗せられるのではないか。


以下に、私自身が20185月にTPP11批准審議が国会でなされた際、参考人として国会に出席した際に配布した資料の中から、「TPP11と日米FTAへの懸念」という部分を抜粋してご紹介する。5月時点で憂慮したシナリオは、現実となっていることが確認できよう。ここで挙げた様々な要求が、今後米国が「日米物品貿易協定」および「早期の結果が出せる分野の交渉」の内容にほぼ重なるのではないか。

茂木大臣は日米共同声明発表直後の記者との質疑にて、「(TAGの交渉入りの前に)日本では特に国内手続きは必要ない」と明言している。確かに法的な手続きは必要がないということにはなるが、しかし「FTAではない」と強弁する政府の見解は、どうみても無理があり、WTOとの整合性も含めた国会・国民への丁寧な説明が絶対に必要である。またTPP11批准の時点から「FTA入りはしない」と約束していた政府のスタンスの変化について、改めて国会で論議する必要もあろう。

「攻めるべきところは攻め、守るべきところは守る」と茂木大臣は説明するが、では日米物品貿易交渉やその後に延々と続く投資・サービス分野での交渉において、日本の「攻めるべきところ」とはいったい何なのか。TPP交渉では、日本から米国へ輸出する乗用車の2.5%の関税は25年をかけて段階的に撤廃、25%のピックアップトラックなどの関税は29年維持して30年目に撤廃することが合意された。政府は農産物に関しては「TPP以上の譲歩はしない」というが、それならばこの乗用車関税に関して、かろうじて日本が米国に約束させたこの関税撤廃を、「TPP以上は譲れない」と言って実現させるのが筋であろう。しかしご存知の通り、実際にはこの条件の実行を念押ししてくるどころか、逆に日本車への関税を何とかかけないでほしい、とその他の条件をあれこれ差し出してきたという状態である。

こうしたちぐはぐで片務的な交渉を始めると約束してきたからには、国会で交渉入りについて改めて議論し、採決をするという扱いをとってもおかしくないレベルの話である。
臨時国会は1026日からと予定されているようだが、米国での国内手続きとしてのTPA取得には90日かかる(TPAが通らなければ米国は事実上交渉に入れない)。日本の国会でもしっかりと今回の合意の全体像を明らかにし、交渉入りをするのかどうかも含めて判断されなければならない。

★以下、国会での参考人質疑において配布した資料のうち「TPP11と日米FTA」に関する文章(2018年5月)

2.TPP11と日米FTA
米国の離脱後、TPP11となってから、TPPの本質的な意味は大きく変わった。当初TPPは米国が自国のグローバル企業の強い意向を受け、自国に有利になるようルールを書き換えるためのツールとして機能してきた。しかし米国離脱後、米国の通商交渉方針は未だ明瞭でない部分も多いが、明確なことは、米国がTPP12に復帰(もしくはTPP11に加入)する可能性は当面ないということだ。
現在、米国の通商交渉の優先順位と2018年中のタイムテーブルを整理すると、以下のようになる。
(1)通商拡大法232条の発動
(2)知的所有権侵害への通商法301条の発動
(3)NAFTA再交渉および米韓FTA再交渉
(4)日本との二国間交渉(日米FTA
日本との新協議については6月から本格化するが、秋の米国大統領選中間選挙に向けて成果を打ち出したいトランプ政権としては、日米交渉の中で明確な成果を上げるべく要求してくることは必至である。
 日本政府は、「米国がTPPに復帰するよう働きかける」とともに、その手段の一つとして「TPP11を早期発効させる」としている。つまり、TPP11を発効させ参加国を増やし、RCEP等の他のメガ協定も次々と発効させてゆけば、米国はその経済効果の恩恵を受けられないことを回避するためTPPに復帰してくる、というシナリオである。経済的利益が激減したTPP11を日本政府が推進する最大の理由の一つは、このことであるといってもいいだろう。
 しかし、このシナリオは果たして起こり得るだろうか? トランプ大統領の言動や米国のこれまでの動きを分析する限り、現時点では相当に楽観的な想定であると言わざるを得ない。より現実的なのは、TPP11や日EU経済連携協定が発効することで米国が危機感を抱いたとして、逆に日本など他国に対して、二国間でより強硬な姿勢で要求を高めてくることだ。
事実、米国から日本への要求はTPP11の進展に合わせるかのように具体的になってきている。米国通商代表部(USTR)が2018228日に公表した『2018年通商政策課題』においては、対日政策として「慢性的な貿易障壁・不均衡・貿易赤字に対処するために、対等で確かな市場アクセスを追求」すると記載されている[1]。実際、これまでの経済対話においても、米国が「非関税障壁」と批判する日本の騒音・排ガス検査については、日本がすべての国からの輸入車を対象に、現在の「50台に1台」の検査割合を減らす方向で合意がなされた他、両政府は米アイダホ産ジャガイモと日本産の柿について互いに輸入制限を解除することでも合意してきた。
また毎年3月末に提出される『外国貿易障壁報告書2018』において、日本に関する記述から「TPP」という文言は消え、「米国輸出にかかる幅広い日本の障壁を除去することを求めていく」としている。その上で、2017年に行なわれた原料原産地表示制度(COOL)改正に関して、「米国の輸出食材に悪影響を及ぼす潜在性がある」と指摘する他、これまでも繰り返されてきた要求項目(収穫前後で使用される防かび剤の要件、ポテトチップ用ばれいしょの輸入停止措置、米・小麦・豚肉・牛肉の輸入制度、日本郵政・共済などの金融保険サービス、知的財産権分野、医療機器・医薬品分野)の障壁を指摘している。
米国は経済対話の場であれ、今後の日米協議の場であれ、対日貿易赤字の解消のためこれらの中から様々な要求をしてくるであろう。以下は具体的にその例として考えられる内容である。

1.農産物輸出団体の要望
 201727日、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)と全米豚肉生産者協議会(NPPC)は、トランプ大統領に対し、日米FTA交渉の早期着手を要請する書簡を送った。米食肉業界は対日輸出の増加を目指しており、同年210日の日米首脳会談を控え、トランプ氏に日本への交渉提案を促す狙いがあったとみられる。
 当初、両業界団体はTPP協定を支持していたが、米国離脱後は日米FTAの推進に方針を転換している。書簡は「日本には米国産の牛肉、豚肉に強い需要がある。関税撤廃・削減などが行われれば、我々の存在感が大きくなる」「日本と包括的な協定を結ぶことができれば、牛肉と豚肉だけでなく多くの分野で重要なFTAとなるはずだ」と指摘。TPP合意では日本を中心とした各国の市場開放で米国内に9000人近い新規雇用が見込まれていたとして、雇用創出効果を強調した。
 また201726日には、コメや乳製品を含む米食品・農業関連企業や業界など87団体もトランプ大統領に書簡を提出。日本には直接言及していないがTPP合意をもとに各国に市場開放を求めるよう要請している。もちろん米国のコメ、牛肉・豚肉、大豆輸出業界は一方で米国がTPP交渉で得た関税撤廃などの利点を損なわないため米国のTPP復帰を望みつつ、それが実現しないのであれば二国間FTAでの条件獲得をトランプ政権に要望している。最近の動きで言えば、米中の関税報復合戦の中で中国が米国産豚肉や青果物、ワインなどに最大25%の関税を上乗せしたことは、米国輸出団体にとって死活問題であったため、トランプ大統領への不満が噴出した[2]。とりわけ米国農業にとって大きな打撃となるのが大豆である。米国から中国へ輸出される農産物の中で大豆の輸出額は突出している。この結果、「中国がダメならば日本へ輸出を」という声が高まる可能性もあろう。

2.製薬業界の要望
製薬業界も日本に対して厳しい批判をしている。米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、2018216日、米国通商代表部(USTR)に意見書を提出し「スペシャル301条報告書2018[3]」の中で日本を「優先監視国」に指定するよう要請した。PhRMAは日本を「優先監視国」に指定すべき理由として、意見書の中で①新薬創出加算の不適切かつ差別的な見直し、②特例拡大再算定や最適使用推進ガイドラインなど、懸念のある改革の実行、③薬価制度改革に関して、業界が意見を述べる機会が与えられないなど政策決定の透明性の欠如、④毎年改定や費用対効果評価をめぐる議論などによる予見性の欠如を挙げている。特に新薬創出加算の新要件に関しては「市場アクセスの障壁」として詳細に触れ、特に企業要件については日本企業に有利に働く要素があると指摘。内外資企業を公平に扱う義務に反すると厳しく批判している。
USTR1974年米国通商法に基づき外国貿易障壁報告書(NTEレポート)を毎年3月末に作成、議会に提出している。スペシャル301条報告書はNTEレポートの提出後30日以内に公表し、知的財産権保護が不十分な国や公正で公平な市場アクセスを認めない国を、警戒レベルの高い順に「優先国」「優先監視国」「監視国」として指定するものである。
結果的に、日本は上記の監視国・優先国には挙げられていないが、同報告書の中には日本に関する指摘が複数個所存在する。2018年の同報告書の中でUSTRは、「医薬品や医療機器の価格設定や払い戻し政策に関して、透明性と公平性を確保し、その他の懸念事項に取り組むために日米経済対話の文脈において日本と提携していく」(傍線筆者)としている。このことから、米国にとってのこの課題は、日米経済対話および新協議の中で当然持ち出されるものと考えられる。
これに呼応して2018412日、来日した米国研究製薬工業協会(PhRMA)のロバート・A・ブラッドウェイ会長(米アムジェン会長)は記者会見で、日本の薬価制度の抜本改革について「将来に深刻な影響を与える」と強調した[4]。これまでグローバル企業の経営陣は日本について「予見可能性が高く、イノベーションに報いる国」と評価していたが、今は懸念を強めているといい、「今後も制度改正を重ねることで予見可能性が損なわれるのなら、日本以外の他国に投資しなければいけなくなる、投資家の理解を得られなくなる」などと訴えた。氏はスペシャル301条報告書への提言同様、新薬創出加算について日本の制度見直しによって対象品目が40%削減されたことを問題視。また「3年以内・3番手以内」と市場に出した早さでイノベーションを評価する手法についても不適切だと指摘した。企業要件が中小企業に不利なことや、PhRMA加盟日本法人の過半数が「区分1」を取れなかったことなども紹介し、「イノベーションの阻害は対日投資にマイナス影響を及ぼす」と危惧した。

3. 地理的表示(GI)関する米国の利益保護
 スペシャル301条報告書では、EUが日本をはじめ他国との間で積極的に推進する地理的表示(GI)も指摘されている。EUとの間で農産物加工品の貿易赤字を抱える米国にとって、地理的表示が適用されるEU製品の拡大は脅威であり、これらへの対応として、EUに対してはもちろんのこと、EUFTA/EPAを締結・交渉中の日本、カナダ、メキシコ、マレーシア等多数の国に対しても、米国の製造者が不利にならないような措置を求めていくとしている。このことは早急に日米協議の対象とはならないかもしれないが、日EU経済連携協定の中で、EUおよび日本が地理的表示を推進してきた経緯からも注意が必要であろう。

4.米韓FTAからの教訓1-自動車
米韓FTA再交渉では、韓国製のピックアップ・トラックの関税の撤廃期限がこれまでの2021年から20年も延長された。ピックアップ・トラックは米国で人気の車で、ゼネラル・モーターズ(GM)などの米国メーカーも生産しており、自国産業の保護が優先された形だ。一方で、韓国側が輸入できる米国車の台数の引き上げでも合意した。自動車産業は、米国でも製造業の象徴的な存在に位置付けられ、雇用の大きな受け皿だ。日本とのFTA交渉になれば、米国車が日本でより多く販売されるよう規制緩和や税制などを含めた制度の見直しを迫ってくる可能性が高い。

5.米韓FTAからの教訓2-為替操作禁止条項
 米韓FTA再交渉では、米国の要求で通貨安の誘導禁止(いわゆる為替操作禁止条項)も合意した。これによって韓国政府は、急速なウォン高が進んでも競争力を回復させるために為替介入の手段を取ることは非常に困難となる。米国はメキシコ、カナダとのNAFTA再交渉でもより強制的な為替条項の明記を要求している。日本とのFTA交渉でも、為替問題が取り上げられる可能性がある。
 米国議会に半年ごとに提出される外国為替報告書で、すでに日本は5回連続で「監視対象」に指定されている。TPP12交渉時にも、為替操作禁止条項の行方が一時注目されていた。米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は6月に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決める見通しであり、日米の金利差が開けば金利の低い方の日本の円を売ってドルが買う動きが強まり円安ドル高が進行する。利上げをきっかけに、円安に対する不満が高まる恐れがある。

6.米韓FTAからの教訓3-鉄鋼・アルミ問題
 一方、米韓FTA再交渉で韓国が獲得したのは、鉄鋼の輸出を控える代わりに、米国が発動した鉄鋼・アルミニウムの輸入制限から除外されたことである。しかしそもそもこの輸入制限自体は、米国が仕掛けてきたことであり、輸入制限からの除外といっても以前の貿易環境に戻っただけである。逆にこの原状復帰措置を得るために、鉄鋼輸出の抑制や自動車や為替操作禁止条項を呑んだということであろう。日本は鉄鋼・アルミの輸入制限の対象とされ続けているが、国内産業への影響がさほどないという消極的理由から、米国WTOへ訴える措置もとっていない。2018417-18日の日米首脳会談において、安倍晋三首相はトランプ大統領に対し、日本は米国の同盟国であり、日本の鉄鋼・アルミ製品輸出が米国の安全保障に悪影響を与えることはないこと、高品質の日本製品が米国産業や雇用に貢献していることなどを訴え、適用除外を求めたが、同大統領は引き続き日米間で議論を行なうとして、日本を苦に別適用除外とすることを認めなかった。今後、韓国と同様、二国間交渉の中でこの措置の現状復帰のために別のものを譲歩していくことが懸念される。

 2018515日付の日本経済新聞に次のような記述がある。
TPP11では、発効まで米国との2国間交渉に進まないとの申し合わせがある。合意を主導した日本が約束破りをすれば一気に信頼を失いかねない」[5](傍線筆者)。日本政府がCPTPP発効前に米国との交渉に入れない事情を説明しているわけだが、しかし事実、20186月から新協議はスタートする。まさに袋小路の状況にあるのではないか。
 



[1] USTR, 2018 Trade Policy Agenda and 2017 Annual Report of the President of the United States on the Trade Agreements Program  https://ustr.gov/sites/default/files/files/Press/Reports/2018/AR/2018%20Annual%20Report%20FINAL.PDF
[2] 「米中貿易摩擦 ヒートアップ 高関税で農業標的中国が“揺さぶり” 米国の業界団体 政権への不満募る」日本農業新聞 201848日 https://www.agrinews.co.jp/p43759.html
[4] PhRMA会長、日本市場に強い懸念 薬価制度改革で 投資の見直しも」日刊薬業2018412https://nk.jiho.jp/article/132119
[5] 「袋小路の通商戦略 日米FTAに戦々恐々」日本経済新聞2018515

2017年8月21日月曜日

インタビュー/RCEPの現状―インド・ハイデラバード会合を受けて

2017年7月下旬にインド・ハイデラバードで開催されたRCEP交渉会合に、国際NGOの一員として参加してきました。下記は、『連合通信』に掲載いただいたインタビューを同紙に転載許可をいただいたものです。


◆170819・〈インタビュー/RCEPの現状〉
交渉は行き詰まっている
アジア太平洋資料センター 内田聖子代表理事

 「TPP(環太平洋経済連携協定)がダメならRCEP(東アジア地域包括的経済連携)だ」といわれてきた。日本を含む大型の自由貿易協定だが、交渉の内容が報道されることはあまりない。7月の第19回交渉会合に合わせてインドを訪問した、NPO法人・アジア太平洋資料センター(PARC)の内田聖子代表理事に現状を聞いた。

●RCEPは今、どんな段階にあるのですか?

 16交渉分野のうち、合意できたのは2分野だけ。今年は神戸(2月)、フィリピン(5月)、インド(7月)と交渉会合を重ねていますが、膠着(こうちゃく)状態にあります。
 当初は2015年末の妥結を目指したものの、まとまらず、17年末の目標も絶望的です。来年前半までには妥結したいといいますが、さてどうでしょうか。

●なぜ、交渉がまとまらないのですか?

 原因の一つは関税問題です。インドと中国、特にインドは農産物で平均33%もの高い関税を課しています。ですから、高水準の自由化を目指すRCEPには簡単に乗れない。インドが懸念するのは、先進国からの圧力だけでなく、関税引き下げによって中国から農産物や工業製品・資材が大量に流入することです。
 もう一つの要因は、サービス分野でインドと他国との合意が難しいことです。インドはIT産業が盛んで、技術者も多い。政府としてはこのIT技術者を労働力として海外に出したい。国境を越えた技術者の移動の自由を要求しています。ところが、他の多くの国はビザ取得などで高いハードルを設けており、困難に直面しています。
 3番目が知的財産権をめぐる問題です。リーク文書によれば、日本や韓国は知的財産権保護を強めるTPP水準の規定を求めていますが、インドとASEAN(東南アジア諸国連合)はこれに反発しています。
 焦点は医薬品の特許問題。TPP並みに特許期間を長くすれば、安いジェネリック薬品がつくりにくくなるため、エイズ患者や国境なき医師団、タイやマレーシアの市民グループは日本に対して怒りと不信を表明しています。背後にいる日本の製薬企業も批判の対象になっていました。
 4番目がISDS条項の扱いです。多国籍企業と進出先の国との紛争を解決するシステムですが、インドとインドネシアはこれに批判的です。インドは個別の協定で既に欧州の企業から二十数回も訴えられていて、もうこりごりなのだといわれます。例外の多い緩やかな紛争解決システムを提案していますが、日本とニュージーランドが「受け入れられない」と反対しています。

〈用語解説〉RCEP

 アジア・太平洋地域の16カ国が参加する包括的な経済連携協定。ASEANが提唱し、2012年11月に交渉がスタート。実現すれば、人口34億人(世界の半分)、国内総生産(GDP)20兆ドル(世界全体の約3割)を占める広域経済圏が誕生するといわれています。TPPと同様、物品貿易やサービス貿易、投資などの自由化を目指していますが、RCEP交渉には米国が参加していません。


●どの国がRCEP交渉を引っ張っているのですか?メディアでは中国だといわれていますが。

 「TPPは米国主導。RCEPは中国主導」といわれますが、そんな単純な話ではありません。今までのところ、中国がけん引している気配は感じません。インドが重要な存在であり、けん引という点ではむしろ日本だと思います。
 確かに中国は「一帯一路」政策(※)の中にRCEPを位置付けており、積極的になってきた側面はあるでしょう。例えば、電子商取引の分野です。中国でネット通販などを手がける大手のアリババは人工知能(AI)や、インターネットを介したクラウドシステムの開発にも力を入れています。一方で、中国には多くの規制が存在し、中央と地方でルールが違うという国内事情もあります。国有企業をどうするかも不明で、これが弱み。一気に是正するのは困難で、中国が交渉をリードしているとはいえません。

●16カ国の力関係はどうなっているのですか?

 ASEAN諸国はおおむね結束しています。この地域の平和と安定を守ろうという共通の意思があります。
 TPP交渉に参加していた日本、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国と、韓米FTA(自由貿易協定)を持つ韓国の合計4国は「有害グループ」。問題の多いTPPなどの水準をRCEPに持ち込んできた国々です。
 その他に、インド、中国という大国があり、四つの大きな塊があると見ています。特にインドがいろんな意味でキャスチングボートを握っています。

●日本はどう関わるべきでしょうか?

 まず、途上国から最も忌み嫌われている国が日本なのだという事実を直視することです。TPPの時には「(農産物関税などで)米国から攻められる日本」でした。でも、RCEPでは日本の食の安全・安心や農業がダメージを受けるとは必ずしも指摘しにくい。逆に「アジア諸国を攻める日本」になっているのが実態です。日本は途上国の市民社会から批判されており、そのことを私たちは考える必要があるでしょう。
 国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」に照らして考えてみたい。医薬品へのアクセス、水、教育、そして持続可能な開発。これらを広く保障していこうという国連の取り組みです。日本は先進国としてそれを支援していく責任があります。
 今の日本のやり方はTPPルールの押し付けであり、国連の開発目標と矛盾するのではないでしょうか。
 RCEPについて考えるとき、日本はアジア太平洋を平和で安定的な地域にする方向で、どんな貿易ルールがいいのかを提案していくべきです。政策を担当する人たちやメディアの人々を含めて、考えてほしいと思います。

〈用語解説〉一帯一路

 中国の習近平国家主席が2013年に提唱した経済圏構想。一帯は中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」。一路は中国沿岸部から東南アジアやインド、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」を指します。関係国に対し、インフラ投資や融資を行い、市場拡大を図るのが目的といわれます。

「連合通信・隔日版」

2017年7月9日日曜日

【日欧EPA 大枠合意】日本政府は、「中核市」48市の調達市場へのEU企業の参入を開放

 日欧EPAの「大枠合意」の中で、マスメディアでは主に農産物関税と自動車の話題しか伝えらえていない。
 しかし非関税(ルール)部分でもTPPと同程度の分野がカヴァーされており、その内容は私たちの暮らしや地域経済にも影響を与える。
 すでにEU側は、日欧EPAの「大枠合意」の発表がなされた76日に、欧州委員会のウェブサイトにて「合意の概要」とともに一部の章の「交渉テキスト」を公開したことは拙ブログ「欧州委員会は、日欧EPAの交渉テキストを一部公開。日本政府はただちに情報開示をせよ」(2017年7月7日)にてお伝えした通りである。
 
 また農水省のウェブサイトには、農林水産物の輸出入に関した「日EUEPA農林水産物の大枠合意の概要」
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/renkei/fta_kanren/f_eu/ 等の文書が公開されている。

 外務省の「ファクトシート」は15ページからなり、各分野での交渉結果の概要がまとめられている形になっているが、EU側の文書と比較すれば、圧倒的に内容が少ない。今後は両政府の発表文書を量・質的に比較する必要がある。また先述のブログで触れた通り、EU側は「概要」の発表と同時に、10分野の交渉テキストまでも公開していることと比べれば、日本政府の側の情報開示は不十分だと言わざるを得ない。引き続き、公開を求める声を私たちも届けていかなければならない。

 このように、「大枠合意」という旗が振られたものの、交渉内容については今も概要しかわからない。しかも日本政府の文書には触れられていない分野も存在する。明らかなのは、農産品での大幅な譲歩によって、特に畜産農家は大変な打撃を受けることである。

 ではそれ以外の分野はどうなっているのか。ここではEU側の発表資料および日本政府の発表資料、国内外の報道等の情報から内容を分析してみる。

今回は、「政府調達」に関する分野である。以下は、日本政府の「ファクトシート」からの引用である。

4)政府調達
●日EU共にWTO政府調達協定(GPA)に加盟していることから,GPAでそれぞれが約束している調達機関や物品・サービス等を基本とし,日EU供給者の政府調達市場への参加を促進するため,日EU双方が市場アクセスの改善を実現した。例えば,日本側は,都道府県・指定都市が設立する地方独立行政法人等に対象を拡大,また,中核市の一般競争入札による一定基準額以上の調達(建設サービスを除く)に限り,これまでどおり入札参加者の事業所の所在地を資格要件として定めることを可能としつつ,EU供給者も参加できるようにするなど,WTO等の現行の国際協定とは異なる特別なルールを適用する。EU側は,フランス等の13の国の調達機関を新たに対象として追加する。
●日EUともに競争力を有する鉄道分野の政府調達についても,市場アクセス拡大のための措置を双方がとることとなり,日本側が安全注釈(運転上の安全に関連する調達をGPAの対象外とすることができる注釈)を撤廃し,EU側は,GPAでは日本企業を除外できるとしている車両を含む鉄道産品の一部の調達市場を日本に開放する。
※出典:「日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシート」(外務省経済局、平成29年7月6日) http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000270758.pdf

 また以下は、ほとんどの報道が農産物関税あるいは自動車関税という状況の中で、数少なく政府調達分野について書かれた記事である。

 政府調達で対象拡大=中核市の一部事業開放-日欧EPA
  6日大枠合意に達した日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉では、物品購入の発注などの政府調達分野も決着した。日本が、人口20万人以上の中核市が実施する一部の競争入札を欧州企業に開放する。政府調達の対象拡大を求めるEU側に譲歩した格好だ。
 世界貿易機関(WTO)協定は、国などが行う公共事業や物品購入を対象に国際入札を義務付けている。日本の地方自治体では都道府県や政令指定都市が対象で、中核市は外れている。
 大枠合意によれば、日本は、EUをWTO協定の例外扱いとする形で新たに特別ルールを作成。中核市が行う一般競争入札による一定基準額以上の調達に限り、欧州企業の参加を認める。建設サービスは除く。自治体の負担軽減のため、入札公告の英語表示は義務付けないという。

時事通信記事 http://www.jiji.com/jc/article?k=2017070700004&g=eco

 
この分野は、日欧EPA交渉が始まった2013年当初から、EU側が全市町村を対象にするよう強く日本に求めていた市場開放部分だった。日本政府もある程度の段階までは、簡単に受け入れてはおらず、難航している分野として、私も認識していたが、「大枠合意」の蓋を開けてみれば、日本がEU側の要求を呑み、譲歩した結果となっている。

 実際、EU側が発表した「合意の概要」にも、このことは明記されている。以下がその部分の拙訳である(赤字は筆者)。

【6 調達】
新たな市場アクセスに関して、最も重要な点は、日本がいわゆる「中核市」(人口約30万人の48市、日本の人口約15%を占めている)における調達を、非差別的な体制で行う約束を受け容れたことである。EUは同様の約束を準中央レベル(sub-central level)で行うことに合意した。両者はまた、これまでそれぞれのGPAでの約束から免除されてきた病院と学術機関についても約束をした。
原文:http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2017/july/tradoc_155693.doc.pdf

「中核市」について、EU側文書では「人口約30万人の48市」とされている。しかし「中核市」の定義とは、「特別の権限が与えられた人口20万人以上の都市」であり、現時点では48市である。EU側の記述と若干異なるのだが、実は2015年からの制度改革により、中核都市の定義は従来の人口30万人以上から基準を引き下げ20万人となっており、現在、松江市など15市が「中核市」移行を準備している。つまり「中核市」は将来的に対象都市が拡大していくことになるのだ。
 この日本における改訂がEU側文書には反映されていない可能性が高いのだが、しかしいずれにしても、今回、日本政府が日本の「中核市」へのEU企業の調達市場への参入」を認めたという事実には変わりがない。
これはWTOの政府調達協定(GPA)を大きく上回る形で、EU側を「特例」とした結果であり、重大な譲歩である。これまでは都道府県と政令都市、その他機関の範囲だけに開放されていた外国企業の国際入札が、一気に「中核市」にまで広げられることとなる。仮に日欧EPAが発効すれば、これら中核市の物品やサービス購入には、外国企業が国際入札できることとなる。該当する自治体としては「寝耳に水」という状態であろう。しかし秘密交渉の中でこれらは日本政府によって決められた。EU側が出している別文書では、この開放は「大きな成果」としてアピールされている。http://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2017/july/tradoc_155719.pdf

日欧EPAは少なくとも年末までは交渉が続く見込みであり、実際に発効できるかどうかも不明だ。現時点では、発効したとして具体的にどのような形でどれだけの数のEU企業が入札に参入してくるのかも見通せない。だが、少なくとも日欧EPAEU側がこの件をこれまで以上に強く主張したのは、日本の中核市までを含む調達部分に積極的に参入していきたいという産業界の要望が背景にあるからに他ならない。

 なお、調達額については、報道およびEU側文書には記載されていない。WTO政府調達協定(GPA)では、国、地方政府、その他の機関それぞれに入札の際の基準額が定められている。今回適用拡大された「中核市」の基準額については不明だが、おそらく、既存の「地方政府」の基準額があてはめられるか、新たに「中核市」の基準額が設定されるかのどちらかだろう。後者の場合は、当然その基準額は「地方政府」のそれよりも低く設定されるだろう。
参考:既存の国際入札基準額:外務省ウェブサイト
http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/shocho/chotatsu/kijyungaku.html

なお報道で「中核市」 とだけいわれても漠然としているので、具体的に現時点での中核市48市を以下に列挙する。下記に該当する地域の公共サービスや物品調達に関わっている事業者の方、そこで働いている方には関心と注意を促したいと思う。

●日本の中核市(2017710日現在)
函館市/旭川市/青森市/八戸市/盛岡市/秋田市/郡山市/いわき市/宇都宮市/前橋市/高崎市/川越市/越谷市/船橋市/柏市/八王子市/横須賀市/富山市/金沢市/長野市/岐阜市/豊橋市/岡崎市/豊田市/大津市/豊中市/高槻市/枚方市/東大阪市/姫路市/尼崎市/西宮市/奈良市/和歌山市/倉敷市/呉市/福山市/下関市/高松市/松山市/高知市/久留米市/長崎市/佐世保市/大分市/宮崎市/鹿児島市/那覇市
出典:「中核市市長会」のウェブサイトより。http://www.chuukakushi.gr.jp/introduction/



2017年7月7日金曜日

【日欧EPA 大枠合意】 欧州委員会は、日欧EPAの交渉テキストを一部公開。日本政府はただちに情報開示をせよ


 昨日(7月6日)、日欧EPAの「大枠合意」に達したことは多くのマスメディアが報じています。これまでも日本では「チーズとワインが安くなる!」という話で埋め尽くされ交渉の全体像がまったく報じられません。
 しかし本日、EU側では重大な情報公開がなされました。
 7月6日、欧州委員会は「EUと日本の貿易協定:大筋合意のテキスト」と題したページを公開しました。 ここには「合意の概要」「ファクトシート」「インフォグラフィックス」と並び「交渉テキスト」(一部)が公開されました。 http://trade.ec.europa.eu/doclib/press/index.cfm…

’(なお日本政府は「大枠合意」という、あまり聞き慣れない単語を今回使用し
ています。しかしEU側文書では「The Agreement in Principle」であり、私は
「原則的合意」と訳しています。「大枠合意」という単語を使うのは、おそらく、より交渉が進展したかのような印象があるためでしょうか)

 まず「原則的合意の概要」。15ページからなるこの文書は、今回の「合意」の全体像が説明されています。すべての章に触れているわけではなく、以下の章の説明があります。

 1)関税
 2)非関税措置
 3)原産地規則
 4)サービス
 5)企業統治
 6)政府調達
 7)知財
 8)地理的表示
 9)競争/補助金/国有企業
 10)貿易救済
 11)技術的障害
 12)税関/貿易円滑化
 13)国家間紛争解決
 14)衛生植物検疫
 15)持続可能な開発
 16)中小企業

 「原則的合意の概要」では農産物や自動車の関税の話だけでなく、非関税分野(ルール)に関する重要な合意内容が読み取れます。欧州委員会は、国会議員や市民社会からの秘密交渉についての批判に応える形で、本日の「原則的合意」を発表するタイミングでこれらの文書を公開したのです(事前に公開する旨の告知もありましたので欧州NGOや私たちも知っていました)。

 今回の「大枠合意」は、米国のトランプ大統領に向けたプレゼンスでもあり、EU側は英国のEU離脱を意識し、日本側は安部政権のポイントUPを狙うというそれぞれの思惑の上で成り立った「政治的合意」です。これを実現するために、日本は農産物をはじめいくつかの分野でTPPあるいはそれ以上の譲歩をしていると見られます。
 しかし、交渉は終わったわけではなく、特に未解決分野は今後も交渉が続きます。そうした中で、EU側は、曲がりなりにも大々的に世界に「原則的合意」を発表するのだから、情報公開も伴わなければ加盟国政府・議会、そして欧州市民に説明がつかないと判断したわけです。この判断は極めて当たり前のことだと言えます。

 例えば、「原則的合意の概要」には、次のような記載があります。
「本協定のいくつかの章はまだ交渉中である。投資に関しては、投資自由
化などいくつかの部分では基本合意がなされているが、章全体での合意には今も至っておらず、投資紛争解決の問題については完全に未解決である。EUは日本との交渉で、改革された投資裁判制度(ICS)を提案してきた。EUは旧式のISDSに戻ることはできないことを主張し続けている。いかなる条件の下でも、合意の中に旧式のISDSを含めることはできない。この点についての結論に達するためには、今後数か月間でさらなる議論が必要だ」

 このような議論になっていること、日本がTPP型のISDSに固執して難航していることなど、私たちは決して日本政府の側から説明されたことはありません。

 さらに7月6日、欧州委員会は「概要」に加え、数分野の交渉テキストも同時に公開しました。3月時点で「規制の協力」「中小企業」の2章を欧州委員会が公開したことは拙ブログで紹介した通りですが、今回さらに交渉テキストの公開が進んだわけです。 http://uchidashoko.blogspot.jp/2017/06/epaup.html

★欧州委員会が公開した日欧EPAの交渉テキスト:
 ・貿易救済
 ・貿易の技術的障害
 ・衛生植物検疫
 ・税関と貿易円滑化
 ・サービス貿易(一般規則、越境サービス貿易、自然人の移動、規制枠組、例外)
 ・投資 (自由化章)
 ・資本の移動、支払い/送金
 ・企業統治
 ・持続可能な開発
 ・中小企業

 これだけのテキストの公開は大きな「進歩」でしょう。もちろん全分野ではないので不十分だと欧州NGOは指摘しています。

 翻って、日本政府はどうなのでしょうか。外務省WEBには岸田外相とマルムストローム氏の記念写真等はありますが、内容に関する情報はありません。
 もちろん日本政府は、農業団体や自動車業界はじめ財界・業界団体などには東京であれ現地であれ、ある程度の説明はしています。TPP交渉の際もそうでしたが、「妥結前」ともなれば農水省が数百ページの「説明書」を持って現地でJA幹部にブリーフィングをしています。
 しかしそれでは「国民に説明した」ことにはなりません。欧州委員会を手放しで評価することはできませんが、日本政府より圧倒的に情報開示が進んでいることは事実です。せめて欧州委員会と同等の情報開示を日本政府はする責任があります。

 唯一、農水省は早速情報をあげていました。http://www.maff.go.jp/j/kokusai/…/fta_kanren/f_eu/index.html 
 しかしTPP並みの(品目によってはTPP以上の)譲歩です。またEU側の発表資料と突き合わせて考察する必要がありますね。これでまた「対策予算」と言ってバラマキをするのでしょうか。

 欧州委員会が公表した「合意の概要」および交渉テキストは、急ぎ翻訳あるいは分析をしたいと思っています。拙ブログにすでに「日欧EPA」コーナーをつくって関連資料や投稿を載せていますが、こちらに随時掲載していきます。
http://uchidashoko.blogspot.jp/p/rc.html

以上