2013年1月23日水曜日

社会運動の試練―自民党政権下の反TPP運動


 20121216日の衆議院選挙で、自民党が「圧勝」し政権交代が再び起こった。多くの人がすでに指摘しているとおり、この「圧勝」とはまやかしである。主には小選挙区制と、マスコミによる「自民勝利」のムードと「入れたい議員がいない」という状況がつくりだした結果であり、有権者は決して自民党を積極的に支持したわけではない。
 しかし、自民党は勝利し、政権は変わったことはゆるぎない事実である。
 私自身は、2年前、菅首相(当時)が「TPP参加」を突如宣言して以降、TPP反対運動に取り組んでいる。農民団体や生協、労働組合、NGO、市民団体など多くの人たちとともに、議員への働きかけや集会、キャンペーン、デモなどを日常的に行ってきた。
 今から考えれば、民主党政権とはじつに「奇妙な」政権だったとつくづく思う。組織的とは決して言えず、同じ党内の議員の中でTPP反対派と推進派が深刻な対立をしていた。何よりも政権の座についた直後の理念は3年間で相当に変化し、末期の野田政権はまさに「新自由主義」政策を体現するような有様となった。だが、だからこそ、私たちのようなTPP反対の市民組織やネットワークが、党内のお家騒動や見解の根本的不一致による混乱という「どさくさ」に乗じて、反対派議員とある種の協力や共闘関係を築くことができたのかもしれない、と思う。
 年が明けてから、新たに与党に戻った自民党議員とのパイプづくりに取り組む中で、ますますそう感じるようになった。自民党政権は、極端な右翼的政策と人事、日米同盟堅持、そして経済政策としては民主党と同等のネオリベラルなものである。一時は自公民の連立という話も出たことからも、基本的には民主党時代と何ら基本政策は変わっていないというのが私の評価である。
 しかし、多くの有権者が自民党を選んだのは、「民主党のあぶなっかしさは怖い。もっとしっかりした感じの政党がいい」というものだろう。そう、確かに政策内容とは別の次元で、自民党は「しっかりした印象」を私たちに与える作戦で選挙選に勝った。事実、組織運営や党内のTPP推進派への働きかけなど見ていると、民主党にはできない「政治」を駆使している。「ああ、これが政党だよな」とうっかり感心してしまいそうになる。
 その場合、社会運動にとっての問題は、二つ。一つはそのような行動様式を持つ自民党は、たとえTPP反対派であっても必ずしも「市民社会との対話や共闘」を望んでいないという点。要は「政治は政治の世界で片づける」と思っていることだ(もちろん民主党が市民社会との協働を強く望んでいた、というわけではないが)。
 もう一つは、「TPP」「原発」などのシングルイシュー運動の限界である。自民党議員の中には、TPPに反対していても、原発容認だったり、アジア侵略の歴史を歪曲する人たちがかなりの数存在する。こうした議員と、いったい運動はどう向き合うのか。実際、TPP反対での協力要請をしに行った自民党議員の部屋には、高々と日の丸が掲げられていた。原発容認の議員もいる。そのとき私はどう反応するのか。そういうリアルな問題である。TPPは暮らしや国の在り方、文化そのものを変えてしまう可能性がある危険な貿易協定だ。ならばなおさら、「どんな社会であるべきか」という点に踏み込まざるを得ない。当然、原発やオスプレイ、その他のイシューを含むトータルな政治理念を私たちも問う必要がある。そこでどのような態度で、言葉で、私たちは語るのか。
 これらの答えはすぐには出ない。とにかく2回の政権交代ということ自体が、社会運動にとっても初体験であり、その力が試されている。妥協せず、総合的に、しかししたたかに、あらゆる政治勢力と関係をつくりながら運動を進めていく力が、求められていると思う。

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