2013年7月15日、マレーシアのボルネオ島コタキナバルにて第18回TPP交渉会合が始まった(~25日まで)。
私は3月シンガポール、5月ペルーに続き、今回も国際NGOの一員としてステークホルダー登録をし、19日~24日まで現地入りする。
現地からもできるだけ情報やさまざまな動き(特に日本の参加に関して)は発信するが、まずは速報として、20日に行なわれるステークホルダー会合について。
議長国であるマレーシアの担当局から、ステークホルダー会合にてプレゼンテーションを行なう団体・企業のプログラムが届いた。写真はそのリストである。日本のマスメディアも同じものをすでに入手しているが、おそらくその個別内容が詳細に報道されることはないだろう。その意味では本邦初公開の大速報である。ぜひ見ていただきたい。
7月20日開催のステークホルダー会合でのプレゼンリスト |
ステークホルダー会合というのは毎回の交渉にて行なわれる。TPP交渉参加国(現在は11ヶ国で日本はまだ含まれていない)のステークホルダー(=利害関係者)は事前に参加登録をすることができるしくみになっている。ステークホルダーとは本来は社会に存在するさまざまな業界、企業、市民団体、NGO、労働組合などの総体を示す。しかし、TPP交渉の現場においては、圧倒的に企業や企業連合の割合が高い。このことはすでにいろいろなところでも述べてきたが、毎回平均して約100のステークホルダーが登録をし、約200~300名が参加をしている(1団体複数の人間を登録する場合もあるので)。そのうちの8割が企業であり、私たちNGOや労働組合などの市民社会を背景として参加するのは2割と少ない。
ステークホルダーとして登録すると、TPP交渉会合が行なわれる約10日間のうち1日だけ設定されている「ステークホルダー会合」と呼ばれる日に参加資格を得る。ステークホルダー会合とは、端的にいえば「各国の交渉官とステークホルダーの出会いと交流の場」である。これもすでに述べてきたが、企業にとっては「商談」を進める場であり、私たちNGOにとってはTPP交渉の中で懸念される環境破壊や人権侵害、企業の営利追求による弊害、貧困層への悪影響などを何とか交渉官にアピールする場である。つまりステークホルダーによってその目的と位置付け、主張する内容は驚くほどに異なるのだ。
この会合の日に、希望するステークホルダーには、自らの主張を訴えるプレゼンテーションの機会を得ることもできる。1団体・企業につき15分と短い時間であるが、与えられた時間は自由に使ってプレゼンテーションをすることができる。もちろん各国の交渉官に対するプレゼンテーションであり、それ自体がその後の関係をつくるきっかけにもなり得る。全ステークホルダーのうちプレゼンテーションを行なうのは半分程度である。シンガポール交渉では約60団体が、ペルーでは約45団体がプレゼンテーションを行った。
さて今回のマレーシアではどうか。
まず、登録ステークホルダーの総数は「180」と発表されている。これは団体数ではなくおそらく「登録者数」だと思われる。また先に述べたプレゼンテーションを行なう団体・企業は約30である。つまりマレーシア交渉会合は過去2回の交渉と比べ、前提のステークホルダーの数も少ないし、伴ってプレゼンテーションを行なう数も少ない。全体的にサイズダウンといったところだろうか。
今回の交渉会合では、これまで懸案だった「知財分野」の交渉が進むといわれている。TPPを早期に妥結したい米国にとって、この知財分野はまさに「アキレス腱」だ。医薬品の特許や映画やキャラクター等のコンテンツ産業の知財保護は、米国あげての「獲得目標」の一つであるが、しかし他国も譲らない。特に今回の開催地であるマレーシアでは、企業の知財保護が強化されてしまえばエイズ患者が安価なジェネリック医薬品にアクセスできなくなるという深刻な問題を抱えている。NGOや患者支援団体はもちろん、マレーシア政府もはっきりと「企業の知財保護には反対」との態度を表明してきている。
この問題が決着すること、つまり何らかの妥協によって落としどころが見いだせることが、TPP交渉を一歩前に進める大きな要因になっているのだ。
こうした背景もあり、今回はプレゼンテーションのラインナップを見ても、圧倒的に知財関係のイシューを扱う団体・企業が多い。しかも通常であれば企業・業界団体の方が多いのだが、今回は総数も少ないこともあり、NGOのプレゼンテーションの比率が大変に高い。つまり「企業の知財保護には懸念あるいは反対」を表明するプレゼンテーションの割合が驚くほどに高いのだ(これ自体はいいことだが)。
以下が国際NGOの仲間たちが行なうプレゼンテーションとその大まかなテーマである。
●オーストラリア公衆衛生協会&La
Trobe大学
「TPPにおいてアルコールの危険を警告する商品ラベルを守るために―TBT分野との関連で」
●マレーシアエイズ会議等
「エイズ患者にとってのTPPの脅威」
●東南アジアたばこ規制連合
「たばこ規制とTPP問題」
●WWFマレーシア
「知財分野における、生物多様性を守るための例外規定について」
●アジアインターネット連合
「デジタル時代の貿易について」
一方、これらの主張と対立をする企業・主要なプレゼンは下記である。
●米国緊急貿易協会(ECAT)
→TPP交渉を熱烈に進める企業連合
●米国工業薬品研究協会(PHRMA)
→米国の主要な医薬品会社が加盟する業界団体
●モーション・ピクチャー・アソシエーション
→コンテンツ産業の利害(企業側の知財保護)を主張
●インテル社
●GE社&米国―アセアンビジネスセンター
今回はプレゼンの総数も少ないので、これら双方がどのような主張をするのかじっくりと見てきたいと思う。詳細はできるだけまとめて現地から発信します。
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