2012年10月8日月曜日

官邸前の新聞報道について

 10月3日付の朝日新聞に、「街頭へ もの言う市民 根付くか」という記事が掲載された。一面には前日の2日(火)に行われた「STOP TPP官邸前アクション」の様子が写真入りで掲載。また38面には火曜日、水曜日のアクションも紹介されている。
 この記事の取材元の一人は、私である。主に私のコメントを用いて記事が構成されているといっていい。しかし問題はその記事のストーリーだ。記事の根底に流れている視点やまなざしという言い方でもよい。
 正直、この記事を一読者として、また取材された側として読んだとき、愕然とした。一面には「金曜夜の脱原発の抗議行動から広がった動きだが、秋の訪れとともに静まりつつある」と記事はいう。続けて、「TPP参加反対の集会も、毎週火曜日の開催は2日が最後だった」と。
 さらに38面では、水曜日の「消費税増税反対・社会保障充実」の主催者のコメントとともに紹介されているが、全体として「一時的なブーム」「一過性で盛り上がりに欠け、終息していっている」という読後感を多くの人が持つ内容だった。記事では、参加者数が大きな基準とされており、100人~200人では金曜日の数万人と比べて少ない=盛り上がらなかった、という図式で語られ、各曜日の主催者(私を含め)の行動の趣旨や、運動が広がったという実感はほとんど触れられていない。
 ここで改めて考えてみたい。
 毎週、定期的に官邸前に100名~200名(最大400名)が2か月間集まった。このことは掛け値なしにすごいことではないのか。ある人物は朝日新聞の報道をうのみにして、「火曜日官邸前は終わった」とした上で「平日の夜などに普通の人は集まれない」と書いていた。しかし18:00~20:00という時間帯は会社帰りの人が来られて、かつあまり遅くならない時間としては適切だったと思う。金曜日の反原発行動がマスメディアでも報じられるようになった後、記者から「100人くらいではちょっと記事には・・・」という言葉を何度も聞いたが、「数万人」という規模に慣れてしまったマスメディアは、100人単位ではニュースバリューにならないという。そこには一人ひとりの参加者の気持ちや、それぞれの交流や得たものを聴き取ろうとする姿勢や想像力が欠如している。
 
 
 結局、突き詰めて考えると、朝日の記事には「人々の止むに止まれぬ直接行動」に対する共感も応援もなかった、ということに尽きる。たちが悪いのはだからといって否定もしていない点だ。全体として(脱原発も含め)官邸前行動を終息させたいのは、彼ら自身ではないのか、とさえ思えてくる。正面切っての否定ではなく、さまざまな要素をつなぐことで「終わった」というムードを漂わせることで、関与や責任、主体性から忌避しているのではないか。
 この記事が出てすぐ、多くの運動仲間や友人・知人からの反応があった。「載っていて喜んで記事を読んだが、驚いた。ひどい記事だ」というのが多くの意見だった。しかし一方で、「ここに書かれてあることは運動に対して否定的ではあるが、それでも『官邸前行動が原発以外にもある』ということが多くの人に知ってもらえることは意義のあることだ」という意見もある。またこんな記事は許せないので、ここに書いてある「根付くのか」という問いを事実にしてやろう、と熱く会話を交わし盛り上がったりもした。今回の件も含めてマスメディアと社会運動の関係については改めて別の機会に発信しようと思うが、とにかく、運動は今もあるし、決して後退してなどいない。むしろ官邸前をきっかけや参考にしながら、全国での直接抗議行動は驚くほどの勢いで広がっているのだ。なぜ、人々がそのように立ち上がっているのか、立ち上がらざるを得ないのか、それを深く掘り下げるのがメディアの役割であり、一方、政府や議員、官僚、財界などから我々運動側がアクセスできない情報や思惑を取材し発表することこそがメディアの役割だ。数が増えないというのであれば、なぜ増えないのかを、主催者や参加者の側の要因だけでなく、社会そのもののありようとして問うてほしかった。民主主義が機能していない、多くの人が不安や絶望やニヒリズムの中にいる、その状況こそが広がらない大きな要因であると私は考えている。それは、誰の責任なのか。
 
 

 一方、まったくの偶然であるが、朝日と同日の『日本農業新聞』でも私のインタビュー記事が掲載された。テーマは朝日新聞と同じく「官邸前行動のこれまでと今後について」である。ほぼ同じ時期に取材を受けてきたが、ここまで扱いが違うと愕然とする。農業新聞は私の意図や運動の意味をよく理解し適格にまとめていただいた。朝日新聞を読んで「びっくり」「がっかり」「???」と思った方は、ぜひ農業新聞の記事を読んで、スッキリしていただきたい(笑)。
 
TPPデモ仕掛け人 内田聖子氏に聞く (2012年10月03日)
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=16938

 首相官邸前でのデモを主宰する「STOP TPP!! 官邸前アクション実行委員会」で、PARCの内田聖子事務局長に定期抗議活動の成果と今後の方針を聞いた。
・抗議活動 さらに幅広く
 ――毎週火曜のデモをした手応えはありましたか。
 成果は主に2点ある。官邸前で行うことで、原発や消費税などに反対する人にもTPPの問題をアピールできた。個別の課題ではあっても、命より政治家や企業の利権が優先される問題だと広く認識してもらえた。国会議員官僚にも反TPP活動の高まりをアプローチできたのではないかと思う。
 デモには、福岡や長野、島根の農家やJAの方がわざわざ参加してくれた。食の安全遺伝子組み換え(GM)に反対する都会の人も多く、つながりを感じることができた。今後は、地方ともっと連携して何かできないかを探っていきたい。

 ――反省する点はありますか。
 TPPはあまりに範囲が広く、問題が伝わりにくい。例えば原発は、誰もが事故がどんな事態をもたらすかを知っているのでその危険性を発信しやすい。だが、TPPは入ったらどうなるのか、未来の危険性を具体的に伝えないといけない。その工夫が必要だということを痛感した。

 ――寸劇や映画など多彩な手法で反対活動をした手応えはどうですか。
 楽しんで反対すればいいとは思わないが、工夫しなければ、広がっていかないし、共感も得られない。こぶしを上げて訴えるだけではなく、さまざまな立場、組織と手を取り合い、つながっていきながら反対していくことが大切だと思う。
 その意味では、JAなどと共通の危機感を持っているが、まだまだ連携できると期待している。私たち市民グループはフットワークは軽いが、組織的な動きとなると弱い。JAや医師会など大きな組織と連携を強めて、もっと大きな反対のうねりをつくりたい。

 ――今後、どのような反対運動を続けますか。
 週1から月1にすることは縮小や後退ではない。毎回趣向を凝らし、より多くの組織が参加して集中的に反対をする体制を整える。今後、総選挙や米国の大統領選も控え、TPPは重要な局面を迎える。各市民グループが、定期デモ以外の反対活動を進めていく必要もある。そのためにも、月1回にして、情報共有の場にもしたい。
 反TPPを願う地域の声を広げ、地域同士の連携をバックアップするような行動を起こすことを考えていく。

★うちだ・しょうこ 1970年、大分県別府市生まれ。2006年から現職。4月の「STOP TPP!! 1万人キャンドル集会」の開催など、市民によるTPP反対活動を主導する。
 

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