2013年4月21日日曜日

TPPで日本はどこまで「奪われる」のか?―「日米事前協議」の今後を「USTR貿易障壁報告書」から読み解く


「秘密」と「ごまかし」に包まれたTPP日米事前協議については、すでに発信した。このままでは、「何が本当に決まったのか」「これから何が起こるのか」、私たちにはまったく知らされないまま、日本がTPP交渉に参加してしまう危険性がある。事前協議の段階で、すでに何の国益も守れていないどころか、日本は自動車や保険、非関税措置などについての内容を米国に差し出していることは明らかになった。USTRの発表文書には、これら日本の譲歩内容について「日本が『一方的に』表明した」と書かれている。これを私は屈辱と怒りを持って改めて読む。

 さて「自動車」「保険」などの個別具体的な項目については、米国の発表ではかなり詳細な合意内容が書かれている。非関税措置についても、日本は「保険」「透明性/貿易円滑化」「投資」「規格・基準」「衛生植物検疫措置」5つの項目だけだが、米国側はこの5つに、「知的財産権」「政府調達」「競争政策」「急送便」の4つを加えた9項目を挙げている。米国側はより明確に9項目を今後の二国間交渉のテーブルに乗せる、としているのだ。

 そしてすでに述べたように、米国側は「今後も非関税措置については交渉項目が増える可能性がある」と言及している。

 この間、このことについていくつかの質問を受けた。
「挙げられた9項目以外に、どんなものが対象となるのか?」という問いだ。

 ある根拠をもって、これに答えることができる。
 今回はこのことをできるだけ多くの人に知ってもらいたい。

「USTR外国貿易障壁報告書2013」
 米国代表通商部(USTR)は、「外国貿易障壁報告書」(National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers:通称「NTEレポート」:注1)という文書を毎年3月末にリリースする。USTR1974年の米国通商法(The 1974 Trade Act)に従い、大統領と上院財政委員会、そして下院のしかるべき委員会に対して、外国の貿易障壁に関する報告書を提出する義務を負っている。報告書には、米国のモノ、サービスの輸出、米国民による直接投資及び知的財産権の保護に影響を与える「外国の貿易障壁」が取り上げられる。

 平たくいえば、「米国の貿易の邪魔をしている世界各国の国内法や制度、慣行」集だと思えばよい。400ページにも及ぶ膨大な報告書であり、2013年度は世界61か国の「貿易障壁」が挙げられている

 最初に押えておきたいことは、この61か国の中でも、「日本」と「中国」の貿易障壁については圧倒的に分量が多い。割かれているページ数はどの国も平均して58ページであり、少ない国は2ページほどしかない。

 しかし中国は41ページと際立って多く、次いで日本が16ページとなっている。つまり米国の貿易にとって「やっかいな国」は中国と日本なのだ。当然、この両国が挙げられる理由は、世界経済トップクラスの国であるからでもある。経済規模が小さい国の「貿易障壁」を一生懸命に取り除いたところで、結果的に輸出や投資ができる規模が小さければ、米国にとって意味がないからだ。

 さて「日本の貿易障壁」についてである。

 すでに外務省は、2013年度の「外国貿易障壁報告書」の日本についての項目を日本語に仮訳しウェブサイトに掲載している(注2)。
 

基本的に、ここで挙げられたおびただしい数の項目は、米国にとっては「取り除きたい」日本の国内規制や法律、慣行だ。列挙してみよう。項目だけではわかりにくい内容もあるが、上記の日本語仮訳にある程度内容が示されているのでそちらを参照されたい。

1 輸入政策
 (1) 牛肉輸入制度
 (2) コメ輸入制度
 (3) 小麦輸入制度
 (4) 豚肉輸入制度
 (5) 牛肉セーフガード
 (6) 水産品
 (7) 牛肉,かんきつ類,乳製品,加工食品への高関税
 (8) 木材及び建築資材
 (9) 皮革製品・靴
 (10) 税関問題★

2 サービス障壁
 (1) 日本郵政★
 (2) 保険★
   ア かんぽ生命
   イ 外国保険会社の現地法人化
   ウ 共済
   エ 保険契約者保護機構(PPC
   オ 保険の銀行窓口販売
 (3) 他の金融サービス
 (5) 電気通信 
   ※日本政府仮訳では(4)が抜けているので仮訳原文ママ(5)とする
   ア 固定回線相互接続
   イ 支配的事業者規制
   ウ ユニバーサルサービス
   エ モバイルターミネーション(携帯電話接続)
   オ 新しい移動体無線免許
 (6) 情報技術(IT)
   ア クラウドコンピューティング
   イ 医療IT
   ウ プライバシー
    IT及び電子商取引
   オ 海外からのオンライン・コンテンツの消費税
 (7) 司法サービス
 (8) 教育サービス

3 知的財産保護★

4 政府調達★
 (1) 建設,建築及び土木工事
 (2) 情報通信(IT)の調達

5 投資障壁★

6 反競争的慣行★
 (1) 独占禁止の遵守及び抑止の向上
 (2) 公正取引委員会の手続的公正と透明性の向上
 (3) 談合撲滅のための手段拡充

7 その他分野及び分野横断事項の障壁
 (1) 透明性★
   ア 諮問機関
   イ パブリックコメント
   ウ 規制と規制執行の透明性
 (2) 商法 
 (3) 自動車関連★
 (4) 医療機器及び医薬品
 (5) 栄養補助食品
 (6) 化粧品及び医薬部外品
 (7) 食品及び栄養機能食品の成分開示要求
 (8) 航空宇宙
 (9) ビジネス航空
 (10) 民間航空
 (11) 運輸及び港湾


繰り返しいうが、これらはすべて、「米国が、米国にとって障壁になると指摘する日本の法律・制度・慣行」だ。ここに挙げられた項目は、これまで何度も繰り返し、「障壁」とされ取り除くよう圧力をかけられてきた。ここまでの数を挙げられれば、まるで「お前の国は保護主義で規制だらけ。ありとあらゆるものが、米国の利益にまったく寄与していない」といわれているようなものだ。
そもそも、なぜ米国は他国の社会・経済・文化的な背景からつくられた法律や制度を、「障壁」などという権利があるのか、根本的に疑問だ。一つ一つの項目の文面を読んでいくと、なぜここまで米国に「問題だ」といわれなければならないのか、怒りがわいてくる。それほどにまで、この報告書は米国からの一方通告なのである。もちろん、人に指摘をされて気づく、ということは一般社会でもあるので、もし私たちが主権者として総合的に検討した上で「こうした法や規制はやはりない方がいい」と思えば、変更することはあり得るだろう。しかし、米国による、自由貿易のさらなる推進のための、しかも米国の利益を守るためにこれら規制緩和が行なわれるのだとしたら、それは主権の侵害であり、日本政府自らが国内的な議論も経ずにその要求を受け入れるのであれば、主権の放棄といわざるを得ない。

重大なことは、TPP事前協議で挙げられた項目はほぼすべてこの「貿易障壁報告書」に載っているということだ。事前協議で挙げられた9項目には★印をつけたので参照されたい。事前協議でまだ挙げられていない項目はそれ以外のすべてだ。当然、米国は今後も次々とそれら項目の中から非関税措置などの二国間協議にて「この障壁を取り除け」と要求してくる可能性は高く、とても9項目で済むどころの話ではないのは、誰の目から見ても明らかだ。

おそらく日本政府は、「仮に米国が次々と非関税措置の二国間交渉を持ちかけてきても、日本政府がすべてを丸のみするわけではない」と反論するだろう。しかし、すでに起こっている「事実」として、TPP事前協議において、何としてでもTPP交渉に参加したいと焦る日本政府は、米国の要求をいくつも「丸のみ」した。「次からは大丈夫」という言葉は、まったく信用できない。

さらに最も重要なのは、今後、TPP交渉と並行してこの二国間事前協議が進むということだ。TPP事前協議では、「二国間協議はTPP交渉が終わるまでに済ませる」とされている。現段階で、米国はTPP交渉の妥結を、日本の参加の有無にかかわらず遅くとも2013年中ということを目指している。つまり、そのゴールに合わせて、今後ここで挙げたような領域での日本との非関税措置交渉を急ピッチで進めていく危険性があるということだ。

事前協議で設定された、この「TPP交渉と二国間協議」の二本立ての交渉ラインというのは、まさに米国による「罠」であると私は考えている。言い換えれば、日本は「TPP本交渉とセットで、米国が長年指摘してきた『貿易障壁』を片づけないとダメだ」と確約させられたのだ。

 TPP交渉の実態は、「秘密」と「嘘」に塗り固められている。しかし例えば今回取り上げたように「貿易障壁報告書」などすでに出されている情報をもとに、TPPは不正・不平等であり、主権を脅かす危機そのものだということが、「誰にとっても明らかな事実」として伝えることは可能だ。私たちにできることは、参加表明撤回と、TPPそのものを葬り去るために、さらに多くの秘密と嘘を暴露し続けることだ。
 
 
 

 

1 件のコメント:

  1. いつも貴重な情報をお知らせいただき、感謝します。
    ところで、注:1のリンクについてですが、かなり重いです。
    PDFで406ページあり、全文英語でした。
    あらかじめ、分かっていればクリックしませんでした。
    お手数ですが、今後は重くなりそうな時だけでも、リンク先の言語やページ数について、書き添えて頂くことをお願い申し上げます。

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