2020年11月16日月曜日

米国大統領選とジョー・バイデン候補の貿易政策

2020年11月4日、米国大統領選が行われ、多くのメディアではすでに民主党ジョー・バイデン氏の当選が確実と報じられている。最終的な結果は出ていないものの、バイデン氏の当選の可能性が高い中、注目されるのは同氏及び民主党の貿易政策だ。

すでにバイデン陣営は、政権移行チームを形成し、ウェブサイトも立ち上げて様々な発信を行っている。その主要な柱は「コロナ対策」「経済の回復」「人種の平等」「気候変動」の4つだ。選挙期間中、バイデン氏は貿易政策について特に詳細な言及はしてこなかったものの、論戦や演説の中では、トランプ政権の強硬な一国主義や、多国間主義の後退などへの批判を行ってきた。

バイデン政権が主要な柱に掲げる「経済の回復」は、もちろん国内政策だけでは立ち行かず、必然的に他国との貿易政策が関わってくる。特に、中国との貿易・投資関係をどうするのか、WTOへの関与をどうするのか、そして日本を含む他国との二国間貿易協定やTPPなど地域貿易協定についてどうするのか、など注目される。まだ先行きは見えないが、参照となる文書として、選挙期間中に全米鉄鋼労組(USW)がバイデン氏に対して行った質問状とその回答がある。これは同労組に対してだけでなく公開された文書でも出されており、いわばバイデン氏の「公約」と言ってもいいだろう。質問状全体は貿易政策に限らず、他のイシューも含まれるが、ここでは「グローバル経済と国際貿易」という項目を翻訳して紹介する。

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ジョー・バイデン氏のグローバル経済および国際貿易に関する公約

原文: https://www.uswvoices.org/endorsed-candidates/joe-biden

全米鉄鋼労組(USW)による、米国大統領選期間中のジョー・バイデン候補者への質問とその回答。

私たちの質問

 米国の労働運動と全米鉄鋼労組(USW)は、米国と他国との貿易協定の改善に引き続き尽力している。あまりにも多くのケースで、貿易協定の欠陥に最初に苦しむのは労働者たちである。あなたは、貿易協定における製薬会社の独占権を軽減し、気候汚染の執行を強化し、そして迅速で強力な労働に関する執行メカニズムを支持しますか、それとも反対しますか?

  • 労働に関する強制的な執行条項を持たない貿易協定に反対票を投じますか?
  • 同僚たちと共に、貿易政策の弱点を強調する書簡に参加しますか?
  • 選挙で選ばれた立場として、アウトソーシングをするインセンティブを止め、不平等を減らすために、他にどのような行動を取りますか?

 ジョーの回答

 私は、世界貿易においては米国のビジネスは競争し、勝利するべきだと信じています。世界の消費者の95%は我々の国境の外で暮らしています。我々は、自国内で最高の製品を作り、それを世界中で販売できるようにする必要があります。米国の労働者と企業はあらゆる相手を打ち負かし、勝利することができます。しかし、政府は彼らのために必死で闘う必要があります。私はすべての米国の人々の仕事のために、特に不公平な外国の慣行に反対して闘うつもりです。

 貿易は雇用と市場のための厳しい競争です。大統領は、米国の労働者や地域社会の側に立つ必要があり、裕福な企業や、自国の企業に補助金を出して保護している外国政府の側に立つのではありません。

 それがトランプ氏の問題点です。いざとなれば、トランプ氏は労働者、労働組合、そして地域社会に抗して、企業の利益に味方をします。そして彼は、米国の労働者を見捨てて海外に雇用を移すことで、企業とその経営者に報酬を与えます。それら企業に対し、米国に雇用を創出し、維持し、取り戻すための責任を負わせることをせずにです。

 我々は、それをトランプの税法案で目撃しました。この法案は、大企業に巨額の減税を行ないますが[1]、それら企業に対して、雇用を米国に戻し、彼らが去った時に壊滅的な打撃を受けた地域社会を再建するよう強制するものではありませんでした。アウトソーシングは続いてきましたが、トランプ大統領がこれらの企業に責任を課したのはいつだったでしょうか。ツイートでもなく、フォックスニュースでの暴言でもなく、これら企業に正しいことをさせるための厳しい大統領の行動はあったでしょうか。

 我々はUSMCAにおいてでさえ、それを確認しました。トランプ氏は製薬会社への大規模な利益を追求しましたが、労働者の保護に関する強制的な執行は求めていませんでした。トランプ氏が交渉した協定は悪いものでしたが、ペロシ議長や民主党議員、そして労働運動―とりわけ全米鉄鋼労組(USW)が、協定の重要な改善を勝ち取り、協定はより良いものになりました。

 我々は、中国とのいわゆる「第一段階」の貿易協定にもそれを見ました。トランプ氏は、中国の違法な補助金および国有企業の悪用について、中国から何も獲得しませんでした。そして、米国の銀行が中国でビジネスをすることを支援するために、交渉のチップを使いました。それが米国の労働者をどのように助けるのでしょうか? 米国は中国を相手にする必要がありますが、トランプ氏は、労働者たちを置き去りにしたまま、それを大きく間違った方法で進めてしまいました。

 今後、例えば日本やインドなどとの間でさらに多くの貿易交渉が予定されていますが、トランプ氏がこれらの協定について正しい側に立っているかどうか、信用することはできません。彼は再び米国の労働者を売り渡すでしょう。それが彼のパターンなのです。私は、自分が誰の味方なのか知っています。私は、米国の労働者、労働組合、そして地域社会の側に立っており、企業の利益の側にはいません。その意味するところは、次のようなことです。

 1.        私は、米国内で労働者および地域社会に大規模な投資を行うまでは、新たな貿易協定の交渉は一切しません。彼らがグローバル経済の中で競争し、勝利するための装備を整えます。これには、米国内における教育、インフラ、製造業への投資が含まれます。

2.     貿易に関するあらゆる決定の第一の目標は、米国の中産階級を構築し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、そして地域社会を強化することでなければなりません。

3.     私は、外国の不正行為が米国の雇用に脅威を与えるときはいつでも、一貫して積極的に米国の貿易法を施行します。私は、必要な場合には関税を課しますが、トランプ氏との違いは、私は、単に強さを偽装するのではなく、勝つために関税を課す戦略―計画―を持っているということです。私は、中間層の成長という目標を達成するためにどのようなステップを踏む必要があるのかを決定するために、トランプ政権の貿易政策を直ちに見直します。トランプ氏の関税に対するアプローチは、近視眼的で破壊的です。原産地規則に関する私の以下の私のコメントをご覧ください。

4.        そして、私はトランプ氏がやってこなかったこと、そしてできないことを実行します。私は、貿易のルールに違反している中国および他国との闘いにおいて、米国への支援のため世界を結集させます。大統領が友人を侮辱し、恥をかかせていては、敵対国に抗する連合を築くことはできません。しかし、必要な場合には、バイデン政権は自らの力で公正な貿易のために闘います。

5.        インフラや労働力、米国の安定性から利益を得ている米国企業が、減税を得るためだけに雇用をアウトソーシングすることは正しくありません。大統領として、私はトランプ氏の過剰な企業減税を撤回し、企業が雇用と利益を海外に移すことを奨励するインセンティブを削減します。私は、企業の利益の移転を終わらせ、アウトソーシングと闘います。これには、違法な租税回避を促進する国へ制裁措置を課すこと、および企業の米国外軽課税無形資産所得(GILTI)税率を2倍にすることが含まれます。簡単に言えば、私は大統領として、私は海外に雇用を移転する企業への減税措置に終止符を打つでしょう。トランプ氏がウィスコンシン州で推進したフォックスコンの件のような、偽りの、愚かで無駄な税金の優遇措置には騙されません。米国内の市、州、あるいは連邦政府など、あらゆる政府から援助を受けるすべての企業は、長期的に中産階級を築き、地域社会を強化することに、揺るがぬ保証をしなければなりません。

6.        私は、労働組合や環境運動から貿易の専門家を指名し、私の政権で貿易交渉や貿 易執行の職に就かせます。そして、私のもとで貿易に関する仕事をしてもらうための前提条件は、貿易に関するあらゆる決定の第一の目標は、米国の中産階級を構築し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、地域社会を強化するべきだという理解です。その上で、労働や環境保護の提言者たちが、今後の貿易交渉の初日からテーブルにつくことを保証します。

7.        オバマーバイデン政権時代、我々は、強制労働を使用する一方で米国政府と取引を行う連邦政府の受託業者に対して、連邦政府のゼロ・トレランス政策を強化しつつ、またそれらの政策に違反する企業を特定するような執行命令[2]を出しました。トランプ氏はその執行命令を無視し、その結果、企業はやりたい放題の状態になりました。私はこの執行命令の厳格な執行を要求します。皆さんの税金が、米国の労働者から雇用を奪うために設計された恐ろしい搾取に寄与することはありません。

8.     私の政権では、米国およびすべての貿易相手国で、強力かつ独立した労働組合を支援していきます。組合は民主主義にとって不可欠であり、組合は経済の安定にとって不可欠であり、組合は米国製品のための市場を構築するために不可欠であり、そして、組合は世界のあらゆる場所で行うべき正しい行動です。私は、私の政権が交渉するすべての貿易協定において、強力で強制力のある労働に関する条項を積極的に推進します。そして、その条項がない限り協定には署名しません。

9.        私は、企業が他の組織が利用できない特別な法廷を得るべきだとは思いません。私は、投資家対国家紛争解決(ISDS)のプロセスを通じて、企業が労働、健康、環境についての政策を攻撃する力に反対し、そして将来の貿易協定にそのような条項を含めることに反対します。

10.     最後に、トランプ氏の協定には、気候変動に対する保護がまったく含まれていません。同様に重要なのは、気候変動に対応する際に米国の製造業者とその従業員が利益を得ることを確実にするような内容が、それら協定の中に何もないということです。私たちは、海外にではなく、米国で創出される環境に優しい雇用に投資しなければなりません。このことが私の政権での、米国の中間層を再構築するための中心的な戦略となるでしょう。

 

私たちの質問

 貿易協定では、製品がどのように製造され、どのように組み立てられているかが重要な問題となります。「原産地規則」についての弱い条項は、貿易協定の非参加国が、貿易協定地域で細かな組立や生産を行うことを通じて貿易協定の恩恵を受けることを意味し、貿易協定の相手国の雇用と生産の両方の利益を損なうことになります。あなたは、貿易協定における強力な「原産地規則」条項を支持しますか、それとも反対しますか? 例としては、鉄鋼製品の「溶融と鋳込」を要求したり、もしくは自動車での60%を超える国内コンテンツ量を要求することなどです。

 ジョーの回答

 バイデン政権下では、貿易に関するあらゆる決定の第一の目標は、米国の中産階級を構築し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、地域社会を強化することでなければなりません。同様に重要なのは、私は、輸入を規制する一方で、米国の生産と輸出を促進することです。そのために、バイデン政権の下で交渉されるすべての貿易協定には、貿易協定の署名国によって米国の生産が促進され、“ただ乗り”する者の利益を制限するための強力な原産地規則が含まれます。原産国規則は、製品に「Made in the USA」と表示されていても、それが本当に米国産であることを保証するために、慎重に策定される必要がある。鉄鋼やアルミなどの製品は、米国内で溶融・鋳込がなされるべきであり、各国が抜け道を利用することはできません。これらの基準はまた、「バイ・アメリカ法」のような国内調達に関する法律への私の精励を推進することにもなります。

 

私たちの質問

国内の通商法を維持し、強化することへの努力を支持しますか、それとも反対しますか?

ジョーの回答

米国通商法は、米国の労働者、その家族、地域社会を保護し、米国経済を守るための重要なツールです。米国の貿易法は維持され、積極的に施行され、必要に応じて強化される必要があります。オバマーバイデン政権の間、我々は、例えばブラウン上院議員が提起した「Level the Playing Field[3]」に含まれる条項を採用することで、集積された貿易ツールの改善に努めました。これは、産業界と労働者が不公正な貿易と闘うための新たな条項でした。我々は鉄鋼労組と協力して、中国からの乗用車・小型トラック用タイヤの急増を制限するために第421条の下で取り組みました[4]。私たちは他の貿易強制措置についても共に闘いました。

私は大統領として、必要なときにはいつでも効果的な方法で積極的に我々の法律を執行するための包括的な戦略を策定します。喫緊のこととして、私は、ここ米国での生産と雇用を危険にさらす不公正な貿易慣行と闘い、米国の製品が他国の市場へのアクセスを獲得するためには、どのような新しいアプローチとツールが必要かを検討します。我々は、米国の通商法を回避し、貿易紛争の有効性を損ねようとする継続的な動きに対処しなければなりません。世界的な過剰生産能力、国有企業、その他の問題は、私たちの利益を損なうものであり、これを継続させることはできません。政府が労働者の側に立ち、労働者の権利のために立ち上がっていることを、労働者は知らされるべきです。それは、労働者自身が不公正な貿易と闘ったり、雇用が海外へ移転され、生産がアウトソーシングされないようにするためです。外国人による不正行為は私の政権では許されません。

 

私たちの質問

経済協力開発機構(OECD)は、世界にはまだ5億トン以上の過剰な鉄鋼生産能力があることを強調しています。この過剰生産能力は、多くの場合、外国の国営企業が所有し、補助金を受けて米国市場に入ってきています。国家安全保障の利害から、米国は関税を導入し、米国の民間企業の操業能力を10%引き上げ、鉄鋼生産量を前年比で500万トン以上増加させました。あなたは、過剰生産能力に対処するためのグローバルな解決策が見つかるまで、鉄鋼とアルミニウムへの米国通商拡大法232条の関税措置に賛成しますか、それとも反対しますか?

ジョーの回答

航空宇宙産業から電力網まで、数え切れないほどの用途に使用されている鉄鋼とアルミニウムは、国家安全保障および重要なインフラの中軸を形成しています。鉄鋼のダンピング、特に中国からのダンピングは、米国の鉄鋼の価格を下げ、鉄鋼市場に打撃を与えるように設計されています。これは、我々の経済への深刻なリスクであり、対処する必要があります。オバマーバイデン政権は、米国への鉄鋼出荷の審査を強化[5]し、貿易執行のための資金を増強しました。私は大統領として、世界的な過剰生産能力に対処し、中国のような国よりも効率的で環境に配慮した方法でこれら製品を生産する、米国の生産者と労働者が成功することを確実にするために努力します。

トランプ政権の鉄鋼とアルミニウムに関する行動は、短期的な救済をもたらしましたが、これらの部門が直面している長期的な課題に対処するためには何もしていません。トランプ政権が行った中国との貿易交渉は、中国の補助金や、国有企業の強奪的行動、不公正な貿易慣行を抑制することについて何も対処していません。トランプ政権は、鉄鋼の過剰生産能力に対処するための多国間協議を解体させました。私は、我が国の安全保障を守り、鉄鋼、アルミニウム、その他の製品の公正な貿易を保証していくつもりです。我々の貿易政策が、現在および長期的に労働者を支援し、中間層を成長させるという目標を達成することを確実にするために、私は、現在課されている既存の232条の関税およびその他の関税を見直します。私たちはまず、これまでに行われた可能性のある民間の取引や保証を含め、現政権がとったすべての措置を慎重に評価する必要があります。

そして、バイデン政権は、公正な貿易を確保し、重要なインフラおよび国家安全保障を守るために必要なあらゆる行動をとる一方で、我々の戦略の核心部分は、米国の鉄鋼労働者に良質で十分な組合雇用を確保するために、国際的な同盟国と協力して中国の不公正な慣行に集団的に取り組むことになるでしょう。トランプ氏は同盟国を屈辱に陥れ、激怒させました。私は、同盟国を私たちの大義のもとに結集させ、リードしていきます。

私たちの質問

鉄鋼、タイヤ、アルミニウム、その他は、中国、インド、ベトナムなどの国々が追加的なの製造施設を建設しているため、国際市場がそれら追加の生産能力を維持できるかどうかに関わらず、大幅な過剰生産能力のしきい値に達しています。あなたは、米国の製造業の雇用に悪影響を与えないようにするために、他国による製品の過剰生産能力に対処するための、一国による、そして世界的な努力を支持しますか、それとも反対しますか?

ジョーの回答

前述の回答を参照ください。

 

私たちの質問

人為的に輸出を増やすために通貨を過小評価している国による為替操作を抑制する努力に賛成しますか、反対しますか?

ジョーの回答

通貨操作に関して言えば、私は、貿易において不公平な優位性を得るために通貨の価値を人為的に操作しようとする外国のあらゆる試みに反対します。過去には、中国のような特定の国が、自国の輸出品を世界市場で相対的に安くすることを目的とした大規模な経済戦略の一環として、対ドルでの通貨価値を違法に低下させてきました。この行為は、米国の製造業者および輸出業者の雇用を犠牲にしています。それは、貿易相手国がルールを守っていれば 守られていたであろう雇用です。私の監視下では、すべての貿易相手国が健全な経済および貿易の原則を遵守するようになるでしょう。そして米国の労働者に利益をもたらす方策として、通貨を操作しようとする違法な行為には強く反対します。そして、既存の法律は、すべての新しい貿易協定の中で強化されるべきです。透明性と協議に関する条項を強化し、必要に応じて、為替操作の悪影響に対処するための規律と強制力を備えるべきです。


2020年5月11日月曜日

COVID-19に対する政府の緊急措置に対する投資家からのISDS提訴の危険


【翻訳】
COVID-19下での投資家からの
ISDS提訴に対する保護:政府へ行動を求める

Nathalie Bernasconi-Osterwalder 
Sarah Brewin Nyaguthii Maina
 翻訳:内田聖子
 20204

訳者解説:新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受け、世界各国ではロックダウンや企業の活動制限、収用など様々な緊急措置がとられている。人々の健康を守るために当然の措置であるが、企業・投資家にとっては利益を大幅に損なうという面がある。国際市民社会は、COVID-19に関連した政府の緊急措置が、多くの投資協定・貿易協定に含まれる「投資家対国家紛争解決(ISDS)」の仲裁に持ち込まれることを懸念している。過去には、経済危機や社会的動乱に対する政府の措置がISDSで提訴されてきた事例は多くある。かつてない健康・経済への打撃をもたらしている今回のCOVID-19のパンデミックに対する措置が次々とISDS提訴の対象となってしまえば、特に途上国・新興国にとっては復興もままならず、深刻な影響となる。ここでは、国際持続可能な開発研究所(International Institute for Sustainable Development:IISD)による解説を翻訳する。専門的な用語や分析も多く読みづらいかと思うが、過去のケースや重要な論点が多く含まれるためぜひ参考にしていただきたい。(内田聖子)


はじめに

COVID-19のパンデミックは世界中で健康と経済を深刻な危機に陥らせている。政府は、緊急の介入と、ロックダウンや厳格な封じ込めなどの対策を通じて、ウイルスの蔓延を抑制するよう行動している。 また、政府は不可欠な食料品や医療機器、健康関連サービスの供給を確保するための措置も講じている。健康という観点から見れば重要である一方、これらの措置の多くは企業に大きな打撃を与えており、世界中で締結されている3000以上の投資協定から生じる投資仲裁という前例のないリスクを生み出している。
予見可能なシナリオでは、政府のウイルス関連の緊急措置に対して数百の外国投資家が異議申し立てをする可能性がある。その多くは、第三者による資金提供と弁護士への緊急時における報酬支払を通じて支援されるであろうが、いずれも投資仲裁ポートフォリオでの高いリターンを求めている。投資家と国家の仲裁制度では、各ケースは国際仲裁人のさまざまな組み合わせからなる個々の仲裁廷によって裁定され、政府は毎回数百万ドルのコストをかけて複数の戦線で戦うことを余儀なくされる。結果が現在のパターンに従っている場合、予測は不可能かつ大部分は矛盾するものであり、賠償金は数億ドル、場合によっては数十億ドルに達する可能性がある。同様の事実に基づく訴訟ケースの中には、条約違反ではないと判断されることがあるにもかかわらずである。
深刻な経済危機の時代に、公衆衛生システムへの支援はこれまで以上に重要である。 政府は、あらゆる投資紛争ケースというリスクを冒すことなく、経済支援パッケージを策定するための財政政策スペースを必要としている。各政府がこれを行う唯一の方法は、COVID-19の関連措置に対しての条約に基づく投資家対国家仲裁制度の適用を一時停止するか、もしくは国際法の防御がこの非常時にどのように適用されるかを明確にするために、各国政府が結集することである。

COVID-19が健康と経済に及ぼす影響に対処するための政府の措置
ほとんどの政府が、COVID-19が及ぼす公衆衛生と経済への影響に対処するために、抜本的かつ広範な対策を講じている。世界保健機関(WHO)が推奨したように[1]、ウイルスの蔓延を抑制するために、各政府は必須でないサービスを閉鎖し、地方または国の行動を制限するとともに、国内での必須な物品および労働者の移動を容易にする手段を講じている。店舗、工場、航空会社、鉱山その他のビジネスは、緊急規制によって大幅な業務縮小または停止とされた。航空便のキャンセルや空港閉鎖などを含む、国境を越えたウイルスの拡大を阻止する各政府の措置は、世界人口の93%に対して実施されていると推定される[2]。その結果、国際航空運送協会は、2020年の世界全体の航空会社の収益損失は、630億ドルから1130億ドルになると予測している[3]
また各政府は、ウイルスに感染した多数の患者を治療する公的病院の能力を守るために、医療及び社会サービスのネットワークを再編成すると同時に、医薬品と個人防護具の供給を確保するための措置を講じている。カナダ[4]、エクアドル[5]、およびドイツ[6]は、特許化された医薬品及び医療機器に対して強制実施権より容易に発行できるようにするためのあらゆる措置をとった。アフリカ諸国は国連から「医療関連の知的財産への緊急アクセスを要求するよう」[7]求められており、イスラエルはすでにCOVID-19に適用できる可能性があるHIV薬の強制実施権を発行している[8]。スペイン[9]とアイルランド[10]は、負担の大きい公的医療システムを支援するために、民間病院を一時的に国有化することを選択した。スペイン政府は、この危機が終わるまで民間の医療会社の経営を引き継いだ。イタリア政府は「キュラ イタリア」命令を可決し、医療機器及びその他の動産の一時的または永久的な要求を含む数々の緊急措置を可能にした[11]
政府はまた医療用品及び医薬品、さらに食料の輸出を制限している[12]。例えばインドは、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの輸出を禁止したと報告されている。これに対し、COVID-19に対する潜在的な治療薬であると批判する国もある[13]。他の国は、国内の食糧安全を確保するために輸出禁止を課している。世界最大の小麦輸出国であるロシアは、米とソバの輸出を10日間禁止し[14]、もう1つの主要輸出国であるベトナムは、新たな米輸出契約の一時停止を実施した[15]。カザフスタンは小麦粉、ソバ粉、砂糖、ひまわり油の輸出を停止し、カンボジアはすべての米の輸出を禁止した[16]。同時に一部の国は、自国内での必須品と労働者の移動を促進しようとしている。例えばペルー議会は、国内における主要な物品及び労働者の自由な移動を促進するために、民間への国営有料道路の料金徴収を一時的に停止することを承認した[17]
政府はまた、COVID-19危機による経済的および財政的な影響に対処するための緊急措置を採用している。3月3日現在、中国は契約上の義務を果たせない中国企業の責任を制限するために4811の不可抗力証明書を発行している[18]。オーストラリアは、センシティブな分野における不良債権の購入を防御するために、一時的に外国投資の事前審査の基準額を0ドル(以前の基準額は1億7000万〜74,000万ドルであった。ただし分野によって異なる)に設定した[19]。欧州連合(EU)は、「いかなる海外直接投資も、欧州市民の健康ニーズを満たすEUの能力に悪影響を及ぼさないことを確保するために警戒する必要である」と警告しつつ、戦略的産業への海外直接投資(FDI)による潜在的なリスクを提示した。そして加盟国に海外直接投資の事前審査を実施するよう要請した[20]
銀行セクターにおいては、英国のプルーデンシャル規制当局が英国最大の銀行に対して、今回の危機に際して配当、自社株買い、役員報酬の発行を一時停止するよう圧力をかけた。銀行はこれを遵守したため、75億ポンドに相当する株主への支払いは取り消された[21]
パンデミックによる経済の低迷はまた、多くの国での多額の公的債務を悪化させている。ザンビアは、ソブリン債の再編成を支援するようアドバイザーに依頼したと報じられている[22]。新興市場の専門家は、ザンビア、エクアドル、アルゼンチンのソブリン債の保有者に、その価値の大幅な損失を想定するよう警告している[23]

過去から学ぶ:危機的状況における投資家と国家の紛争仲裁
深刻な国家危機の際に講じられた措置を含む、健康、貿易、金融に関係する政府の公共目的の措置は、投資家から異議申し立てをされる可能性がある。投資家は、ほとんどの二国間投資協定(BIT)及び貿易協定の投資章に含まれる、投資家対国家紛争解決(ISDS)の条項の下で規定される投資家と国家の仲裁廷を使用して、これらの措置に異議を申し立てることができる。外国投資家は、政府の措置が、協定の下で政府が投資家に負っている1つまたは複数の保護に違反していると主張し、ISDS提訴をすることができる。ほとんどの投資協定において、これらの投資家保護は幅広く、かつ漠然と定義されている。外国投資家は、収用に対する補償や、外国投資家への「公正かつ公平な」待遇、「完全な保護及び安全」の提供、そして国内または他の外国投資家よりも不利な待遇を与えないことを政府に要求する。また通常、協定は、限られた例外の他は資本移動の制限を認めていない。
2007年から2008年に起こった世界金融危機、そして近年の世界の国家及び地域における政治・経済的に不安定な時代は、危機の際に外国投資家がISDSをどのように利用するのかを表している。
アルゼンチンでの2001年の経済危機
最も注目すべき事例は、アルゼンチンだろう。2001年、アルゼンチンはほぼ完全な経済崩壊に直面し、「10日間で5人の大統領が入れ替わる中、GDP50%低下し、失業率は20%を超え、貧困率は50%となり、ストライキ、デモ、警察との暴力的衝突、数十人の民間人の犠牲となった」[24]。その間に政府は、公共料金の凍結、資産の国有化、通貨の切り下げ、国債の再編などを含む様々な緊急措置をとった。 2014年末までに、アルゼンチンは50を超えるISDS提訴の非申立国となり、その大部分は危機の間にとられた措置に起因していた[25]。アルゼンチンに対してすでに確定した賠償金額は20億ドルを超え[26]、いくつかの訴訟は数億ドルで解決された[27]
2008年の世界金融危機の間、ベルギー政府は銀行及び保険グループであるフォルティスを再編し、国有化した。 フォルティスの主要株主の1人であるピン・アンは、改革後の投資損失を回復するために、約10億ドルの補償を求めるベルギー政府に対する提訴を開始した。その後この請求は、管轄権に基づき却下された(この紛争は、適用可能な二国間投資協定が発効する以前に発生していた)[28]
2013年、ギリシャの債務危機に際してキプロスで2番目に大きな銀行がギリシャの債務不履行にさらされることを制限するためにキプロス政府がとった規制措置が、ISDSによる105000万ユーロの賠償請求の対象となった。この訴訟を裁定するために設置された仲裁廷は管轄権を受け入れたが、投資家の主張は却下された[29]
2011年から2012年にかけての「アラブの春」での社会的・政治的な激動に続き、北アフリカ及び中東諸国に対するISDSの提訴事案が急増したが[30]、その一部は、危機の影響に対処するためにとられた政府の措置に起因するものである。エジプトでは、かつてないレベルの暴力と社会不安によって、国内のガス供給が停止された。これは、政府が「社会の基本的機能と国内の安定の維持に対する脅威」であると見なしたためである[31]。国内の電力市場への天然ガスの供給を優先するために、スペイン所有の工場へのガス供給を停止するという政府の決定は、ISDS提訴によって投資家が20億ドル以上の賠償金を獲得するという結果をもたらした[32]
ごく最近では、レバノン政府が流動性の課題に対処するために課している銀行の引出制限などの資本規制が、国内における抗議とデモを刺激している[33]。投資仲裁を専門とする法律事務所は、影響を受けた外国人投資家が、レバノンの二国間投資協定に基づくISDS提訴を行う方法をすでに模索している[34]
危機ではない時期にも、たばこのラベル表示法[35]や健康に害を及ぼす化学物質の禁止[36]を含む、公衆衛生を守るための政府の措置は、ISDSによって提訴されてきた。2016年、コロンビア政府はスイスの製薬会社ノバスティスに対して抗がん剤の価格を引き下げるよう要求したが(強制実施権の使用も言及された)、これによって政府はISDS訴訟の脅威に直面した[37]2013年、米国の製薬会社イーライ・リリーは、2つの医薬品特許の無効化についてカナダ政府を提訴した。この提訴は却下されたももの、仲裁廷はカナダの裁判所が特許を無効化した際に、投資家の待遇に関する協定の基準を遵守していたかどうかを決定するという任務を負っていた[38]

不安定な中での国家の防御

COVID-19パンデミックとその結果生じたグローバルな経済危機の際、またはその後にとられた政府の措置に異議申し立てをする外国投資家が起こすISDS訴訟に対して、政府が法的防御を行うことは可能である。しかし過去の事例からは、政府が協定に違反し、賠償金を支払わなければならないという証明を回避するために、政府がこうした防御をうまく利用するのは困難な場合がある。特に関連があるのは、慣習国際法の必要性の教義である。これは、国家の本質的な利益に対する重大かつ差し迫った危機的状況での政府の国際義務違反を正当化するために使用することができるだろう[39] 防御の必要性に対する基準は非常に高く、政府の行為が「国家が重大かつ差し迫った危機から本質的な利益を守る唯一の方法である」ことが求められる[40]防御のためのこの要素は、仲裁廷に対して、より費用がかかりまたは不便であったとしても、その状況の中で政府が利用可能であった代替的な措置について、すべての範囲にわたって検討することを要求する。その後、これらの措置のうちの1つが投資家に対する政府の義務に違反することなく同じ効果を達成できたかどうかの判断は、仲裁廷に委ねられている[41]先述の天然ガスの提訴事案の中におけるエジプトの防御の必要性は、仲裁廷によって却下された。それは、政府が講じた措置は「本質的な利益」への脅威を防ぐ「唯一の方法」であることを立証できなかったからであった[42]
ISDSに反対する国際NGOのキャン―ペーン

 
防御の必要性は、同様かあるいは非常に類似した状況を考慮しながら投資仲裁廷によって解釈され、一貫性なく適用されてきた。例えば、先述のアルゼンチンの提訴ケースについて、ある事案では仲裁廷は政府の行為を「必要性の状況」に貢献したと考え、防御の必要性を却下した[43]。別の仲裁廷は、同様の状況におけるアルゼンチン政府の防御の必要性を支持した[44]これらのケースは、わずか18カ月間で決定された[45]
ほとんどの二国間投資協定は必要性の原則について規定していないため、それを解釈する方法の決定は、仲裁廷に委ねられている。各仲裁廷は通常3人の仲裁人で構成され、特定の事案ごとに設置されるため、その解釈は大きく異なり、アルゼンチンのケースに見られるように、潜在的に矛盾する広範囲の結果が生じる。過去の二国間投資協定とは対照的に、新世代の二国間投資協定は通常、政府が公共の利益を保護するための措置を講じる必要がある政策空間をより保証している。しかしながらこれらの新しいアプローチの有効性は引き続き検証される必要があり、また仲裁廷による解釈の余地はなお残されている。投資協定の下での仲裁結果は、これまで同様に非常に予測不可能なものである。
ISDS提訴において、可能であれば政府は例外と防御を提起する必要がある[46]。それは、COVID-19の危機に際してとられた緊急措置に対して、政府が関連する協定に違反しているのかどうか、また外国投資家に賠償するべきかを決定する3人の各仲裁人に対してである。すべての措置が協定違反となるわけではなないだろう。このことは、前例のない世界的な混乱の時代に、公衆衛生やマクロ経済の安定性または政府を保護する憲法及び国内法の枠組みについての知識がほとんどない3人の弁護人を前にして、政府が公共の利益を保護するために講じた措置を守る必要があるという事実が損なわれることを意味しない。

投資家対国家の提訴を回避する必要性はかつてないほど高まっている
前例のない規模での公衆衛生と経済の課題に国家が直面している今、ISDS提訴を回避する必要性はかつてないほど高まっている。以下で提案されているような対応を政府が行わない限り、投資家対国家の仲裁という差し迫った脅威が政府にのしかかってくるだろう。複数の外国投資家が、予測不可能な結果を​​伴う同一の措置に異議を申し立てるための重要な事実に基づいて提訴をすることができるだろう。これは、3000を超える投資協定における幅広く、漠然とした枠組みの条約上の義務と、提訴に持ち込まれた各ケースが異なる仲裁廷によって決定されるという事実によるものである。判例法は、条約の基準自体とすべての条約に適用される慣習国際法の両方に、一貫性のない解釈をもたらした。先述のアルゼンチンでの提訴や、最近の一連のスペインの再生可能エネルギーに関する提訴における同様もしくは類似する一連の政府による措置を検討する様々な仲裁廷によって出されたばらばらの結論は、そのことの主要な例を示している[47]
COVID-19に対する措置に曖昧な協定の基準がどのように適用されるかについての明確さは欠落しており、また仲裁廷は過去の決定に拘束されない。このことは、弁護士及び第三者の資金提供者に対して、世界中で同様の措置への複数の異議申し立てを提起することを推奨する可能性がある。提訴する側が仲裁結果に大きな利害関係を持つ仲裁廷の資金提供者に訴えることができるという事実は、危機の際に投機的または周辺的な提訴をさらに推進する可能性がある[48]。仲裁廷のニュースレター及び法律事務所は、COVID-19関連する投資家と国家の仲裁についてすでに予見している[49]
一部の投資家対国家の仲裁廷は、彼らが直面するCOVID-19関連する措置は、政府には有効な防御策がない条約違反であると結論づけることができるだろう。結果として、被申立国は、外国の申立人に多額の賠償金を支払うよう命じられる可能性がある。過去の仲裁廷は、これまでに少なくとも46の協定に基づく投資家対国家の提訴で1億ドルを超える賠償額を決定しており、1件で400億ドルの賠償金となった事例もある[50]
巨額の賠償金は、特に途上国に深刻な課題をもたらす。これらの国々はまた、COVID-19による危機と世界的な景気後退という二重の影響をより大きく受ける可能性が高く、最終的には既存の債務負担を悪化させることになるだろう。先述のウニオン・フェノーサのガスの事例で、エジプトは20億ドル及び利息を支払うよう命じられた[51]。この金額は、2018/19年のエジプトの保健・教育の国家予算合計の158.2億ドルの12%に相当するものであった[52]。このように高額になる大部分の理由は、投資仲裁人が損害を算定する際に用いる方法によるが、これは一貫性がなく推測的であり、また主要な文脈上の事実が考慮に入れられない傾向がある[53]
最後に、ISDS提訴からの防衛には、たとえ最終的に成功したとしても、高額の費用と時間がかかり、貴重な人材を投入しなければならない。OECDの調査によれば、提訴を防御するための平均的な費用は800万ドルである[54]。場合によってはこの金額を大きく超過するケースもある。フィリピンはドイツの投資家による2件の提訴の弁護費用に5800万ドル[55]を、オーストラリアは先述のたばこの表示ラベルに関する提訴の弁護費用に2800万ドルを支出した[56]

危機における救済と債務の再編
多くの国の政府は、COVID-19の危機を乗り切るために、国際通貨基金(IMF)または世界銀行に支援を要請するだろう。COVID-19に関連した投資家と国家の訴訟によって生じる負債は、その財政的支援が台無しにならないよう回避されるべきである。2019年、投資仲裁廷は、パキスタン政府に外国の鉱山会社へ60億ドルの賠償金を支払うよう命じた[57]。そのわずか2か月前、IMFはパキスタンの経済崩壊からの救援策に同意していたのだが、この金額も60億ドルだった[58]COVID-19に関連する投資家と国家の紛争は、将来的な救済を無価値にする可能性がある。
同様に、いま各国政府、特に発展途上国の政府は、これまで以上に債務を再編する柔軟性を必要としている。イタリアの債券者がアルゼンチン政府に対して行った投資訴訟は、投資家と国家の仲裁がいかに債務再編をより複雑にするのかを示している。2011年、仲裁廷は外国の債券者(6万人のイタリア国民)に対して、二国間投資協定に基づき政府を提訴することを初めて許可した[59]。債券者は、アルゼンチンのデフォルト及び債券返済を変更することを通じた国債の部分的な再編に対して提訴した。現在の健康及び経済の危機によって、多くの国は債務を返済できなくなるであろう。このことは、一連のデフォルトを回避するためにはグローバルなレベルで債務返済を停止する必要があることを導き出している[60]。政府の債務再編に対して、二国間投資協定のもとで多数の提訴を行うことを債権者に許せば、各政府が自国のソブリン債を管理するという選択を制限することになる。
投資家対国家の紛争急増を回避するための集団的な行動の必要性
202042[61]、国連総会は、コロナウイルスのパンデミックによる「前例のない影響」を認識し、COVID-19の被害を「封じ込め、緩和し、克服するための国際協力の強化」を求める決議[62]を全会一致で承認した。この決議は、国連総会の「国際協力及び多国間主義へのコミットメント」を再確認し、国連事務総長アントニオ・グテレスに対し、パンデミックへのグローバルな対応と、「すべての社会に対する社会的、経済的、財政的な悪影響」について、各国への呼びかけと調整を主導するよう要請した[63]この決議に沿って各国は協力し、そして外国企業、株主、ポートフォリオ投資家、債券者が資金難に陥った政府に対して行う投資仲裁の急増が、潜在的に圧倒的な影響力を持つということを認識すべきである。このような混乱の時代には、複数の提訴を処理し、多額の賠償金を支払う能力を政府は持つことができず、その結果、保健予算や債務管理、及びIMFその他の救済機関による効果に重要な影響を及ぼすことになる。
このリスクに対するグローバルで協調的な対応は、連帯を促進し、最悪のシナリオから各国政府を守ることができる。考えられる対応の1つは、政府がCOVID-19関連する措置に関して、投資家対国家提訴の適用を共同で一時停止することであろう。各国はまた、政府は必要に応じて行動すると見なされるべきであり、従ってCOVID-19に関連する措置は投資協定の義務違反にはあたらないことを明確にするような共同解釈を発表することもできる。選択された案によっては、政府は複数の提訴に対し抗弁することになることに留意する必要がある。しかし、少なくとも多国間での対応であれば、COVID-19に関連する措置を提訴しようとする投資家に管轄上のハードルを課したり、あるいは投資家がそのハードルをクリアするためには政府の防御の評価をしなければならないという指導を仲裁廷に与えることができる。COVID関連の措置として偽装された意図的で不法な政府の行動に関する疑念は、事実上すべての投資協定に含まれる国家対国家の紛争解決メカニズムの中で解決できる。
緊急事態への対応は、投資協定及び関連する改革について広範な専門知識を持つ国連貿易開発会議(UNCTAD)を通じて調整可能である。もう1つのオプションは、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)、特にISDS改革を行うためにすでに設置されているワーキンググループIIIである。また緊急の対応は、現時点で20205月に開催予定の世界保健総会においても促進できる[64]

多国間での解決策が見いだせるまでは、投資家対国家の紛争制度への同意を撤回する
投資家対国家の仲裁を適用することを一時停止したり、共同解釈を表明することなどの多国間での緊急事態対策には時間がかかる可能性がある。このこと照らして、政府は、協定の締約相手国に対して、将来的に通知があるまでは投資家対国家の仲裁を提起する申し出から撤退すると通知することによって、多国間プロセスの補完を検討する可能性もある。これは、ISDSへの「同意の撤回」とも呼ばれている。
投資協定に基づく投資家対国家の仲裁から、一方の締約国が同意の撤回を行うことは可能だという議論はこれまでもなされてきた。なぜなら、協定における仲裁合意(ISDS条項)は、国家と提訴する側の投資家の間ではなく、国家と国家の間で締結されてきたからである[65]ISDS条項は、将来に投資家と国家の間に紛争が発生した際に向けて(投資家が誰となるのかを知ることなしに)、仲裁廷の管轄権に同意するという政府からの申し出が含まれると見なされている。投資家がその申し出を受け入れるまでは、政府の同意は「完全なもの」にはならない(したがって取り消すことができない)。訴訟の提起は、その個人投資家の提訴に関する申し出の受諾と見なされる[66]。したがって、将来の紛争について政府は他の締約国に通知することによりいつでも同意を取り下げることができる。もちろん、外国投資家とその弁護人は、そのような行為の合法性に異議を唱え、同意の撤回について、仲裁廷がその提訴に対する管轄権を有するかどうかを決定することを求めるかもしれない。しかし、仲裁廷が締約国の事前の同意なしに管轄権を受け入れた場合、仲裁廷の決定は破棄または取り消されやすくなる。最後に、投資を行った企業を有する国も、同意の撤回に異議を唱える可能性がある[67]。しかしながら、COVID-19パンデミックに照らした例外的な状況を考えると、投資企業側の国はそのような行動を適切だと見なさない可能性がある。

結論

各政府は、経済に深刻な負荷がかかる中で公衆衛生システムを支援するための困難な決定を下しているのと同様、投資家対国家の仲裁という差し迫った脅威に直面している。各政府は、この危機の中で人々を救済し、経済を主導することに焦点をあてた経済支援パッケージを策定するための財政的な政策スペースを必要としている。私たちが各政府に呼びかける行動は、投資協定に基づいてなされるCOVID-19関連のすべての措置への投資家対国家の仲裁を一時停止するか、あるいはこの非常時には国際法の防御が適用されることを明確にするために、各国政府が一致協力することである。投資協定に基づくリスクを制限したいと考える政府は、多国間での解決策が見つかるまでの間は、投資仲裁への同意から撤退できる。


原文Protecting Against Investor–State Claims Amidst COVID-19: A call to action for governments


[1] World Health Organization. (2020). Coronavirus disease 2019 (COVID-19) Situation report – 72. https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200401-sitrep-72-covid-19.pdf?sfvrsn=3dd8971b_2
[2] Connor, P. (2020). More than nine-in-ten people worldwide live in countries with travel restrictions amid COVID-19. Pew Research Centre. https://www.pewresearch.org/fact-tank/2020/04/01/more-than-nine-in-ten-people-worldwide-live-in-countries-with-travel-restrictions-amid-covid-19/
[3] International Air Traffic Association. (2020, March 5). IATA updates COVID-19 financial impacts -Relief measures needed. https://www.iata.org/en/pressroom/pr/2020-03-05-01/
[4] Government of Canada. (2020, March 24). BILL C-13: An Act respecting certain measures in response to COVID-19. https://www.parl.ca/DocumentViewer/en/43-1/bill/C-13/third-reading#ID0ETAA
[5] Médecins Sans Frontières. (2020). MSF calls for no patents or profiteering on COVID-19 drugs and vaccines. https://www.msf.org/no-profiteering-covid-19-drugs-and-vaccines-says-msf
[6] Ibid.
[7] United Nations Economic Commission for Africa. (2020, March 27). Trade policies for Africa to tackle Covid-19. https://www.uneca.org/sites/default/files/PublicationFiles/briefing_paper_on_trade_policies_for_africa_to_tackle_covid-19_290820.pdf
[8] Scheer, S. & Steenhuysen, J. (2020). Israel approves generic HIV drug to treat COVID-19 despite doubts. Reuters. https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-israel-drug/israel-approves-generic-hiv-drug-to-treat-covid-19-despite-doubts-idUSKBN216237
[9] Matthews, D. (2020). Spain nationalizes private hospitals to combat coronavirus outbreak. Daily News. https://www.nydailynews.com/coronavirus/ny-coronavirus-spain-privatizes-hospitals-outbreak-20200316-4nhlxyvs3jhfxhxw7wgjbore3y-story.html
[10] Private hospitals will be made public for duration of coronavirus pandemic. The Journal.  https://www.thejournal.ie/private-hospitals-ireland-coronavirus-5056334-Mar2020/
[12] At the time of writing, the University of St. Gallen’s Global Trade Alert project has estimated there have been around 82 curbs on exports of COVID-19 related medical supplies and medicines by 68 governments.
[13] Singh, R.K. (2020). India bans all exports of virus drug often touted by Trump. Bloomberg.  https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-04-05/india-bans-all-exports-of-trump-s-game-changer-virus-drug
[14] Medetsky, A. (2020). Virus puts risk of Russian wheat-export curbs back in focus. Bloomberg.  https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-25/virus-puts-threat-of-russian-wheat-export-curbs-back-in-focus
[15] Vu, K. (2020). Vietnam’s ban on rice exports still in force, government may set limit: traders. Reuters.  https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-vietnam-rice/vietnams-ban-on-rice-exports-still-in-force-government-may-set-limit-traders-idUSKBN21H0GO
[17] This has sparked warnings that private toll-road operators could bring ISDS claims under their concession contracts. See Sanderson, C. (2020). Peru warned of potential ICSID claims over covid-19 measures. Global Arbitration Review.  https://globalarbitrationreview.com/article/1225319/peru-warned-of-potential-icsid-claims-over-covid-19-measures
[18] Tan, H. (2020). China invokes ‘force majeure’ to protect businesses — but the companies may be in for a ‘rude awakening’. CNBC.  https://www.cnbc.com/2020/03/06/coronavirus-impact-china-invokes-force-majeure-to-protect-businesses.html
[19] Remeikis, A. (2020). Australian authorities to check every proposed foreign investment during coronavirus crisis. The Guardian.  https://www.theguardian.com/world/2020/mar/29/australian-authorities-to-check-every-proposed-foreign-investment-during-coronavirus-crisis
[20] European Commission. (2020). Guidance to the Member States concerning foreign direct investment and free movement of capital from third countries, and the protection of Europe’s strategic assets, ahead of the application of Regulation (EU) 2019/452 (FDI Screening Regulation).  https://trade.ec.europa.eu/doclib/docs/2020/march/tradoc_158676.pdf
[21] Morris, S. Crow, D. & Giles, C. (2020). British lenders suspend dividends after BoE pressure. Financial Times.  https://www.ft.com/content/c13d3d21-b6f3-4449-a916-2ba4271818e4
[22] Stubbington, T. & Fletcher, L. (2020). Zambia’s bonds drop on expected restructuring. Financial Times.  https://www.ft.com/content/a3755cf3-34a9-4992-a54b-686a6b5380b2
[23] Maki, S. (2020). A trio of downgrades spell default danger for emerging markets. Yahoo Finance.  https://finance.yahoo.com/news/trio-downgrades-spell-default-danger-214000184.html
[24] Lavopa, F. (2020). Crisis, emergency measures and the failure of the ISDS system: The case of Argentina (Investment Policy Brief #2). South Centre.  https://www.southcentre.int/wp-content/uploads/2015/07/IPB2_Crisis-Emergency-Measures-and-the-Failure-of-the-ISDS-System-The-Case-of-Argentina.pdf
[25] United Nations Conference on Trade and Development. (2015). Recent trends in IIAs and ISDS.  https://unctad.org/en/PublicationsLibrary/webdiaepcb2015d1_en.pdf
[27] See for example, El Gobierno pagó US$ 677 millones por juicios perdidos ante el Ciadi, Oct. 19, 2013. La Nacion.  https://www.lanacion.com.ar/economia/el-gobierno-pago-us-677-millones-por-juicios-perdidos-ante-el-ciadi-nid1630428
[28] Rabinovitch, S. & Fontanella-Khan, J. (2012). Ping An in arbitration claim over Fortis. Financial Times.  https://www.ft.com/content/87437290-0620-11e2-bd29-00144feabdc0
[29] Papazoglou, S. (2019). Cyprus legitimately exercised its police powers, defeats ICSID claims by Greek bankers. Investment Treaty News.  https://www.iisd.org/itn/2019/04/23/cyprus-legitimately-exercised-its-police-powers-defeats-icsid-claims-by-greek-bankers-stephanie-papazoglou/
[30] Foty, C. (2019). Impact of the Arab Spring on the international arbitration landscape. Kluwer Arbitration Blog http://arbitrationblog.kluwerarbitration.com/2019/07/26/impact-of-the-arab-spring-on-the-international-arbitration-landscape/
[31] Koroteeva, K. (2018). Egypt found liable for the shut-down of an electricity plant during the 2011 uprising. Investment Treaty News.  https://www.iisd.org/itn/2018/12/21/egypt-found-liable-for-the-shut-down-of-an-electricity-plant-during-the-2011-uprising-ksenia-koroteeva/
[33] Scolding, E. (2020). Tensions mount at Lebanon’s banks as customers push against capital controls. Middle East Eye.  https://www.middleeasteye.net/news/confrontations-mount-lebanons-banks-customers-push-against-capital-controls
[34] Farchakh, M. (2020). The ongoing Lebanese financial crisis: Is there potential for investor–state arbitration?  http://arbitrationblog.kluwerarbitration.com/2020/03/08/the-ongoing-lebanese-financial-crisis-is-there-potential-for-investor%E2%80%93state%20-arbitration/
[35] Philip Morris Asia Limited v. The Commonwealth of Australia, UNCITRAL, PCA Case No. 2012-12; Philip Morris Brands Sàrl, Philip Morris Products S.A. and Abal Hermanos S.A. v. Oriental Republic of Uruguay, ICSID Case No. ARB/10/7.
[36] Chemtura Corporation v. Government of Canada, UNCITRAL (formerly Crompton Corporation v. Government of Canada), Methanex Corporation v. United States of America, UNCITRAL.
[37] Williams, Z. (2016). Investigation: As Colombia pushes for cancer drug price-cut and considers compulsory licensing, Novartis responds with quiet filing of an investment treaty notice. Investment Arbitration Reporter.  https://www.iareporter.com/articles/investigation-as-colombia-pushes-for-cancer-drug-price-cut-and-considers-compulsory-licensing-novartis-responds-with-quiet-filing-of-an-investment-treaty-notice/
[38] Musmann, T. (2017). Eli Lilly v. Canada – The first final award ever on patents and international investment law. Kluwer Patent Blog.  http://patentblog.kluweriplaw.com/2017/04/04/eli-lilly-v-canada-the-first-final-award-ever-on-patents-and-international-invest-ment-law/
[40] See Article 25 of the International Law Commission’s Articles on State Responsibility.  https://legal.un.org/ilc/texts/instruments/english/commentaries/9_6_2001.pdf
[41] Paddeu, F., & Parlett, K. (2020). COVID-19 and investment treaty claims. Kluwer Arbitration Blog.  http://arbitrationblog.kluwerarbitration.com/2020/03/30/covid-19-and-investment-treaty-claims/
[42] Charlotin, D. (2018). Union Fenosa v. Egypt: In now-surfaced award, tribunal dismisses necessity defence and sees no abuse in investor pursuit of multiple arbitrations. Investment Arbitration Reporter.  https://www.iareporter.com/articles/union-fenosa-v-egypt-in-now-surfaced-award-tribunal-dismisses-necessity-defence-and-sees-no-abuse-in-investor-pursuit-of-multiple-arbitrations/
[43] Whitsitt, E. (2009). Tribunal rebuffs defense of necessity in recently published award: National Grid p.l.c. v. Argentine Republic. Investment Treaty News.  https://www.iisd.org/itn/2009/03/02/tribunal-rebuffs-defense-of-necessity-in-recently-published-award-national-grid-p-l-c-v-argentine-republic/
[44] LG&E Energy Corp., LG&E Capital Corp. and LG&E International Inc. v. Argentine Republic (ICSID Case No. ARB/02/1).
[45] Waibel, M. (2007). Two worlds of necessity in ICSID arbitration: CMS and LG&E. Leiden Journal of International Law, 20(3).  https://www.researchgate.net/publication/228213318_Two_Worlds_of_Necessity_in_ICSID_Arbitration_CMS_and_LGE
[46] For a discussion of potential defences available to states in the context of COVID-19 measures, see Pathirana, D. (2020). COVID-19, preventative measures and the investment treaty regime. Afronomics Law.  https://www.afronomicslaw.org/2020/04/13/covid-19-preventative-measures-and-the-investment-treaty-regime/
[47] Reynoso, I. (2019). Spain’s Renewable Energy Saga: Lessons for international investment law and sustainable development. Investment Treaty News.  https://www.iisd.org/itn/2019/06/27/spains-renewable-energy-saga-lessons-for-international-investment-law-and-sustainable-development-isabella-reynoso/
[48] Some consider that the asymmetric structure of the investment treaty regime, lack of system of precedent in ISDS and the resulting inconsistency and unpredictability of arbitral outcomes lend themselves to third-party funding in speculative or marginal claims. See for example Garcia, F. (2018, July 30). The case against third party funding in investment arbitration. IISD Investment Treaty News; International Council for Commercial Arbitration & Queen Mary Task Force. (2017, October 17). Third-party funding in investor-state dispute settlement. Draft report for public discussion. Round Table Discussion of the ICCA-Queen Mary Task Force on Third Party Funding in International Arbitration
[49] Benedetteli, M. (2020). Could COVID-19 emergency measures give rise to investment claims? First reflections from Italy. Global Arbitration Review.  https://globalarbitrationreview.com/article/1222354/could-covid-19-emergency-measures-give-rise-to-investment-claims-first-reflections-from-italy;
Aceris Law LLC (2020), The COVID-19 pandemic and investment arbitration. Aceris Law. https://www.acerislaw.com/the-covid-19-pandemic-and-investment-arbitration/
[50] Hulley Enterprises Ltd. v. Russian Federation (PCA Case No. 2005-03/AA226).
[51] Charlotin, D. (2018). Arbitrators hold Egypt liable for more than $2 billion as a result of unfair treatment of gas plant investors. Investment Arbitration Reporter.  https://www.iareporter.com/articles/arbitrators-hold-egypt-liable-for-more-than-2-billion-as-a-result-of-unfair-treatment-of-gas-plant-investors/
[52] Per the exchange rate of Egyptian Pounds to USD at October 2019.
[53] Bonnitcha, J., & Brewin, S. (2019). Compensation under investment treaties. International Institute for Sustainable Development.  https://www.iisd.org/sites/default/files/publications/compensation-treaties-best-practicies-en.pdf
[54] Gaukrodger, D. & K. Gordon (2012). Investor-state dispute settlement: A scoping paper for the investment policy community (OECD Working Papers on International Investment, 2012/03). OECD Publishing.  http://www.oecd.org/investment/investment-policy/WP-2012_3.pdf
[55] Olivet, C., & Eberhardt, P. (2012). Profiting from injustice: How law firms, arbitrators and financiers are fuelling an investment arbitration boom. Transnational Institute.
[56] Per the exchange rate of Australian dollars to USD at July 2018. Hutchens, G. & Knaus, C. (2018, July 1). Revealed: $39m cost of defending Australia’s tobacco plain packaging laws. The Guardian Australia.  https://www.theguardian.com/business/2018/jul/02/revealed-39m-cost-of-defending-australias-tobacco-plain-packaging-laws
[57] Tethyan Copper Company Pty Limited v. Islamic Republic of Pakistan, ICSID Case No. ARB/12/1
[58] Masood, S. (2019, May 12,). Pakistan to accept $6 billion bailout from I.M.F. New York Times.  https://www.nytimes.com/2019/05/12/world/asia/pakistan-imf-bailout.html
[59] As seen in the cases of Abaclat and Others v. Argentine Republic, ICSID Case No. ARB/07/5 and Ambiente Ufficio S.p.A. and others v. Argentine Republic, ICSID Case No. ARB/08/9.
[60] Stiglitz, J. (2020, April 7). World must combat looming debt meltdown in developing countries. The Guardian.  https://www.theguardian.com/business/2020/apr/07/world-must-combat-looming-debt-meltdown-in-developing-countries-covid-19
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[62] United Nations General Assembly. (2020, March 27). Strengthening of the United Nations system.  https://www.un.org/pga/74/wp-content/uploads/sites/99/2020/03/A-74-L.52.pdf
[63] The resolution was approved without the presence of the governments through a so-called “silence procedure” according to which a resolution is adopted unless a single country objects.
[64] World Health Organization. (2019). Seventy-Second World Health Assembly.  https://www.who.int/about/governance/world-health-assembly/seventy-second-world-health-assembly
[65] Porterfield, M. (2014). Aron Broches and the withdrawal of unilateral offers of consent to investor–state arbitration. Investment Treaty News.  https://www.iisd.org/itn/2014/08/11/aron-broches-and-the-withdrawal-of-unilateral-offers-of-consent-to-investor-state-arbitration/;
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[66] United Nations Conference on Trade and Development. (2003). Dispute settlement. International Centre for Settlement of Investment Disputes.  https://unctad.org/en/docs/edmmisc232add2_en.pdf
[67] Johnson, L., Coleman, J. & Güven, B. (2018). Withdrawal of consent to investor–state arbitration and termination of investment treaties.  https://www.iisd.org/itn/2018/04/24/withdrawal-of-consent-to-investor%E2%80%93state%20-arbitration-and-termination-of-investment-treaties-lise-johnson-jesse-coleman-brooke-guven/