2015年7月30日木曜日

本日発表されたウィキリークスによる「国有企業」に関するリーク文書の日本語訳

緊急発表!

本日発表されたウィキリークスによる「国有企業」に関するリーク文書の日本語訳です。
原文はこちら→ https://wikileaks.org/tpp-soe-minister/



2013 年12 月7~13 日

国有企業問題に関する閣僚への指針


TPP交渉参加国の大半は、商業的活動や、以下の項を含むWTOやFTAにおいて定められた現在の義務を超える独占に対する規制を支持してきている。
それは、

・国有企業及び独占企業の、商業的配慮を基にした活動をすることと、売買における非差
別的な対応に合致することを確かなものにすること、
・委託された政府の権威により活動する際には協定に定められた義務に従うことを確かな
ものとすること、
・国有企業に政府から委任された行為を含む場合にはその権限の範囲を法廷にて供すること、
・商業行為を行う国有企業と競争相手である民間企業との間の不公正な規則、
・内外に対する説明責任、

そして、

・国有企業の章の実行を監視あるいは実施するに当たっての委員会設置である、
技術的諸問題が残されているがそれは交渉の場において解決されるものと信じている。国
有企業に関する知財の効果的執行が知的財産権の章に移ってしまっている。
幅広い分野で閣僚による指針あるいは判断が求められている。

・貿易相手国に対して逆効果をもたらす国有企業に対する政府支援にどう対処するのか、
(物品やサ-ビス、貿易や投資などのような)幅広く適用される規律を政府が支援する場
合に必要とされる例外措置あるいは他の期待での柔軟な対処とはどうあるべきか、

・国有企業の定義、政府の各レベルに適用される国有企業の規律、そして紛争解決の仕組み

1.政府の支持
すべての交渉参加国は、既に物品貿易に影響を与える補助金に関するWTOにおける義務
を有している。TPP交渉参加国は、国有企業に対する政府支援について(WTOと)よく
似た規則を、より幅広い状況下に広げようと検討している。例えば1)物品貿易に影響を与
える政府支援、2)物品貿易・サ-ビス貿易双方において交渉参加国の領土内において国有
企業と他の交渉参加国からの投資との間の競争に影響する政府支援である。しかし提案され
た内容は、TPP交渉参加国の利害に対して反対の影響をもたらすくらいまでに政府による
国有企業への支援を制限するものでしかない、

2.例外措置と他の柔軟性
もし政府による国有企業支援に広範な規律が含まれているなら、交渉参加国は各国に対し
て、規律を台無しにすることなく各国政府に適切な政策余地を与えるために、どのような例
外措置や柔軟性が必要なのか決定する必要がある。例えばWTOでは物品貿易においては、
補助金規律の一般免責条項は無い。TPPではどのようにサ-ビス貿易に影響を与える政府
補助に対処すべきだろうか?当該国内において国有企業と隠された投資との競争に影響を
与える規律に対してどのように柔軟性で対処できるだろうか?交渉参加国は、一般免責、範
囲の除外、交渉参加国の特定国に対する柔軟性を提案してきた。

3.国有企業の定義と、行政組織全ての段階の政府への適用
隠された国有企業の定義に当たってどのような基準を設けるべきだろうか?規律の目的
は?政府所有とは?支配力の行使は?効果的な支配とは何か決定するにはどんな基準を使
うべきか?等々中央政府、地方政府など異なるレベルの政府において設立され委託された国
有企業や独占的企業にどのように規律を適用するのか?各国は中央政府ではない範囲ある
いは組み込まれたものとして関与するのか?

4.紛争解決システムの適用
推進派は、意味のある、強制可能な、他の章で使われている国家間の紛争解決の仕組みの
重要性を強調している。参加国は、追加的対話や検証が、正式な紛争解決の手順に先駆けて
必要ではないかとかあるいは紛争解決のためには他の要素も含まれるべきだはないかとの
検討をしている。
今回リークされた文書から生じる主要な疑問点

<今回リークされた文書の内容を受けて、ニュージーランドのオークランド大学法学部教授
であるジェーン・ケルシーさんは、以下の疑問点を指摘しています>

・国有企業の公共サービス機能及び公共財機能についてどのような保護が与えられるのか、
国有企業はどのように定義されるのか、また国有企業にすべてのルールが適用されるのか。
・締約国政府は国有企業のいずれがルールに服するかを定めることができるか、また他のす
べての締約国の同意が必要か。
・すべての締約国が等しく取り扱われるのか、あるいはこれらのルールは国有企業を多く抱
える国々により大きな影響を与えるものであるか。
・このルールは、経済、雇用及び地域産業が国有企業に依存する国々、特にベトナムのよう
な発展途上国にとってどのような意味を持つのか。
・ルールは中央政府レベルにある国有企業にのみ適用されるのか、またそうであれば、それ
は中央集権化された政府を持つ国々に対して、連邦制の国の下位の政府に対するものと反対
に、過度の規制を押し付けることにならないか。
・もし国有企業が商業的な側面と社会的又は公共財の機能との複合的性格を有する場合、あ
るいは市場モデルが失敗して政府がその機能を回復し、またその機能を提供するために国有
企業に対して支援を行う場合、なにが起こるのか。
・もし国有企業が、郵便サービスやテレコムサービスのようなユニバーサルサービスの提供
の対価として特別な支払いを受けている場合、ユニバーサルサービスを提供する義務はどの
ように保護されるのか。
・国有企業がユニバーサルサービスと共に民間企業と競合する活動を行っている場合、ユニ
バーサルサービス提供義務に対する支払いは反競争的な支援に該当するか。
・当初資本の提供又はその他の支援が必要な場合に、社会的又は市場の失敗に対応するため
に新たな国有企業を設立することは可能か。
・TPPA の国有企業の章は、国有企業の社会的そして支援を受けた側面を剥ぎ取ることによ
る民営化への裏口ではないのか。したがって、民間によって容易に運営できない理由はない
のではないか。
・TPPA 締結国からの投資が国有企業と同等の待遇を受けるべきであれば、外国籍投資家は、
外国人投資家が差別とみなすものを訴え、または外国籍投資家の期待が実現しなかったこと
を理由に不公正な取り扱いを受けたと訴えるために、ISDS を使用することができるか。
・資源やインフラの独占はどのように影響を受けるか。
・独占に適用されるルールは、将来の独占だけでなく、すでに存在する独占にも影響を与え
るか。
・提案された監視・評価手続の下では、政府や個別の国有企業による権限乱用や嫌がらせに
対してどのような保護が存在するか。
・政府は、監視・評価手続の一環としての情報提供を求め続けることによって、他国の国有
企業のリソースを停滞させる可能性がないか。また民間の競合企業がそのような情報提供義
務を負っていないため、それらの国有企業を競争上不利な立場に置く可能性がないか。
・もしこれが完全に新しいルールのセットである場合、すべての政府がこれらのルールがど
のように機能するか本当に理解しているか。また締約国政府は、紛争解決機関がどのように
紛争を裁くかについて、確信があるのか。
・透明性及び規制のコヒーランス(収斂)を含む、他の章において規定された「透明性」条
項は、国有企業にも適用されるため、他の国からの競合企業が、それらの条項を情報、説明
及び国有企業に関連する規制当局の決定に対する評価を要求し続けるために利用する可能
性はないか。


<山田正彦・元農林水産大臣のコメント>

始めに、ウイキリークスのリークは米国では「非公開の公式文書」として認められていて、
日本でもTPP差し止め訴訟の証拠として提出できるものである。
1、ここでの国有企業とは国(公共)の支配下にある法人の行う事業をさすもので、日本の
場合は国民健保、共済健保、建国保険組合、国立、市立、離島などにある県立病院、及び畜
産振興事業団エーリックなどの野菜、砂糖、畜産物の価格安定資金の事業もすべて含まれる
もので、TPPでは例外があるとすれば、すべて明記して、他の11か国の同意を得ておか
なければ、ネガテブリスト方式なので全てが該当する。
2、国民皆保険制度は政府はそのまま堅持すると言ってきたが、今回明らかになったように、
外国の保険会社との関係では、明らかに国有企業として、政府の関与が差別的で不公平な競
争であり、「相手国企業の不利益」をもたらす「反競争的な行為」であるとの攻撃を受ける
ものと思われる。その結果、国民が安心して利用可能な安価で公平な医療制度が壊されるこ
とになってしまうものと思われる。
例えば薬価は日本の場合、薬価審議会の決定を経て厚生労働大臣が決めて2年に1回引き下
げることになっていたが、これからは、政府は米国の製薬会社と協議して決めなければなら
なくなる。
3、また中小企業などの政策金融公庫、住宅金融公庫などの公的な金融機関、労働組合、生
協、農協などの共済保険にも適用されて、政府による税制上の優遇措置などもすべて該当す
る。例えば、郵貯の簡保に、政府が癌保険を認めれば、郵貯銀行は国有企業なのでアフラッ
クと自由で公平な競争にならないとして、日本郵便でアフラックの癌保険を売り出したよう
に。
4、新聞でも一部報道されたが、国だけに限らず地方自治体の公共事業も国有事業に準じて、
例外、工事の限度額がTPP協定で明記されない限り、日本の中小の企業と米国のペクトル、
ゼネコンなどと英語と自国語との競争入札になる。
5、今回のリークされた内容からすれば、これらの「差別的」「公平な競争」「相手国企業に
不利益を与えない」「反競争的」は条項に反したらISD条項によって解決されることにな
っている。
政府は莫大な損害賠償を求められることになる。
しかも、これらの規制そのものが、非常に曖昧で広範なものになっているが、ISDでは外
国資本の投資から賠償を求められたら、日本政府がそうではないことを立証しなければなら
なくなる。
極めて困難である。
6、それに大事なことは、漁業補助金の禁止は報道されたが、農業、医療、国立大学などに
出される補助金も日本政府は自由に決めることはできなくなる。今回明らかになったのはT
PPでは、政府が補助金を出すにしても一定の基準定めることが求められている。
平たく言えば米国の同意がなければできなくなるのではないかと思われる。
7、さらに相手国、米国などの企業に「不利益を与えるような行為」、は禁止されることに
なる。
例えば自治体が行っている「地産池消」の学校給食も、現在韓国で問題になっているが、カ
ーギルなど米国の企業にとっては「不利益を与える行為」にあたるものと思われる。
8、さらに、大切なことは、今回のリークされた内容では、日本政府による外資企業に対し
ての「反競争的な行為」は禁止されている。
例えば食の安全で、私自身も訪米の際「遺伝子組み換え食品の表示を法律で義務つけしてい
るのは止めてほしいと言われたが、まさにこれらの法律は「反競争的な行為」に該当するも
のと思われる。
9、今回、リークされた国有企業の章は2013年12月7日から10までに出されたもの
であることを注目してほしい。
今回次々に新聞で報道された牛肉、豚肉の関税もかつて読売新聞がリークしたが、その通􀀀
になっているにかかわらず平気で誤報であると言い張った。
この間2年近く交渉を重ねての今日なので、リークでの疑問部分はすべて解決済みであると
考えられる。
それの情報開示を先ず、私達は求めなければならない。

2015年7月29日水曜日

オバマ政権は2015年中に「TPP法案採決」と喧伝するが、 ファストトラック(TPA)の日程と一致せず


米国・パブリックシチズンによるリリース

TPP条約採決可能日程】

オバマ政権は2015年中に「TPP法案採決」と喧伝するが、
ファストトラック(TPA)の日程と一致せず

TPP推進派は2015年末に環太平洋連携協定(TPP)を議会で採決したがっている。しかしそうするためには、ファストトラック(TPA)の規定が要件としている通知期間や採決前の報告の期限があるため、少なくとも7月中にTPP交渉を完了(大筋合意などでなく)させなければならないし、TPPの協定文そのものも完成していなくてはならない。もしTPPへの調印の意志の議会への通知が81日までに送付されるならば、最終的なTPPの採決は12月に開かれる会期の最後の週に行いうるだろう。

ファストトラック(TPA)のもとで考えられる最速の日程を想定し、要件とされるTPPの影響(インパクト)についての米国際貿易委員会(ITC)の報告が、もし過去の協定の場合よりも早く完了できれば、TPPの採決は、協定調印の意志を議会が受け取ってから約4か月半後におこなうことができる。
このように、まず交渉は72831日のハワイでのTPP閣僚会議でしめくくらなければならず、協定文は81日までに調印の意志を通知できるように用意されていなければならない。そして協定文そのもののテキストは830日に公示されなければならない。そうなれば1214日の週に採決ができる。そのあとになると、議会は休会に入り採決は2016年にずれ込むことになる。

評判の悪いTPP可決の政治的代償は、大統領選挙がおこなわれる2016年にずれ込めば増大する。すでに民主党、共和党の候補者はTPP批判を開始しており、かれらの公然とした批判は協定がもつ雇用喪失などなどといった潜在的な脅威に一般の人々の目を向けさせている。2016年の採決となると、201611月に行われる議会選挙でTPPに賛成票を投じた議員を有権者が罰することもありうるというリスクを増大させることにもなる。
 
最小限の予定表:交渉終了から議会での採決まで4か月半

この仮説的な予定表は、過去の貿易協定で起きたよりも、重要な問題でより速い方向転換があることと、ファストトラック(TPA)の予定表の若干の変更があること、議会のメルトダウン、反対あるいは議員間の儀礼的支持がないことを想定している。これはファストトラック規定のもとでのTPP採決への最速の予定表である。(引用は2015年ファストトラック法案の条項。)

l  もしTPP「最終合意」が731日のハワイでのTPP閣僚会議で発表されれば. . . .
最終的な「合意」が声明されるとしても、現実にどうやって最終テキストができるのか?知的所有権や投資など中心的ないくつかの章は依然として、政策上の規則をうちだした条文に憲法違反の対立が残っている。
中心的な市場アクセス問題(関税と関税率の割り当て)および原産地規則の問題が未解決のままである。適用除外とコミットメントについてのスケジュールについては、「投資」、「国有企業」、「サービス産業」、「調達」などに関してまだすべてが完了しているわけではない。
このように、いまだに最終テキストが仮調印できるようになっていないのである。多くの問題がこう着状態で残存し、このように最終条文が存在していないので、条文への調印の意志が米議会に通告されようがない。それでも、さしあたり、何らかの条文があって、通告がおこなわれうるということを想定してみよう. . . .

l  もし条文が出来上がっていて、調印の意志を議会に81日までに通告するとすれば. . . 条文が何らかの形で具体化されていることを想定すると(未解決の問題についてTPP各国大使からのコメントがそのような早急の決着に疑問を投げかけているにもかかわらず)、条文は81日までに仮調印されなければならず、1030日にオバマ大統領が署名する意思を90日前までに議会に通告しなければならない。


調印前通告の最小限期間90 ファストトラック(TPA)では大統領は協定調印の少なくとも90日前に議会に通告するよう求めている(Sec. 106(a)(1)(A))。また、TPP調印のすくなくとも90日暦日前までに、オバマ大統領は米国際貿易委員会(ITC)に「その当時のままの」協定の詳細を明らかにし、ITCにたいして協定がおよぼしうる経済的影響の評価を準備するよう要請しなければならない(Sec. 105(c)(1))。オバマ政権はこれまでITCに対して、最終的な詳細を明らかにすることはできていないが、同評価をおこなうようすでに要請した。ITCは、最終的なTPP合意が無い中(条件が分からない)で評価をおこなうようにとの政権の要請にこたえるかどうかの回答を拒否しているが、Inside U.S. Tradeは「情報筋」は結局受けることになるだろうと報じている。

l  もし、831日に協定テキストが公表されれば. . . .
ファストトラック(TPA)の規定では、調印の意志を表明した90日以内の議会通告の30日後にテキストを公開することを義務付けている。これは、通商代表(USTR)が「最終テキストはある」と主張しても実際にテキストがないという「不正」を可能にする期間がわずか30日しかないということである。
このような誤魔化しをするためには、議会のテキストへのアクセスを、調印の意志を示す通告期間である30日間禁止することを必要とする。つまり、最終テキストは、調印する意思の通告が行われる以前に最終的なテキストができている必要がある。

テキストが公開されなければならない時までの最小限の期間――協定完成と調印の意志通告から30日後までSec. 106(a)(1)(B))。また、大統領がTPP調印の意志を議会に通告してから30日以内に、政府の貿易諮問委員会(複数)は、未解決の協定についての見解を大統領、議会、通商代表に報告しなければならない(Sec. 105(b)(4))。

l  もしTPP条文が1030日に調印されるばあい. . . . その場合には最終テキストの法的仕上げが90日以内で行われることが必要である。それはどの言語のテキストを公式テキストとするかについての不一致が英語とスペイン語だけを公式とすることで解決されることになれば可能である。法律の専門家は、交渉終結の後に必要な法的仕上げの時間を短縮するために、交渉中に、できあがった英語のTPP各章の法的仕上げ作業をおこなってきた。米国の貿易協定の法的仕上げはふつう数カ月かかる。法的仕上げ作業が行われてきているが、法的拘束力をもつテキストに追加の文言があるかもしれないということからして、交渉が決着してからどれだけの時間を要するかは明らかでない。しかし、もし最終的なしあげられたテキストが1030日に調印されたならば、法律の施行の提出に向けた30日間のカウントダウンが始まりうる。

TPP実施法が提出されるまでの期間:30。ファストトラック(TPA)は、大統領が最終的に調印されたテキストを米議会に送付してから少なくとも30日間待って、協定実施法案を提出することを義務付けている。TPP調印後のいずれかの時に、大統領は議会に「最終的な法的テキストの写し」および協定を実施に移すために提案された行政府の措置の声明案を提出できる(Sec. 106(a)(1)(D)。大統領は、TPPの最終的な法的テキストの写しを議会に提出してから30日後に、協定実施法案、実施法案がどのように米国の法律を変えて協定の条件にしたがうようにするのかについての説明、協定を実施するために提案される行政府の措置についての最終的な声明、環境および雇用にたいする影響の見通しについての報告、協定実施・執行計画、その他の関係情報を提出できる。

l  もしTPP実施法が1130日に提出されるならば. . . . そのためにはITC(国際貿易委員会)にたいしてTPPの予想される米国の経済的影響についての、規定によって義務付けられた報告を記録的な速さで完了することを求める。規定で義務付けられているわけではないが、議会は常に貿易協定を検討する前にITCの報告を待つようにしてきた。加えて、上院は1130日に開会していなければならない。下院は開会を予定しているが-実行立法は両院とも開会しているときにのみ提案できる。

l  もし議会がほとんど議論もなかった以前の米国の貿易協定について採決にかかった時間の半分で行動するならば. . . .

そうすると、最終的なTPP採決は議会の休日休会前の最後の週におこなわれうる。すなわち1214日に始まる週である。自由貿易協定の実施法案の提出とそうした法案の採決の間の期間の中央値は2週間ということになる。7日(モロッコとの自由貿易協定の場合)から85日(オマーンとの自由貿易協定の場合)までの幅がある。もし過去のFTA(自由貿易協定)すべてを考えると中間値は16日間となる。バーレーンとの自由貿易協定(FTA)の実施法案が、法案上程(これも11月)から、ファストトラックのもとで議会両院で可決されるまで27日要した。これは「反対」票の数の点で少しも議論にならない自由貿易協定の場合である。
TPPの採決をより少ない時間でおこなうことは技術的には可能であるが、TPPの場合は、協定自体がきわめて大きな議論になっていることからしてもっと多くの時間を要する可能性が大きい。これには、実施法案の最終審議を行わない委員会での最小限審議も行われるだろう。

TPPの議会審議にかける最大限の時間. . .
TPP実施法案の上程から45議会日以内:米下院歳入委員会は、法案を報告しなければならない。さもなければ自動的に取り下げられる(19 USC 2191(e)(1))TPP実施法案が下院歳入委員会を離れる15議会日以内:下院本会議は法案を採決しなければならない(19 USC 2191(e)(1))。下院採決から15議会日以内:上院財政委員会は法案を報告しなければならない、さもなければ自動的に取り下げられる(19 USC 2191(e)(2))。法案が上院財政委員会をはなれて15日以内に上院本会議は法案を採決しなければならない。実施法案が議会両院を通過したあといつでも:大統領は実施法案に署名することができる。
少なくともTPPが発効する30日前:大統領は他の協定参加国すべてが、協定の条件に適合するよう国内法を変えたことを議会に通告しなければならない(「協定の諸条項にしたがうために必要な措置がとられ」)大統領が満足のいくようにする(Sec. 106(a)(1)(G))。

*義務付けられているITC報告についてのメモ: 大統領がTPPに署名してから105日内にITCは大統領と議会にたいして、協定により予想される経済的影響についての報告を提出しいなければならない (Sec. 105(c)(2))。最近米国が締結したすべての自由貿易協定はITCがその報告を完了したあとのみ、議会で採決されてきた。
20152月、マイケル・フロマン米通商代表はITCにたいし、まだテキストは交渉中でるがまず評価を開始し、評価を2015年夏までに終えるように求めた。アービング・ウィリアムズ(Irving Williams)前ITC委員長は、TPP評価にはすくなくとも5か月かかると考えた。ITCがいつ評価を完了するかは不透明である。

★原文: TPP Vote Calendar Obama Administration Hype About a TPP Vote in 2015 Does Not Comport with Fast Track Timelines

http://www.citizen.org/documents/TPP-vote-calendar.pdf




2015年7月27日月曜日

マウイ閣僚会合での国際市民団体、NGO、専門家の活動 その1

マウイのTPP閣僚会合にて、NGOや専門家が協力して以下のような取り組みを行います。
私自身は、コーディネートやプレスワークを中心に行います。記者の方でご関心ある方は直接会場にお越しになるか、kokusai@parc-jp.org までご連絡ください。



市民団体の専門家らによる記者会見について
7月28日、29日、30日 10:30〜

記者会見は、Westin から徒歩2分のHula Grill で10:30AMから行われます (2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI)Hula GrillWestinのすぐ隣です。プール横の歩道を右に曲がって、北方面(海を左手に)に歩いてください。Whalers Villageに入って、右手の2件目のレストランがHula Grillです。

マウイTPP閣僚会合で何が危機に瀕しているか

2015年7月28日(火)
10:30〜

場所:Hula Grill, 2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI
TPPの未解決の問題や、TPPを締結するために閣僚らが行うかもしれない政治的取引が、全TPP参加国の国民、公衆衛生や環境に及ぼす影響について、市民団体の専門家らが説明します。

会見者
  • 山田正彦       TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団共同代表、元農林水産大臣 (日本)
  • デボラ・グリーソン   ラトローブ大学教授、公衆衛生協会
    (オーストラリア)
  • マーティー・タウンセンド    シエラクラブ自然保護団体、ハワイ会長 (アメリカ)
  • ピーター・メイバードッグ    パブリックシチズン医薬アクセス部ディレクター(アメリカ)
TPP交渉の憲法との衝突:東京地裁での訴え提起

2015年7月29日(水)
10:30〜

場所:Hula Grill, 2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI
交渉の差し止めを求める裁判を東京地方裁判所に起こした原告団の弁護士二人が、TPP参加国の国民にとってのこの訴訟の意味を説明し、訴状の法的議論を概説します。

会見者
  • 山田正彦 TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団共同代表、元農林水産大臣
  • 三雲崇正 TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団メンバー、新宿区議会議員
市民団体、学者、医療提供者らが説明する、TPPが公衆衛生に及ぼす影響

2015年7月30日(木)
10:30〜

場所:Hula Grill, 2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI
TPPに参加している12カ国の閣僚や政府代表者がマウイで会合を行う中、TPPが公衆衛生に及ぼす悪影響について市民団体、学者、医療提供者らが説明します。

会見者
  • ジューディット・ルイス・サンフアン 国境なき医師団(MSF)キャンペーンマネージャー兼法政策アドバイザー(アメリカ)
  • デボラ・グリーソン   ラトローブ大学教授、公衆衛生協会
    (オーストラリア)
  • メイバドッグ    パブリックシチズン医アクセス部ディレクタ(アメリカ)


2015年6月28日日曜日

日本政府のTPP交渉にかかる出張経費、9億円を超える


★日本政府のTPP交渉にかかる出張旅費、
9億円を超える★

―多額の税金が使われていながら、
国民には中身が知らされない「秘密交渉」で
いいの!?――


 このたびPARCは、日本がTPP交渉に参加して以降の政府交渉官の出張旅費・会議費について、関係する5省庁に情報開示請求を行いました。その結果、2013年3月~2015年2月末までの2年間で、9億円を超えていることがわかりました。長期化する交渉が、経費を増加させていることがデータから読み取れます。
 5省庁から届いた領収書はなんと1570件。PARC事務所ではボランティアの皆さん、TPP反対運動で御一緒している皆さんにもご協力いただき、一枚一枚を手作業で入力しました!
 この経費の財源は私たちの税金であるわけですが、9億を超す額であるにもかかわらず、交渉内容が一貫して秘密であることは国民からすれば納得いくものではありません。この「コスト」は、果たして日本にとって本当にメリットとなるのか、「ムダ金」に終わるのか、私たちは改めて政府に交渉内容の十分な説明を求めます。

★プレスリリース全文はこちらからご覧いただけます↓↓
http://www.parc-jp.org/teigen/2015/tpp_research20150624.html
リリース後、「東京新聞」「朝日新聞」「ロイター」等で早速取り上げられまし
た!
●東京新聞:「TPP出張費 2年で9億円に 長期交渉で膨張」
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015062502000141.html
●朝日新聞:「TPP出張旅費、9億円」
 http://www.asahi.com/articles/DA3S11824591.html
●ロイター:「TPP交渉の旅行経費など、2年間で9億円超=NPO法人調査」
 http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0ZA36720150624

2015年6月18日木曜日

ゾンビが生き返る!?米国議会の攻防を見て思うこと






 617日(水)、下院の議員運営委員会(ルール委員会)にて、先週いったん否決されたTPA/TAAパッケージ法案の今後の採決をめぐって議論された。TAATPAはセットであり、上院では2つがセットになった法案が採決されたが、下院ではTAAが否決された時点で、パッケージ法案としては否決。すでにTAA法案の方は730日まで採決期間が延長されていた。

昨日、ルール委員会のセッションズ委員長はじめ推進派が考えたのが、「新TPA法案」だ。これは要するに、TAAとセットでは可決できないため、TAATPAを切り離して下院独自の新たなTPA法案をつくる、という目論見。その際に「利用された」のが、「消防士年金法案」という、聞いたこともない法案だ。これはそもそも明日に採決される予定となっていたが、これを突然修正!(もともとの法案にTPA法案を加える形)して、「新TPA法案」とするのだというから驚きだ。何でもアリ、というのはまさにこのことだと思った。要するに、TPA法案を単独で通すために「消防士年金法案」という乗り物が選ばれたという話。ちなみにこの消防士年金法案というのは従来民主党が推進してきた法案で、民主党議員は反対しにくい。その意味では「最善の乗り物」を選んだのかもしれない。

 その「新TPA法案」の採決は、現地時間18日(木)10:0013:00ということ。日本時間の1823:00~深夜2:00くらいの間。もしこの「新TPA法案」が可決されれば、上院に送られて再度採決されることになる。上下両院の民主党議員は、TAAが必ず可決するという「保証」がなければ、単独の「新TPA法案」には賛成できないと言う(当然だろう)。この要請を受け、ベイナー下院議長とマコネル上院院内総務は昨日、「TPATAAの両法案を可決して大統領の下に送ると確約する」との共同声明を出した。ベイナーは下院民主党のTPA賛成派議員に対して「TAAは通る」と言っている模様。TAA法案自身も、7月末よりも早い時点のどこかで再採決され、新TPA法案とは別の法案として上院に送られると見られている。上記の不安を払しょくするためにも、おそらく上院ではTAA法案が先に採決され、その後に「新TPA法案」というようになるだろう。何とも複雑で、ルールがコロコロ変わるのでついていけない。米国の国会議員自身も、「さて、今投票した法案だけど、いったい何の法案だったんだっけ?」という感じではないだろうか。

 こうした動きは、米国でこれからも日々刻々と変わるだろう。基本的には、TPA法案について私たちが何かすることはできない。あるとすれば米国の市民社会の仲間たちに熱いエールを送ることくらいだろうか。法案が次々とセットになったり単独になったりとめまぐるしい動きは確かに「おもしろい」のだが、しかし注意しなければならないのは、オバマ大統領とTPA推進派は「どんな手を使ってでもTPAを通す」ことを決意していることだ。そのむき出しの欲望は目を覆いたくなるし、民主主義という観点から言えばさすがに「一線を超えている」。推進派は本性を暴露して、ゾンビ化したTPA法案を生き変えさせようと死に物狂いでうごめいているわけだが、私たちはただそれを対岸の火事として傍観していてよいわけではない。

 日本では甘利大臣が「アメリカには責任を持ってTPA法案を通してもらいたい」などと発言している。すでに「TPP漂流はアメリカのせい」という責任のなすりあいが始まっているかのようだ。米国の議会でのやりとりは確かに醜態であるのだが、ではそんな米国に誘われるままに交渉に入り、説明も不十分なまま聖域を放り出す危険や、国会決議も守れていない危険を冒しているのは、いったいどこの国なのか?

 私たちは日本政府に改めて、「こんな茶番の交渉、米国の勝手極まる交渉はもうやめよう」と強く訴えなければならない。米国議会を見ながら、強く感じることである。

2015年5月6日水曜日

日本の国会議員もTPP交渉テキストの閲覧が可能に!?―妥結へ向かう「落とし穴」にしてはならない







★秘密主義は米国の"ジャイアン・ルール"?

   20153月、私はブログにて「米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能 ―日本ではなぜ、できないのか?」を執筆した。その反響は非常に大きく、多くの方々が「なぜ?」「驚いた」という声を寄せてくださった。その後、4月に入り国会議員への働きかけも仲間たちと行ない、民主党、社民党、共産党などの野党議員が国会にてこの件を質問し、政府との間でのやりとりも繰り広げられた。
 私が指摘したかった最大のポイントは、単に「米国では政府が自国議員にテキストを見せているようだから、日本の国会議員もそうしてほしい」という話ではない。
  すでに米国は2012年以降、厳しい条件つきとはいえ、国会議員に交渉テキストを閲覧させてきていた。また政府が任命する「貿易アドバイザー」といわれる役職の人間(約600人中、8割強が財界メンバー)にはテキストを閲覧させている。さらには今年1月以降、TPA法案提出がなされず、国会議員や市民社会からの秘密主義への不満が最大に達した際に、米国政府は公式な見解として「すべての国会議員へのテキスト全文へのアクセスを可能とする。これまで許されなかったスタッフの同行も許可する」という方針を打ち出した。USTRのホームページにもそう記載されている。4月27日付の米国紙『The Hill』の調査によれば、2012年から今日までの3年間で、40人の上院議員、3人の下院議員がその時々のUSTRの規定に従いTPP交渉のテキストを閲覧している。
  一方、TPP交渉参加12か国の間には「保秘契約」というものがある。そもそもそこには何と書かれているのか。そして米国のこの3年間の措置はこの保秘契約に違反しているのか、いないのか―ー。要するに、「保秘契約とは見せかけの約束であり、実は米国は他国には厳しい保秘義務を強いる一方、自国内では国内政治の都合で好きなように契約の解釈や運用を変えているというダブルスタンダードを用いているのではないか?」という疑念だ。これを私は「究極のジャイアン・ルール」と呼んできた。つまり米国と他国との間のこの不平等・非対称性こそが、TPPの持つ本質であり、「秘密主義」などと言っているのは実はまやかしに過ぎなかったということだ。そして最大の問題は、日本政府がこのような不平等ルールやその実態について、これまで一度も指摘をしたり苦言を呈したりしてこなかったのかだろうか?ということだ。

★国会議員からの情報開示を求める声

2015年4月10日 東京新聞
2015年4月9日日本農業新聞
 この問題を追及する国会議員の質問は4月上旬から下旬にかけて次々と行なわれた。詳しくは「 国会質問編 」を参照いただきたい。この質疑応答を見ていてわかったのは、これまで日本政府は米国のテキスト公開の具体的な運用実態を細かくつかんではいなかった、ということである。例えば422日に開催された「TPPを慎重に考える会」主催の学習会の際、内閣官房の交渉担当官は米国でのテキスト公開の実施について「現在調査中」とのみ答えている。また遡って330日、福島みずほ議員による「なぜ米国では議員への閲覧ができて日本ではできないのか?」との一連の国会質問に対して、甘利大臣は「アメリカ政府自身も条約上の守秘義務というのは他国にかなりきつく言っているところでありますから、その中でどういう開示の仕方をしていくんだろうと。全て公表しますということが本当にそのまま通るとはなかなか額面どおり理解できないところでありますから、アメリカの開示がどういう形になっていくのか注視をしているところであります」、「まずアメリカがどういう開示をしていくのか、それと、当然、アメリカと日本の秘密保持義務が掛かる掛かり方も違ってくると思いますから、その辺のことをしっかり精査をしたいと思っております」と答えている。


 その後も議員からの質問は止まることなく、マスメディアでも「米国では国会議員に開示」と報じられてきた。さらには民主党ら野党は4月24日、TPP交渉などで政府に情報開示を求める「情報開示法」案を衆院に提出。これらの動きが連続する中で、日本政府も無視できない状況が生み出されてきた。
  そして決定的だったのは416日、米国でのTPA法案提出である。この法案では国会議員へのテキスト開示を今まで以上に、しかも妥結前にも進めるとの記載がされている。死にもの狂いでTPA法案を早急に可決させたい米国のジャイアン・ルールも、ここまで勝手極まってくるか、という印象を私は持たざるを得なかった。もちろん書かれている通りの情報開示がなされる保障はない。米国NGOや労働組合などは、TPA法案に書かれた情報開示はまやかしに過ぎないと即座に批判し、国会議員だけでなくすべての国民へのテキスト開示を求めている。もちろんそれは当然の正しい主張だと思う。私はTPA法案に猛然と反対する米国市民社会に賛同しつつ、一方でこんな勝手なルールに振り回されて続ける日本政府の態度を問うてきたのだ。

★日本政府による「国会議員へのテキスト開示」方針

 こうした状況を受けて、55日、米国訪問中の西村内閣官房副大臣は、「日本の国会議員にもTPP交渉テキストの閲覧を許す」という方針を記者会見で発表した。すでに日本のニュースでも報じられているが、一部分しか伝えられないはずなので、独自に入手した会見全体の記録から、テキスト開示に関わる部分の副大臣のコメント要旨を少し詳しくご紹介する(副大臣は他にもTPA法案の見通しや日米協議などについてもコメントしているが今回は割愛する)。

・情報開示について、今回(米国の)議員と話し、USTRは対外的に情報を出さないという条件で議員にテキストへのアクセスを認めていることを確認した。日本でも(日本に)戻ってから相談するが、来週以降テキストへのアクセスを国会議員に認める方向で調整したい。
・日本の場合、外に情報を出さないという一定のルールづくりを詰めなければいけない。米国では守秘義務が厳格で、ある議員は「何か漏らすと訴追される」とも言っていた。日本では国会議員に守秘義務、罰則がないため方法を考えなければいけない。
・このルール・方法についての法令整備を行う時間はないだろう。国会と一定のルールについて整理し、一定の約束の下でアクセスできるようにしたい。
・USTRがどの程度まで閲覧を認めているのかは、USTRに照会をかけている。USTRのやり方を参考にしたい。
・なぜこの時期にかといえば、交渉が最終段階に来ていること、USTRも同様の運用をしていることなどが理由である。日本でも国会議員からいろいろな委員会で質問を受けており開示を求められているので総合的に判断し検討したい。できるだけ早いタイミングで行いたい。

 確かに、これまで日本では国会議員にも一切テキストの開示も閲覧も許されてこなかったことを考えると、いわゆる説明責任という観点からは一歩前進、ではある。「日本も米国にならってやっと交渉テキストを公開するのだ。よかったじゃないか」と思う人もいるかもしれない。しかしここには大きな落とし穴が用意される危険性が大いにあることを強く指摘しておかなければならない。連休明けからこの件は話題になると思うが、下記の論点・問題を抜きに、日本政府の「開示への前進」を評価してしまうのはあまりにも表面的かつ危険である恐れがある。
 
【国会議員によるTPP交渉テキスト閲覧にあたっての5つの論点】

1.そもそも「保秘契約」の中身とは何なのか?
 先述の通りTPP交渉には12か国間で取り交わす「保秘契約」がある。この契約の中身自身が「秘密」であるため、私たちには「どのような情報を漏らしてはいけないのか」「どの範囲までなら許されるのか」「違反したらどうなるのか」などの内容すらわからない。約束の中身、つまり立ち返る規範がわからなければ、実際の行為が違反しているのかどうかも当然わからない。
  今回のテキスト開示の問題でいえば、米国が2012年頃から国会議員に条件付開示をしてきたこと、また貿易アドバイザーには閲覧させていることは、果たして保秘契約違反なのかどうか。あるいは今年に入って米国がすべての国会議員への全文アクセスを許可すると大々的にアナウンスしたことは、違反にあたらないのか?  さらにいえば、日本がこのたび「国会議員へのテキスト閲覧を許す」と発表したことは、契約違反にあたるのかどうか?またこれまでは「保秘契約があるので無理」だったのに、なぜ今は「可能」なのか―ー?
  仮にこれらが保秘契約違反だったとしたら、すでにTPP交渉は破たんではないだろうか。あるいは違反していなかったのだとしたら、なぜ今まで日本政府は「米国のように」積極的に開示してこなかったのか。いずれにしても国会での説明はもう免れることはできない。国会議員への閲覧を許可する際の大前提として、政府は保秘契約の中身について開示する責任がある。そしてもちろん、形骸化し一国だけのわがままルールとなっている保秘契約それ自身を、早急に破棄すべきと私は考えている。

2.米国や他国のテキスト開示の実態はどうなっているのか?
 これも先述の通り、これまで日本政府は各国における情報開示のやり方について、詳細な把握は十分できていなかったようだ。甘利大臣や西村副大臣の答弁や記者会見でのコメントからもそのことが伝わる。甘利大臣も西村副大臣もそろって「USTRに照会中」「アメリカと日本の秘密保持義務が掛かる掛かり方も違ってくると思いますから、その辺のことをしっかり精査をしたいと思っております」というような発言をしている。要は米国の実態を把握し、それに沿ってやるということのようだが、政府が把握した結果について、保秘契約内容の開示とも関連し、私たち国民に知らせるべきである。
  さらにいえば、12か国で交渉しているはずのTPPなのに、なぜ日本政府は「米国の情報開示の方針や方法を調べる、参考にする」としかいわないのか。マレーシアやベトナム、カナダ、メキシコは? ジャイアンに許可をもらえばその範囲内のことはできる、ということなのだろうか? ここでも「誰が(どの国が)TPPというルールを支配しているのか」が明らかであり、また貿易問題以外の日米関係の不平等性もかかわってくるのではないか。

3.開示の具体的な運用のしくみやルールはどのようになるのか?
 55日の西村副大臣の記者会見コメントでは、具体的な運用やルールは帰国後に検討する、ということであった。実はこの運用やルールづくりがもっともやっかいであり、そして情報開示を本当の意味で民主主義を具現化したものとするのか、あるいは単なる形式やエクスキューズとするのかの分け目となる。かなり技術的な議論にもなるが、仮に国会議員へのアクセスが可能となる場合、大きく言って下記のような内容・条件が確保される必要があると私は考えている。
 ①テキストは原文(英語)と政府による日本語訳の両方をセットにしなければならない
  国会議員も国民も、原文だけを見せられても意味不明である。しかし政府による翻訳あるいは抄訳だけ見せられても不十分である。原文と翻訳の両方をセットにして閲覧可能とするべきである。
 ②国会議員本人だけでなく、専門性を持つ秘書などのスタッフの同行も許されるべき
  米国ではすでに今年に入って、スタッフの同行も許可されている。TPPの交渉分野は非常に広く、国会議員自身だけでは必ずしも専門性をもった分析が十分でない場合もあるので、閲覧には必ず秘書などのスタッフ同席が許されるべきである。
 ③テキストに書かれていない内容の説明を政府は議員の要請に応じて行なうこと
  国会議員が閲覧したテキストに関して、交渉プロセスや日本政府の方針などについて説明を求めた際には、テキストそのものに書かれてある文言以外の、交渉プロセスにおける議論や各国の主張の違い、日本政府の具体的提案などについて政府は説明しなければならない。米国の国会議員はすでに、単にテキストを見せられることでは意味があまりなく、交渉のプロセスや「書かれていないこと」(例えば為替操作禁止条項など)について政府はどのようにするつもりか、他国は何を主張しているのか、などの説明を政府に求めてもいる。考えてみれば当然の話だが、テキストの「行間」も併せて開示されなければ意味がない。
 
4.大筋合意や妥結の前に開示はなされるのか?
 西村副大臣が国会議員へのテキスト閲覧の方針をコメントしたのは55日。折しも安倍首相訪米の直後であり、そしてTPP交渉全体の行方を握る米国TPA法案の審議がいよいよ本格化するという時期である。この「タイミング」は何を意味しているのだろうか。素直に考えれば、米国が国会議員への全文テキスト閲覧を発表したのが318日、その後の4月上旬~下旬にかけて日本では国会議員の質問や情報開示法案の提出などが起こる。これと並行して日本政府が米国における閲覧の状況を調べ、その結果55日に発表、となる。
  しかしやはり気になるのはTPA法案の動きと日米協議の進展具合である。穿った見方をすれば、日本で国会議員に何らかの形でテキストを公開するということが、日米協議やTPA法案問題とも関連しながら囁かれる「夏までの妥結」に向かうエクスキューズになりはしないか。つまりいよいよ合意や妥結が近づいてきたというタイミングで、「ある程度の情報開示」を与野党の国会議員への「説得材料」にするという危険性である。
  TPP交渉テキストは、それ自体を何百回見ても本当の狙いにたどり着くのは困難な代物だろう。だからこそ、先に書いた「書かれていないことについての説明」や「交渉のプロセス」の説明が重要なのである。そのことを考えるとき、これから日本政府がどのようなスケジュール感で議員に閲覧を許していくのかが決定的に重要である。「大筋合意」に至るまでの間に、閲覧と説明がなされなければならないし、逆にいえばそのことがなされない限りは、妥結をしてはいけない、という「条件」を国会でしっかりと規定していかなければならない。もちろん政府が閲覧と説明をしたからといって大筋合意をしてよいということにはならない。閲覧や説明は前提条件であって、それがなされて初めて、日本にとってTPPが有益なのかどうかの議論が始まる、ということである。

5.国会決議で約束した「国民的議論」を
―国会議員だけでなくすべての人びとにテキストは開示されなければならない
 この点は、1~4までの国会議員への閲覧に関する論点とは位相が異なる。しかし何よりも重要な問題である。2013年4月、自民党は国会決議で情報開示に関して以下のことを採択している。
「交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること」。
 この決議に照らしてみると、これまで国会への報告はもちろんのこと、国民的議論に足るような情報提供が十分になされてきたとは言い難い。政府は、何回も各地で説明会を実施したりホームページで交渉に関する情報をたくさん提供している、という主張を繰り返しているが、それでは本当の意味での「国民的議論」は起こるはずがない。なぜなら、提供される情報とは、常に交渉の日程やどの分野で行ってきたかなどの概要、あるいは「テキストがほぼ固まっているのはこの分野」「この分野はまだ決着がついていない」などの説明であり、肝心の「中身」についてはまったく説明されないからだ。
  なぜ政府が中身を説明できないのかといえば、これまで何度も繰り返してきた「保秘契約」があるからという理由だ。しかし先述のとおり、保秘契約そのものの平等性・普遍性がすでに破たんしている可能性がある。そのような契約のもと情報が長らく開示されていないのだとすれば、あるいは「開示してもいいはずの内容を日本政府の独自の判断でしてこなかった」のだとすれば、政府の責任はあまりにも重い。
  TPPは机上で練られたテキスト文書の上だけで完結するはずはない。私たちの暮らしや仕事、地域社会のあり様、社会の制度、主権そのものまでをも脅かす危機であるからこそ、懸念や反対の声が今も続いているのである。米国のなりふり構わぬルール違反(あるいはダブルスタンダード)が徐々に明らかになってきている今、「もういい加減、秘密隠しごっこはやめよう」と毅然と主張することこそが、日本政府がすべての交渉国そして日本の人びとに対するフェアで誠実な態度ではないだろうか。そしてそのことは、民主主義国家の政府として決して誤った選択ではなく、長期的に見て国際的にも大きな信頼を得られる英断であると私は思う。
  
情報開示の問題は、TPPに賛成であれ反対であれ、あるいは「わからない」という立場の人であれ、大きく、等しく、かかわる問題である。私たちが日々協働している米国NGOパブリック・シチズンの創設者ラルフ・ネーダー氏は、かつて「情報は民主主義の通貨である」と語った。正しく、誰にも歪められていない情報に等しくアクセスできることで初めて、私たちは考え、他者の意見や立場も知り、比較もしながら、自分の意見を決めることができる。そもそもここまで情報が隠されてきたこと自身が「異常な」協定であり、あり得ないという当たり前の論理を決して手放さずに動いていきたいと強く思う。