2020年11月16日月曜日

米国大統領選とジョー・バイデン候補の貿易政策

2020年11月4日、米国大統領選が行われ、多くのメディアではすでに民主党ジョー・バイデン氏の当選が確実と報じられている。最終的な結果は出ていないものの、バイデン氏の当選の可能性が高い中、注目されるのは同氏及び民主党の貿易政策だ。

すでにバイデン陣営は、政権移行チームを形成し、ウェブサイトも立ち上げて様々な発信を行っている。その主要な柱は「コロナ対策」「経済の回復」「人種の平等」「気候変動」の4つだ。選挙期間中、バイデン氏は貿易政策について特に詳細な言及はしてこなかったものの、論戦や演説の中では、トランプ政権の強硬な一国主義や、多国間主義の後退などへの批判を行ってきた。

バイデン政権が主要な柱に掲げる「経済の回復」は、もちろん国内政策だけでは立ち行かず、必然的に他国との貿易政策が関わってくる。特に、中国との貿易・投資関係をどうするのか、WTOへの関与をどうするのか、そして日本を含む他国との二国間貿易協定やTPPなど地域貿易協定についてどうするのか、など注目される。まだ先行きは見えないが、参照となる文書として、選挙期間中に全米鉄鋼労組(USW)がバイデン氏に対して行った質問状とその回答がある。これは同労組に対してだけでなく公開された文書でも出されており、いわばバイデン氏の「公約」と言ってもいいだろう。質問状全体は貿易政策に限らず、他のイシューも含まれるが、ここでは「グローバル経済と国際貿易」という項目を翻訳して紹介する。

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ジョー・バイデン氏のグローバル経済および国際貿易に関する公約

原文: https://www.uswvoices.org/endorsed-candidates/joe-biden

全米鉄鋼労組(USW)による、米国大統領選期間中のジョー・バイデン候補者への質問とその回答。

私たちの質問

 米国の労働運動と全米鉄鋼労組(USW)は、米国と他国との貿易協定の改善に引き続き尽力している。あまりにも多くのケースで、貿易協定の欠陥に最初に苦しむのは労働者たちである。あなたは、貿易協定における製薬会社の独占権を軽減し、気候汚染の執行を強化し、そして迅速で強力な労働に関する執行メカニズムを支持しますか、それとも反対しますか?

  • 労働に関する強制的な執行条項を持たない貿易協定に反対票を投じますか?
  • 同僚たちと共に、貿易政策の弱点を強調する書簡に参加しますか?
  • 選挙で選ばれた立場として、アウトソーシングをするインセンティブを止め、不平等を減らすために、他にどのような行動を取りますか?

 ジョーの回答

 私は、世界貿易においては米国のビジネスは競争し、勝利するべきだと信じています。世界の消費者の95%は我々の国境の外で暮らしています。我々は、自国内で最高の製品を作り、それを世界中で販売できるようにする必要があります。米国の労働者と企業はあらゆる相手を打ち負かし、勝利することができます。しかし、政府は彼らのために必死で闘う必要があります。私はすべての米国の人々の仕事のために、特に不公平な外国の慣行に反対して闘うつもりです。

 貿易は雇用と市場のための厳しい競争です。大統領は、米国の労働者や地域社会の側に立つ必要があり、裕福な企業や、自国の企業に補助金を出して保護している外国政府の側に立つのではありません。

 それがトランプ氏の問題点です。いざとなれば、トランプ氏は労働者、労働組合、そして地域社会に抗して、企業の利益に味方をします。そして彼は、米国の労働者を見捨てて海外に雇用を移すことで、企業とその経営者に報酬を与えます。それら企業に対し、米国に雇用を創出し、維持し、取り戻すための責任を負わせることをせずにです。

 我々は、それをトランプの税法案で目撃しました。この法案は、大企業に巨額の減税を行ないますが[1]、それら企業に対して、雇用を米国に戻し、彼らが去った時に壊滅的な打撃を受けた地域社会を再建するよう強制するものではありませんでした。アウトソーシングは続いてきましたが、トランプ大統領がこれらの企業に責任を課したのはいつだったでしょうか。ツイートでもなく、フォックスニュースでの暴言でもなく、これら企業に正しいことをさせるための厳しい大統領の行動はあったでしょうか。

 我々はUSMCAにおいてでさえ、それを確認しました。トランプ氏は製薬会社への大規模な利益を追求しましたが、労働者の保護に関する強制的な執行は求めていませんでした。トランプ氏が交渉した協定は悪いものでしたが、ペロシ議長や民主党議員、そして労働運動―とりわけ全米鉄鋼労組(USW)が、協定の重要な改善を勝ち取り、協定はより良いものになりました。

 我々は、中国とのいわゆる「第一段階」の貿易協定にもそれを見ました。トランプ氏は、中国の違法な補助金および国有企業の悪用について、中国から何も獲得しませんでした。そして、米国の銀行が中国でビジネスをすることを支援するために、交渉のチップを使いました。それが米国の労働者をどのように助けるのでしょうか? 米国は中国を相手にする必要がありますが、トランプ氏は、労働者たちを置き去りにしたまま、それを大きく間違った方法で進めてしまいました。

 今後、例えば日本やインドなどとの間でさらに多くの貿易交渉が予定されていますが、トランプ氏がこれらの協定について正しい側に立っているかどうか、信用することはできません。彼は再び米国の労働者を売り渡すでしょう。それが彼のパターンなのです。私は、自分が誰の味方なのか知っています。私は、米国の労働者、労働組合、そして地域社会の側に立っており、企業の利益の側にはいません。その意味するところは、次のようなことです。

 1.        私は、米国内で労働者および地域社会に大規模な投資を行うまでは、新たな貿易協定の交渉は一切しません。彼らがグローバル経済の中で競争し、勝利するための装備を整えます。これには、米国内における教育、インフラ、製造業への投資が含まれます。

2.     貿易に関するあらゆる決定の第一の目標は、米国の中産階級を構築し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、そして地域社会を強化することでなければなりません。

3.     私は、外国の不正行為が米国の雇用に脅威を与えるときはいつでも、一貫して積極的に米国の貿易法を施行します。私は、必要な場合には関税を課しますが、トランプ氏との違いは、私は、単に強さを偽装するのではなく、勝つために関税を課す戦略―計画―を持っているということです。私は、中間層の成長という目標を達成するためにどのようなステップを踏む必要があるのかを決定するために、トランプ政権の貿易政策を直ちに見直します。トランプ氏の関税に対するアプローチは、近視眼的で破壊的です。原産地規則に関する私の以下の私のコメントをご覧ください。

4.        そして、私はトランプ氏がやってこなかったこと、そしてできないことを実行します。私は、貿易のルールに違反している中国および他国との闘いにおいて、米国への支援のため世界を結集させます。大統領が友人を侮辱し、恥をかかせていては、敵対国に抗する連合を築くことはできません。しかし、必要な場合には、バイデン政権は自らの力で公正な貿易のために闘います。

5.        インフラや労働力、米国の安定性から利益を得ている米国企業が、減税を得るためだけに雇用をアウトソーシングすることは正しくありません。大統領として、私はトランプ氏の過剰な企業減税を撤回し、企業が雇用と利益を海外に移すことを奨励するインセンティブを削減します。私は、企業の利益の移転を終わらせ、アウトソーシングと闘います。これには、違法な租税回避を促進する国へ制裁措置を課すこと、および企業の米国外軽課税無形資産所得(GILTI)税率を2倍にすることが含まれます。簡単に言えば、私は大統領として、私は海外に雇用を移転する企業への減税措置に終止符を打つでしょう。トランプ氏がウィスコンシン州で推進したフォックスコンの件のような、偽りの、愚かで無駄な税金の優遇措置には騙されません。米国内の市、州、あるいは連邦政府など、あらゆる政府から援助を受けるすべての企業は、長期的に中産階級を築き、地域社会を強化することに、揺るがぬ保証をしなければなりません。

6.        私は、労働組合や環境運動から貿易の専門家を指名し、私の政権で貿易交渉や貿 易執行の職に就かせます。そして、私のもとで貿易に関する仕事をしてもらうための前提条件は、貿易に関するあらゆる決定の第一の目標は、米国の中産階級を構築し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、地域社会を強化するべきだという理解です。その上で、労働や環境保護の提言者たちが、今後の貿易交渉の初日からテーブルにつくことを保証します。

7.        オバマーバイデン政権時代、我々は、強制労働を使用する一方で米国政府と取引を行う連邦政府の受託業者に対して、連邦政府のゼロ・トレランス政策を強化しつつ、またそれらの政策に違反する企業を特定するような執行命令[2]を出しました。トランプ氏はその執行命令を無視し、その結果、企業はやりたい放題の状態になりました。私はこの執行命令の厳格な執行を要求します。皆さんの税金が、米国の労働者から雇用を奪うために設計された恐ろしい搾取に寄与することはありません。

8.     私の政権では、米国およびすべての貿易相手国で、強力かつ独立した労働組合を支援していきます。組合は民主主義にとって不可欠であり、組合は経済の安定にとって不可欠であり、組合は米国製品のための市場を構築するために不可欠であり、そして、組合は世界のあらゆる場所で行うべき正しい行動です。私は、私の政権が交渉するすべての貿易協定において、強力で強制力のある労働に関する条項を積極的に推進します。そして、その条項がない限り協定には署名しません。

9.        私は、企業が他の組織が利用できない特別な法廷を得るべきだとは思いません。私は、投資家対国家紛争解決(ISDS)のプロセスを通じて、企業が労働、健康、環境についての政策を攻撃する力に反対し、そして将来の貿易協定にそのような条項を含めることに反対します。

10.     最後に、トランプ氏の協定には、気候変動に対する保護がまったく含まれていません。同様に重要なのは、気候変動に対応する際に米国の製造業者とその従業員が利益を得ることを確実にするような内容が、それら協定の中に何もないということです。私たちは、海外にではなく、米国で創出される環境に優しい雇用に投資しなければなりません。このことが私の政権での、米国の中間層を再構築するための中心的な戦略となるでしょう。

 

私たちの質問

 貿易協定では、製品がどのように製造され、どのように組み立てられているかが重要な問題となります。「原産地規則」についての弱い条項は、貿易協定の非参加国が、貿易協定地域で細かな組立や生産を行うことを通じて貿易協定の恩恵を受けることを意味し、貿易協定の相手国の雇用と生産の両方の利益を損なうことになります。あなたは、貿易協定における強力な「原産地規則」条項を支持しますか、それとも反対しますか? 例としては、鉄鋼製品の「溶融と鋳込」を要求したり、もしくは自動車での60%を超える国内コンテンツ量を要求することなどです。

 ジョーの回答

 バイデン政権下では、貿易に関するあらゆる決定の第一の目標は、米国の中産階級を構築し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、地域社会を強化することでなければなりません。同様に重要なのは、私は、輸入を規制する一方で、米国の生産と輸出を促進することです。そのために、バイデン政権の下で交渉されるすべての貿易協定には、貿易協定の署名国によって米国の生産が促進され、“ただ乗り”する者の利益を制限するための強力な原産地規則が含まれます。原産国規則は、製品に「Made in the USA」と表示されていても、それが本当に米国産であることを保証するために、慎重に策定される必要がある。鉄鋼やアルミなどの製品は、米国内で溶融・鋳込がなされるべきであり、各国が抜け道を利用することはできません。これらの基準はまた、「バイ・アメリカ法」のような国内調達に関する法律への私の精励を推進することにもなります。

 

私たちの質問

国内の通商法を維持し、強化することへの努力を支持しますか、それとも反対しますか?

ジョーの回答

米国通商法は、米国の労働者、その家族、地域社会を保護し、米国経済を守るための重要なツールです。米国の貿易法は維持され、積極的に施行され、必要に応じて強化される必要があります。オバマーバイデン政権の間、我々は、例えばブラウン上院議員が提起した「Level the Playing Field[3]」に含まれる条項を採用することで、集積された貿易ツールの改善に努めました。これは、産業界と労働者が不公正な貿易と闘うための新たな条項でした。我々は鉄鋼労組と協力して、中国からの乗用車・小型トラック用タイヤの急増を制限するために第421条の下で取り組みました[4]。私たちは他の貿易強制措置についても共に闘いました。

私は大統領として、必要なときにはいつでも効果的な方法で積極的に我々の法律を執行するための包括的な戦略を策定します。喫緊のこととして、私は、ここ米国での生産と雇用を危険にさらす不公正な貿易慣行と闘い、米国の製品が他国の市場へのアクセスを獲得するためには、どのような新しいアプローチとツールが必要かを検討します。我々は、米国の通商法を回避し、貿易紛争の有効性を損ねようとする継続的な動きに対処しなければなりません。世界的な過剰生産能力、国有企業、その他の問題は、私たちの利益を損なうものであり、これを継続させることはできません。政府が労働者の側に立ち、労働者の権利のために立ち上がっていることを、労働者は知らされるべきです。それは、労働者自身が不公正な貿易と闘ったり、雇用が海外へ移転され、生産がアウトソーシングされないようにするためです。外国人による不正行為は私の政権では許されません。

 

私たちの質問

経済協力開発機構(OECD)は、世界にはまだ5億トン以上の過剰な鉄鋼生産能力があることを強調しています。この過剰生産能力は、多くの場合、外国の国営企業が所有し、補助金を受けて米国市場に入ってきています。国家安全保障の利害から、米国は関税を導入し、米国の民間企業の操業能力を10%引き上げ、鉄鋼生産量を前年比で500万トン以上増加させました。あなたは、過剰生産能力に対処するためのグローバルな解決策が見つかるまで、鉄鋼とアルミニウムへの米国通商拡大法232条の関税措置に賛成しますか、それとも反対しますか?

ジョーの回答

航空宇宙産業から電力網まで、数え切れないほどの用途に使用されている鉄鋼とアルミニウムは、国家安全保障および重要なインフラの中軸を形成しています。鉄鋼のダンピング、特に中国からのダンピングは、米国の鉄鋼の価格を下げ、鉄鋼市場に打撃を与えるように設計されています。これは、我々の経済への深刻なリスクであり、対処する必要があります。オバマーバイデン政権は、米国への鉄鋼出荷の審査を強化[5]し、貿易執行のための資金を増強しました。私は大統領として、世界的な過剰生産能力に対処し、中国のような国よりも効率的で環境に配慮した方法でこれら製品を生産する、米国の生産者と労働者が成功することを確実にするために努力します。

トランプ政権の鉄鋼とアルミニウムに関する行動は、短期的な救済をもたらしましたが、これらの部門が直面している長期的な課題に対処するためには何もしていません。トランプ政権が行った中国との貿易交渉は、中国の補助金や、国有企業の強奪的行動、不公正な貿易慣行を抑制することについて何も対処していません。トランプ政権は、鉄鋼の過剰生産能力に対処するための多国間協議を解体させました。私は、我が国の安全保障を守り、鉄鋼、アルミニウム、その他の製品の公正な貿易を保証していくつもりです。我々の貿易政策が、現在および長期的に労働者を支援し、中間層を成長させるという目標を達成することを確実にするために、私は、現在課されている既存の232条の関税およびその他の関税を見直します。私たちはまず、これまでに行われた可能性のある民間の取引や保証を含め、現政権がとったすべての措置を慎重に評価する必要があります。

そして、バイデン政権は、公正な貿易を確保し、重要なインフラおよび国家安全保障を守るために必要なあらゆる行動をとる一方で、我々の戦略の核心部分は、米国の鉄鋼労働者に良質で十分な組合雇用を確保するために、国際的な同盟国と協力して中国の不公正な慣行に集団的に取り組むことになるでしょう。トランプ氏は同盟国を屈辱に陥れ、激怒させました。私は、同盟国を私たちの大義のもとに結集させ、リードしていきます。

私たちの質問

鉄鋼、タイヤ、アルミニウム、その他は、中国、インド、ベトナムなどの国々が追加的なの製造施設を建設しているため、国際市場がそれら追加の生産能力を維持できるかどうかに関わらず、大幅な過剰生産能力のしきい値に達しています。あなたは、米国の製造業の雇用に悪影響を与えないようにするために、他国による製品の過剰生産能力に対処するための、一国による、そして世界的な努力を支持しますか、それとも反対しますか?

ジョーの回答

前述の回答を参照ください。

 

私たちの質問

人為的に輸出を増やすために通貨を過小評価している国による為替操作を抑制する努力に賛成しますか、反対しますか?

ジョーの回答

通貨操作に関して言えば、私は、貿易において不公平な優位性を得るために通貨の価値を人為的に操作しようとする外国のあらゆる試みに反対します。過去には、中国のような特定の国が、自国の輸出品を世界市場で相対的に安くすることを目的とした大規模な経済戦略の一環として、対ドルでの通貨価値を違法に低下させてきました。この行為は、米国の製造業者および輸出業者の雇用を犠牲にしています。それは、貿易相手国がルールを守っていれば 守られていたであろう雇用です。私の監視下では、すべての貿易相手国が健全な経済および貿易の原則を遵守するようになるでしょう。そして米国の労働者に利益をもたらす方策として、通貨を操作しようとする違法な行為には強く反対します。そして、既存の法律は、すべての新しい貿易協定の中で強化されるべきです。透明性と協議に関する条項を強化し、必要に応じて、為替操作の悪影響に対処するための規律と強制力を備えるべきです。