2014年8月22日金曜日

他国の国内法の変更を強要する米国の恐るべき貿易協定「承認手続き」―TPPで日本はまさにその危機にさらされる


 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉に日本が参加してから丸1年が経った。
 日本が参加した後、ブルネイでの全体交渉会合(20138月以来開かれていない)や各分野別会合、首席交渉官会合などが重ねられ、またAPEC等の国際会合に合わせて閣僚級会合も持たれてきた。さらに各国は、二国間での交渉を並行して進めている。
 しかし、常に「年内妥結」という目標が掲げられるものの、交渉の実態は困難に満ちている。
 最大の論点といわれる日米の関税交渉、知的財産、環境、国有企業などの懸案分野の妥結の目処は立たず、2014年夏のカナダ・オタワでの交渉会合を経てもその行く末は見えていない。
 秘密交渉であるTPP交渉については、そもそも交渉テキスト(条文)は非公開であり、各参加国が交渉参加前に交わす「保秘契約」があるため、政府交渉官は自国のステークホルダーはもちろん、同じ政権与党の国会議員にすら交渉の詳細を明らかにできないことになっている。各国の市民社会、国民・住民に交渉の中身がほとんど知らされていないことはいうまでもない。

★国際NGOによる共同アクション―恐るべき米国の貿易協定「承認」手続きの実態

 そんな中、TPPに反対する国際NGOグループは、日常的には情報交換や行動戦略を練り、また交渉官会合・閣僚会合が行われる際には現地に赴き情報収集に努めている。私自身もそのメンバーの一人として微力ながら活動に参画している。
 7月のオタワ会合を経た後、国際NGO主要メンバーより、米国内の貿易協定発効までの承認手続き(Certification)が実行されれば、米国以外の交渉参加国の国内法や政策の変更が強いられる危険性があるとして、広く周知を行う呼びかけがあった。
  この承認手続きとは何か。
  米国議会において、他国との貿易協定が承認されたとしても、その後、米国政府は貿易協定を発効するために他国の国内法・制度についてチェックをし、変更を要求し、その変更プロセスにも関与していく。米国が「これで十分」と太鼓判を押すまでは、貿易協定は発効しない。言ってみれば、貿易協定を自らの思惑通りに変質させていくための「最終兵器」と言っても言い過ぎではないだろう。
 すでに様々な自由貿易協定(FTA)にて「活用」されているこの承認手続きについては、各国の市民はもちろんのこと、法曹界、ジャーナリスト、国会議員の間でも十分に知られていない。しかし80年代以降に数々と結ばれてきたFTAとそれを認めるための承認手続きにおいて、米国がいかに強く他国の法律変更を要求し、自らの要求を実現してきたか。特にペルー、グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドルなどの中米諸国に対して、また最近では韓米FTAを結んだ韓国に対して、米国は執拗に、一方的な要求を次々と行ってきた。国際NGOのメンバーたちは、数々の資料や報道、米国の「情報自由法」に基づく情報公開請求などによって多くの「証拠」を集め、米国の行ってきた驚くべき実態を詳細にレポートしている。

★貿易協定の条文にない内容も「変更」要求の対象に
 承認手続きによって、米国はそもそも協定文書に書かれていない内容についてまでも、相手国に法律変更を要求してきた。知的財産権、テレコミュニケーション、税関、農産品、紛争解決、外国企業のための措置、医薬製造承認におけるデータ保護期間の変更などじつに多岐にわたる分野である。
 中には、他国の国内法の変更に、直接・間接的に米国(USTR他政府関係者)が「関与」するというケースもある。協力という名のもとで行われるこの内政干渉をつうじて、米国は自国の要望を次々と実現してきたのである。またこの承認手続き自体には、米国の輸出業界、大企業などの意向があからさまに反映されてもいる。その事実が目の前に出されたとき、私たちは次のような疑問を抱く。

  これは誰にとっての「貿易協定」なのか? 
  米国以外の国に主権はあるのか?
  これは本当に、「貿易協定」なのか?

 いうまでもなく、TPP交渉においても米国はこの「承認手続き」を用いて、他の交渉参加国に対して国内法・制度・慣行の変更を要求するものと思われる。その際のターゲットの筆頭が、日本である、というのが本ペーパーの主旨でもある。
  そもそもTPP交渉以前から、米国は『貿易障壁報告書』等で日本の様々な法制や規制、慣行を「貿易の障壁だ」と列挙してきた。これら「壊すべき規制」は、TPP交渉と並行させられながら、仮に協定文に具体的な文言として盛り込まれていなかったとしても、この承認手続きのプロセスにおいて、強硬に「変更を強いられる」ことは間違いない。

TPP反対運動の関係者はもちろん、弁護士、国会議員、一般の人たちへ周知のため、ここに問題提起を行いたい。国際NGOグループは、すでに英文のウェブサイト「TPP No Certification」(http://tppnocertification.org/)を立ち上げ、様々な文書を発信している。本ペーパーの日本語版についても、すでに同ウェブサイトに掲載されており、原文の他、さまざまな貴重な資料もご覧いただける。日本語版は、「STOP TPP!! 市民アクション」(http://stoptppaction.blogspot.jp/がとりまとめを行い、私もそのチームの一員として参加をした。
 この文書を起草したのは、ニュージーランド・オークランド大学教授のジェーン・ケルシーさんと、国際NGO「Third World Network」のサンヤ・レイド・スミスさんである。難解なしくみを理解しやすいようにと、全体が「Q&A」方式で書かれている。
  日本語版の翻訳に関しては、短い時間で翻訳を一緒に担ってくださった、磯田宏さんと東山寛さんにこの場をお借りしてお礼を申し上げたい。お二人の知見と翻訳技術あってこその完成である。
  下記に日本語版の全文を掲載するので、ぜひ多くの方に知っていただきたい。




PDF版のダウンロードはこちらから



TPP等の貿易協定発効前に
交渉参加国に対して法律変更を求める
米国の法的「承認手続き」に関するQ&A
 
Q&A ON THE US LEGAL REQUIREMENT FOR 'CERTIFICATION' OF
TRADE PARTNERS’ COMPLIANCE
BEFORE AN AGREEMENT LIKE THE TPPA GOES INTO EFFECT

Professor Jane Kelsey, Faculty of Law, The University of Auckland, New Zealand and
Sanya Reid Smith, Legal Adviser and Senior Researcher, Third World Network


1.承認手続きとは何か?
米国大統領は、自由貿易協定(FTA)の合意相手国が協定を遵守するのに必要となる国内諸法や諸政策を、米国側の期待を満足させるものに変更していると米国政府が承認するまで、自国の国内承認プロセスを完了したという相手国への公式通知を保留する。
このことが意味するところは、仮に米国議会が環太平洋連携協定(TPP)を承認し、さらに他の締結国が独自の国内承認過程を完了したとしてもなお、米国政府が「他国が協定内容を実施した」と承認しない限り、また承認するまでTPPは発効しないということである。
 この承認プロセスは、米国政府に対してすでに交渉を通じて達した合意を書き換えさせる「テコ」を与え、また協定が署名された後にさらに追加的な譲歩を確実に獲得させることになる可能性を持つ。

2.承認手続きという制度はいつ、なぜ導入されたのか?
「承認手続き」という条文は、米国議会が関税や輸入割当量を超えて拡大された諸内容を含む「通商」協定を承認するようになって以来、アメリカの通商協定実施法に含まれるようになった。それが最初に適用されたのは1988年のカナダ・アメリカ自由貿易協定(CUFTA)であり、次いで1993年の北米自由貿易協定(FTA)であった(註1)。承認手続き規定の条文は、その後ほとんど同じ形で維持されてきた。その重大な含意にも関わらず、米国のこの承認手続きは、その犠牲者となった諸国を除けば、良く知られていない。

3.なぜ承認手続きは、近年になってより長期間を要するようになっているのか?
チリ政府は、米国-チリFTAにおける知的財産権について、米国側がチリの義務だと考える事柄を遵守するために、米国からの圧力に直面した。チリ政府は米国とのFTAが効力を発揮した後にそのような変更を行なうことを拒否した。また米国からは、オーストラリアが医薬品と知的財産権に関する米豪FTAの諸義務を、オーストラリアが果たしていないという懸念が報告された(註2)。それ以来、企業があからさまに要求した諸変更をさせることにより多くの焦点があてられるようになっており、そのため以下に論じるような長期間の遅延が生じるようになったのである。

4.承認手続きの法的権限は何か?
承認手続きは、米国大統領に対して法的拘束力を持った義務である。それは過去26年間に米国が締結した各FTA実施のために議会を通過した法律に含まれている。最近の例として米韓FTAの実施法があるが、そこでは以下のように明言している。
協定発効のための諸条件:本協定が発効する期日に効力を発揮する本協定の諸条項を遵守するために必要な諸手段を韓国政府が措置したと米国大統領が判断した時にはじめて、201211日ないしそれ以降に、米国大統領は韓国政府との間で本協定が米国に関して発効する旨を記載した覚書を交換する権限を与えられる(註3)

5.同様な法的義務がTPPにも適用されることになるのか?
同様の一方的な承認手続き義務が、TPPにも適用される可能性がある。実際、承認手続き義務が達成されているかどうについてUSTRが議会と協議するための新たで追加的な諸義務が、大統領にファスト・トラック権限を与えるための議会提出法案に含まれている。20141月にTPPのためのファスト・トラックを賦与すべく提案された「2014年超党派通商優先事項法(キャンプ・ボーカス法案の名でも知られている)」は,第4(a)(2)として,以下の条文を含んでいる。
発効する前の協議:通商協定を発効するための覚書を交換する前に、USTRは密接かつ時宜を得た形でパラグラフ(1)に特定した議会および同委員会メンバーと協議を行ない、協定相手国が当該協定が発効する期日に当該協定の諸条文を遵守するために効力を発する措置を全面的に通知し続けること。

6.承認手続きは、ファスト・トラック(TPA)とどう違うのか?
承認手続きは、ファスト・トラック(つまり貿易促進権限:TPA)とは別のプロセスである。ファスト・トラックとは、議会が米国大統領に対して、議会での採択前にある協定の交渉・署名・および加入の権限を与え、その上で議会が当該FTAを一括承認するか否決するかを90日以内に投票することを保証するものである。ファスト・トラックは協定についていかなる修正も許さないだけでなく、協定について議会が審議する時間をも制限し、それらによって迅速な通過を確実にしようとするものである(註4)。

7.もし大統領がファスト・トラック権限を持っていても、議会はTPP最終条文の変更ができるのか?
大統領にファスト・トラックが賦与されていても、議会の多数派はTPPに変更を加えることができると主張している。実際彼らはそうしてきた。例えば2007年にジョージ・W・ブッシュ大統領が署名した米韓FTAが一例である。2011年に大統領が署名した同協定が議会を通過しないことが明白になると、バラク・オバマ大統領は自動車と農産物の貿易に関する追加的な譲歩を韓国に要求した(註5)。もし韓国がそれに同意していなければ、韓国は承認手続きの前提条件として「変更を行なうように」という新たな圧力を受けていただろう。

8.為替操作のような規則が、何らかの形でTPPに含まれることがあるのか?
TPPがすべての協定国に普遍的に適用される、いわゆる為替操作に対する規則を含まないで署名された場合、米国政府が署名後に追加的な要求としてそれを求める可能性はある。韓米FTA署名の4年後に起きた事態のように、米国政府担当官達が「追加的な譲歩なしには署名された協定を議会で通過させることができない」と表明することになるだろう。米国政府が定義した追加的な規則が、新たな条文を付与する附属合意書をつうじて追加され、TPPAの中核条文に一体化され、その附属合意書の実効化に伴って完全な強制力を持つことが可能となる。

9.議会メンバーは協定相手国と直接に交渉できるのか?
公式には、行政府が外国政府との交渉において米国国家を代表する。しかし実際には、議会メンバーは、自分達がFTA実施法案を支持する条件としてさらなる譲歩を外国政府に対して直接に要求するという行動に関与してきた。
例えば、当時のブッシュ大統領が対ペルーFTAに署名してから何年も経ってから、議会下院歳入委員会は同大統領に労働および環境分野に新たな条文を追加するよう圧力をかけた。同時にペルー政府に対して、労働、森林、およびその他の法律や措置について、彼らが同FTAを遵守するために必要だと考える内容を指定して要求する文書を提出したのだ。ペルー政府は明らかにそれらに応じる態度を見せ、変更のいくつかを実際に措置した。このようにしてFTAは議会を通過したのだった。しかし歳入委員会メンバーはなお、彼らの要求リストすべてが達成されない限り、ブッシュ大統領が承認手続きをすべきではないと主張したのである。
ブッシュ大統領は、医薬品ロビイ団体が承認手続きの条件として要求していた知的財産権について、ペルー政府が変更をしたことを強調したが、最終的に歳入委員会が承認手続き前に実行されるべきだとした労働、環境・森林に関する変更リストすべてを要求することはしなかった。その結果、今では今後の通商権限には、協定が発効となる前にいっそう強力な承認手続き諸義務を含むことについての超党派による賛同が存在している。

10.もし大統領がファスト・トラックを賦与され、さらに議会がTPPを承認したら、承認手続きは自動的に達成されたことになるのか?
そうではない。協定が議会を通過した後でさえ、協定相手諸国が米国が考える協定遵守を満たしたと米国が承認しない限り、協定は発効しない。承認手続きは、米国議会と米国産業界に対して、協定が署名され承認された後でさえ、協定相手諸国に対して追加的な譲歩を実現させるための追加的な「テコ」を賦与するものなのである。

11.もし大統領がファスト・トラック権限を持たない場合はどうなるか?
オバマ大統領は現在、ファスト・トラックを有していない。実際、過去20年間で議会がこの特別な権限を大統領に付与したのは20022007年の計5年間に過ぎない。ファスト・トラックがない場合、通常の議会投票手続きが適用される。第一に、下院と上院の該当委員会がTPP実施法案に修正提案をすることができ、協定条文に追加的な内容を盛り込ませたり、米国政府が行なった譲歩を取り除かせたりすることを、実施法案成立の条件にすることになる。あるいはまた該当委員会は、署名された協定そのものを単純に否決ないし承認するかもしれないが、その場合、当該協定は米国については実施される法的強制力を持たないことになってしまうことを意味する。
次いで上院本会議での審議について言えば、単純に、審議を終えたら承認のために100名の上院議員のうち60人の圧倒的多数の賛成が必要となる。もしこのハードルがクリアされたら、どの上院議員も本会議で修正を提案できる。下院では、議事運営員会がいくつの修正提案を本会議で審議することを許容するかを決定する。

12.実際に承認手続きとはどのように動くのか?
米国政府担当官達が協定が発効することを許容する前に、米国政府が協定相手諸国に対して、米国政府が要求する各国国内諸法および諸政策変更リストを伝達する。それから米国政府担当官達はそれらが遵守されているかを監視し、米国の目からして変更すべき内容を満たすまで、相手国政府に対してその国内諸法や諸政策を変えるよう圧力をかける。USTR2009年に次のように表明している。「USTRは,FTAへの遵守が達成されるまで,遵守に関する承認をしないという我が国の法的義務を非常に良く認識している」と(註6)。

13.このことは、米国が過去に結んだFTA相手国にとって実際的に何を意味したのか?
米国政府が他国に対して、各国で提案されている実施法案すべてを報告するよう要求し、それを米国が精査しコメントできるようにするという、共通したパターンがある。それに続いて、それら実施法案について米国政府との何ヶ月もの交渉が行なわれる。この交渉会合は当該国および米国の両方で行なわれる。
報告された多くの事例がある。エルサルバドルは少なくとも3回の交渉を持たされた(うち2回は米国にて)。高官レベルの政府代表団、さらに農業および経済大臣までもが、そもそも中米FTA条文には含まれていなかった米国の畜肉・家禽検査を受け入れろという要求への交渉のために派遣された(後述)(註7)。
米国政府は、コスタリカの7つの法律について条文を承認したが、それはコスタリカ自身がそれらを採択するより前のことだった。それらの法律とは、外国企業のための知的財産権、著作権、電気通信、税関手続き、農業、刑事訴訟手続き、および流通システム作りに関連するものだった。米国政府は,それら法案の最終版に何ら変更がないことを確証するために、検閲していたのである(註8)。
ニカラグアは中米FTAを実施するために成立させた法律を、なんとニカラグア大統領が署名する前に米国政府に検閲のために送っていた。米国政府は、ニカラグアがすべての実施プロセスを完遂するのを確実に保障するために、同法を公開するよう要求したのだった。米国政府は、あからさまに法案の中の数々の運用諸措置を明確化させようとした(註9)。
パナマ政府の担当官達は、USTRと「密接に作業している」と述べていた(註10)。
ドミニカ共和国の中米FTA承認手続きをめぐって、米国政府は同国の7つの中米FTA実施法の条文を事前承認し、さらに承認手続きに達する以前にいかなる変更もなされていないことを確証するために最終法を検閲していた(註11)。
グアテマラは20065月下旬に中米FTAを発効させるための法律を成立させたが、それはUSTRとの密接な協議を経てのことであり、しかしなお法律が米国政府の諸条件に合致しているかをUSTRが確認するために数ヶ月も待たされたのだった(註12)。

14.米国政府担当官達が協定参加他国の法案作成に関わるというのは本当か?
このことを文書で示している最もよい事例は、ペルーのケースである。2008年にUSTR代表代行がペルーに向かい、米国政府が要求していた「35の新たな法案をペルー政府が仕上げるのを支援した」ことが報じられた。おまけに、2チームの米国政府法律顧問がペルー政府が環境およびビジネス法案を作成するのを支援したのである(註13)。報告によれば、この35の法律には医薬品のデータ保護、投資家紛争処理、先住民族の土地所有権および教育システムへの変更が含まれていた(註14)。
米国情報自由法によって公開された諸文書が、さらに詳細な内容を提供している(註15)。付録Aの文書は、USTRスタッフ、リマの米国大使館スタッフ、その他の米国政府担当官、およびペルー政府担当官の間で2008年と2009年の期間、すなわち米国・ペルーFTAにおいて、ペルーが米国政府の期待を満たすために自国の諸法律や諸規制を変更するよう要求されていた時期に交わされたコミュニケーションからの抜粋である。
これらの変更は、ペルーが同FTA200921日に発効させる前提条件として義務づけられた事項を達成したとする、米国政府の一方的承認を得るために行なわれたものである。
それらコミュニケーションのほとんどが、特にFTAの要求についてのUSTRの解釈をペルーが遵守するために採用された論争的な法令、すなわちペルー森林・野生動物法LD1090をめぐるものだった。それらは特に表記がない限りUSTR内部でのコミュニケーションである。

15.米国企業がこの承認手続きプロセスで果たす役割は何か?
報道によれば、米国の法律がFTAを承認する場合に求める詳細に加えて、米国企業の利害が承認手続きプロセスでの米国政府の要求の背景になっていることを示している。これら米国企業の利害には、米国のコメや豚肉産業(註16)、全米繊維産業団体評議会(註17)、シェブロン(訳注:巨大石油企業)(註18)、アルコール産業(註19)、国際知的財産同盟(註20)、米国研究製薬工業協会(註21)、そして全米肉牛生産者協会,全米豚肉生産者評議会,家禽肉輸出業者が含まれる(註22)。

16.米国市民社会も承認手続きプロセスに影響力を行使できるのか?
米国の諸労働組合は、米国政府担当官が対ペルーFTAを遵守するために必要と考えていた以上に、ペルーの労働諸法の追加的な変更を追求していた。労働組合と環境保護NGO組織の双方が、彼らが解釈するところの同FTAに合致するための諸法律が変更されない限り承認手続きに反対するという議論をしていた(註23)。
オバマ大統領は、コロンビア政府が合意された労働アクションプランを完全に実施していないにも関わらず、米国とのFTA遵守を承認してしまった。これが、民主党議員達が共和党議員達と同様に、彼らがTPPを遵守していると見なすことを確実に保障するために承認手続きを利用すると判断した理由の一つである。

17.米国政府による他の協定諸国の諸法案作成に対する介入は公になるのか?
公式の記録を見いだすのは困難である。利用可能な情報のほとんどは報道メディア、主要にはInside US Trade誌で提供されるものである。同誌は米国の業界の視点、米国あるいは米国の標的になっている国の政府担当官や政治家達のコメントを報道している。
米国政府と他のTPP協定参加国政府の間のコミュニケーションもまた、協定が発効してから4年後までは背景文書類の公表が妨げられるという同交渉の秘密条項の対象になってしまう可能性がある。この秘密条項が適用される文書類の分類もまた秘密であるがゆえに、何らかの確定的なことを述べるのは不可能なのだ。
いくつかのTPP交渉諸国内では、各国政府間のコミュニケーションは厳格な保秘義務に従うことになり、情報の自由法による公開対象にすらならないとされている。したがって他のTPPA交渉国の一般公衆はもとより国会議員にとってさえ、米国が各国の諸法律や諸政策の立案に関与していたり関与したことがあること、あるいはどのような異なる解釈が提案されたか、また自分達の政府が妥協したのかどうかについて知ることが不可能になるかもしれないのである。

18.承認手続きにはどれくらいの時間をかけることができるのか?
Aに示すように、各国が批准のために必要な手続きをおこなってから、何年も後まで承認手続きを先延ばしにすることが可能である。米・パナマFTAの場合、パナマの議会承認は2007年であるが、米国議会の最終的な承認までには4年以上かかった。さらに、米国は(協定の発効に必要な)正式な通知をもう1年保留した。特許、著作権、金融サービス、電気通信、政府調達、税関手続き、貿易救済などの面で、パナマの法制度の変更が、米国を満足させるものではなかったのがその理由である。
つまり、米国のFTA実施法案が作成される過程では、この承認手続きにより協定の発効が無期限で保留される可能性がある。(TPPとのかかわりで)ベトナム、ブルネイなどの国々にこのような扱いを求める書簡が、20145月に米国の超党派の議員154名によって提出された。書簡は、以下のようにTPPの労働分野での義務化を問題にしている。
米国政府は、著しく不適切な労働基準を断じて認めてはならず、これらの国々が自国の労働法制の変更を受け入れ、その実施に向けて積極的な行動をとるまでは、協定の履行を保留すべきである(註24

表A 
FTA相手国
相手国の
議会承認など
米国の
実施法案成立
協定発効
遅延期間
エルサルバドル
20041217
2005年7月28
2006年3月1日
7ヶ月
ホンジュラス
2005年3月3日
2005年7月28
2006年4月1日
8ヶ月
ニカラグア
200510月9日
2005年7月28
2006年4月1日
6ヶ月
グアテマラ
2005年3月10
2005年7月28
2006年7月1日
11ヶ月
ドミニカ共和国
2005年9月6日
2005年7月28
2007年3月1日
18ヶ月
コスタリカ
200710月7日
2005年7月28
2009年1月1日
15ヶ月
ペルー
2006年6月28
200711月4日
2009年2月1日
14ヶ月
パナマ
2007年7月11
20111012
20121031
12ヶ月
韓国
20111122
20111012
2012年3月15
3ヶ月
注:1)コスタリカの承認日は国民投票がおこなわれた日付である。
  2)遅延期間は相手国または米国の後の方の承認日と発効日から計算している。
  3)米韓FTAは2007年6月30日に署名したが、米国議会の主張により、自動車の追加的な市場アクセスで再交渉がおこなわれた。米国議会は、ファスト・トラックがあったにもかかわらず、FTA実施法案を承認する条件として再交渉を要求した(註25)。


19.承認手続きは正式な法制度にだけ適用されるのか?
否である。もっと広範囲の措置に適用される。これまでに知られているものを挙げれば、規制措置(註26)、制度・規制上の取り決め事項(註27)、国際協定(註28)、政令(註29)も対象になっている。

20.協定の条文が曖昧で解釈の余地がある場合はどうなるのか?
FTA協定の条文は、難航した問題であればあるほど、曖昧で不明瞭な妥協の産物となっており、各国が好ましいように解釈する余地が残されている。だからこそ、加盟国はFTAの条文に同意しているのである。米国は、そのような条文の解釈の仕方は有効だと主張している。

21.協定内容を国内法制に反映させる仕組みが異なる場合、承認手続きはそれに対処できるのか?
ひじょうに難しい。2006年に下院歳入委員会の民主党筆頭理事だったチャールズ・ランゲル議員は、CAFTAの実施が遅れた事情を次のように述べている。
CAFTAの実施が遅れたのは、USTRと中米諸国の間で、法解釈に根本的な相違があったことも要因である。FTAの署名国は、知的財産や農産品の市場アクセスといったすべての事項について、協定の内容を反映させて国内法制を変更しなければならない、とUSTRは主張した。逆に、中米諸国は自国の立法体系の下で、FTAが国内法制よりも上位にあるとはいえない、と反論したのである。(註30
その結果、USTRは問題に応じて対処の仕方を変えた。知的財産分野ではCAFTAに参加する中米諸国に国内法制の変更を求めたものの、国際労働協定の遵守については、それを国内法制に導入するだけで十分である、とした(註31)。

22.協定内容を上回るような要求を米国はおこなっているか?
確かにおこなっている。協定本文に書かれていないことであっても、相手国が合意したと米国が考えているものは臆せず要求している。
CAFTAの場合、米国の食品製造施設の検査基準に同意するよう、中米諸国に要求している。そのことは協定本文には書かれていなかったが、USTRによれば合意事項であり、協定の発効前にこの米国基準に同意する必要があることをこれら中米諸国も認識していた、と主張していた。CAFTAの経験から引き出される教訓は、加盟国はもっと明瞭なかたちで、文書でそれをおこなうことを含めて、実施約束をすべきだと指摘する者もいる(註32)。
民主党議員で、上院財政委員会のチャールズ・グラッスリー委員長の認識も同じである。協定本文に記載はないが、中米諸国は協定の実施に先立って「同等の措置」(米国の食品製造施設の検査基準に同意すること)を受け入れなければならないことを認識していた、と言う。グラッスリー議員は、この問題が対処されるまでCAFTAの実施を急ぐ必要はない、とも述べている(註33)。
 過去にも、協定本文に含まれていないが、単なる「口約束」ではないとUSTRが主張する譲歩を獲得するために、米国は協定の承認を拒んだことがある。このような「荒っぽい交渉」のひとつの例として、グアテマラが医薬品に3年間のデータ保護を措置したことが挙げられる。これもCAFTAの本文にはなかったことである(註34)。

23.米国の主張を裏づけるエビデンス(証拠)は別途必要なのか?
米国は、協定本文の内容をはみだすような口頭の合意事項が存在していることを主張するわけだが、それを裏づけるようなエビデンス(証拠)が必要であるとは思っていないようだ。これまでも、米国の政府関係者は合意事項の存在を一方的に断定してきた。例えば、CAFTAをめぐっては、ファスト・トラック法が規定しているFTAの利害にかかわる米国の声明を、グラッスリー議員が引き合いに出したことがある。そこではこう書かれていた。
20056月にCAFTAの実施法案が上程された際、加盟国による「同等性」の判断は差し迫ったものであった。したがって、議会によるCAFTAの承認も、米国の食肉検査システムの「同等性」を加盟国が認めるだろうという見込みに基づいたものであった。(註35

24.そのような合意がなされた際に交渉に参加していなかった国の扱いは?
TPPのように後から追加的な参加国が生まれている場合、このような米国の振る舞いはそうした参加国にとって問題となる。後から参加した国は、それまでに合意した事項をすべて受け入れることが求められているようだ。しかしこうした国々は、合意事項をめぐってどのような議論がおこなわれたのかを知らない。議事録があったとしても、それがどの程度詳細なものなのか、そして準備作業にかかわる正式な記録があるのかどうかは不明瞭である。もしそうしたものがあったとしても、米国は口頭の合意事項の存在を理由に、多くの対応を迫ってくるのである。

25TPPの参加協議での合意事項を米国は利用できるか?
TPP交渉の参加条件として、後からの参加国は協議のプロセスを経る必要がある。そのプロセスで取り上げられるのは、TPPで十分な対処できそうにないと米国が考える事項、相手国の実施に曖昧性のある事項、米国が考えるようには相手国が十分な変更をおこなってこなかった事項などである。具体的には、食品の安全基準、自動車の排ガス基準、国有企業改革を含む競争法に関連した事項、電気通信規制などである。

26.米国とのTPP並行交渉の設置は参加承認の条件となっているか?
まさにそうなっている。CAFTAの場合、SPS分野で米国の食品検査制度の「同等性」を認めることは、協定に含まれていなかった。このことは、SPS分野の並行交渉で取り上げられたのである(註36)。
TPPでは、日本がこの面で深刻な問題を抱えている。並行交渉の設置は、米国が日本のTPP交渉参加を承認するための条件だったが、未だに日米間で大きな隔たりがある。そこで取り上げられているのは、日本の農産品重要5品目と自動車の非関税措置、食品の安全基準、 知財、国有企業(特に日本郵政)、投資、国内規制などである。

27.米国の要求を拒んだらどうなるか?
すべての交渉参加国は自国の法制度を決定する主権と、それを解釈する権限を有している。もしも米国がFTAの承認を拒んだなら、相手国は関税引き下げのようなメリットを米国から享受できなくなるだろう。
しかしながらTPPの場合、事態はもっと複雑である。もしも米国以外の国々の間でTPPが発効したとしても、知財分野のジェネリック医薬品に関するルールや国有企業の規律を各国は遵守しなければならない。米国がTPPの承認を拒んだらなら、米国という最も魅力的な市場は失われることになるが、その時でも米国以外の国々の間ではTPPは発効し、国内法制の変更が義務づけられることになるだろう。それは各国における新法として有効なものとなり、米国は何らの譲歩をおこなうことなく、その利益を獲得することができるのである。

28.米国が要求する法制度の変更を拒んだらどうなるか?
その場合、米国大統領が協定の承認を拒否することになり、TPPは発効しないだろう。

29.米国のFTAは相手国の民主的プロセスにどのような影響を及ぼしてきたか?
ペルーの場合、議会の承認がなくとも法律を制定する権限が、特例措置によって大統領に180日間与えられた(註37)。200874日の時点で、98もの法律がこの特例措置により成立していた(註38)。ペルー政府は、米ペルーFTAとは無関係の法改正でもこの権限を用いたと非難された。
パナマも行政上の権限を用いて多くの措置を実施している(註39)。

30.米国を相手に再交渉をおこなうことは可能か?
米国は再交渉を受け入れなければならず、貿易促進権限法が成立した場合であっても追加交渉が認められることになるだろう。米国が追加交渉に同意すれば、相手国は交渉による変更の代償として、いっそうの譲歩をせざるを得なくなるだろう。このことは、米国に新たな要求をおこなう余地を与えることになる。ただし、重大な変更があれば新たな議会の議決が必要だろう。
新たな譲歩の内容次第であるが、その国との協定が発効していない国々も、そこから利益を引き出そうと画策するだろう。

31.承認手続きは米国の干渉に対する国内の反発を引き起こさないのか?
承認手続きに伴う諸問題は、その国の政府が対処すべき国内問題として扱われる。ペルーの例を挙げれば、大統領が議会を無視して法制定をおこなう権限をもつことに抗議するべく、野党勢力と市民社会組織が全国規模のストライキを呼びかけた。先住民達も、鉱山開発と森林破壊に対する彼らの関与を薄れさせるような土地法制に抗議した。労働組合の反対行動も、中小企業法制の変更が労働者の権利を奪うことに向けられた(註40)。
ペルーは米国とのFTAに従い、アマゾン流域での石油・ガス開発と森林伐採に関連した投資措置を成立させた。200965日、ペルーの治安部隊は抗議行動をおこなっていたアワジュン族とワンビス族に対する武力行使をおこなった。そこには女性や子供も含まれていた。後に「バグア虐殺」と呼ばれるようになったこの衝突で、30人以上の人命が失われた(註41)。彼らは、大統領に与えられた法制定の特権の取消を求めて道路を封鎖していた。この虐殺の4日前に交わされた米国の外交公電を、ウィキリークスが暴露している。それによれば、ペルー政府が「寛大」な態度をとっていることを米国は問題視し、先住民の要求に屈することはFTAに「影響」を与えることになる、と警告を発していた。
コスタリカでは、生物多様性に影響を及ぼす知財ルールの制定を違憲とする判決を、最高裁が下した。このルールは先住民との協議を一切おこなわずに制定され、(先住民の権利を規定した)ILO169号条約に違反している。しかし、この判決は軽視され、制定を押し止めることはできなかった(註42)。最高裁には再審理が要請され、最終的には合憲との判断を下したのである(註43)。
グアテマラでも、ジェネリック医薬品産業が知財法制に異議を唱えた(註44)。

32TPPのような複数国間協定でも個別の承認となるのか?
前掲表に示したように、米国は相手国によって異なる時点でCAFTAを承認している。そのことは、米国の要求に従う相手国の意思次第である。TPPでも同じことになるだろう。

33.原産地規則は非承認国をどのように扱うのか?
この問題が生じたのはCAFTAである。すでに協定を実施していた国は、繊維製品で「累積」ルールを利用しようとしたが、まだ米国が承認していない国をそこに含めることはできなかった(註45)。CAFTAの中米諸国は、期待していた利益にあずかることなく、協定の実施を余儀なくされた。米国が承認を留保していた国があったからである。

34.承認手続きの過程で米国はTPPでの約束事項を変更することができるのか?
承認手続きというよりも、議会での承認手続きとのかかわりで、このような変更がなされる場合が多い。CAFTAの例を挙げれば、下院がCAFTAを承認しそうにないことが明らかになった時点で、USTRは原産地規則の変更を求めた。その目的は、衣料品のポケット部分で第三国の布地を使用することを排除するためだった。このことは、米国の繊維の業界団体が強く要望していたことでもあった。
CAFTAでは、原産地規則を変更する際には、全加盟国の承認を必要としていた。USTRは個別にこの交渉をおこなった。グアテマラは同意したものの、それと引き換えに米国から交換条件を引き出すことは困難を極めた(註46)。ドミニカ共和国もこれに合意したが、ドミニカに与えられた交換条件は他国に比べて乏しいものとなった。ドミニカとの間では、ズボンとスーツの製造にかかわる追加的な譲歩が、後日与えられるという了解が交わされたに留まった。これによっても、その困難性がうかがえる(註47)。

35.他の交渉参加国は、自国の承認手続きを米国に要求できるのか?
技術的には、他のTPP参加国は、米国に対して抵抗することによって、TPPが効力を持つことを拒絶できる。まず、実際にそれは政治的な影響力を持つ主要国になるだろう(とりわけ日本だろう)。日本にとってでさえ、米国はTPPを通じてアクセスしたい主要な市場である。
米国議会の議論に拘束されているために米国が何の譲歩もしないであろうことは、信じられないことのように見える。相互の承認手続きの結果は、米国以外の国による孤立や後退を意味することになるだろう。TPPのいくつかの内容は、米国の現行法に従うように計画されているということが事実であることを示すことができる。

36.どのような法律が承認手続きで狙われてきたのか?
コメと豚肉に関する輸入承認(グアテマラ、エルサルバドル):米国のコメ・豚肉産業は、グアテマラ、エルサルバドルにおける従来の輸入業者から、輸入承認を取り上げることを要求した。これは、関税割当制度を使って潜在的な購入量を最大にしようという目的のもと、大手業者に直接販売するための輸入承認や権限を割り当てる新たな法律を求める内容であった(註48)。

食用肉の承認を米国のものと同等にすること(グアテマラ、エルサルバドル):米国は、食用肉の輸送の際に、米国にて検疫・承認されたものを明確に受け入れるよう主張した(註49)。これはSPS(衛生植物検疫措置)の章に明記されていなかった。政府担当者は、この要求は「エルサルバドルにとっては、政治的な問題を持ち出されたということである。なぜなら、米国は意のままに新たな特権を要求しているからだ」と述べたといわれている(註50)。USTRは、この要求はCAFTAの内容にはないことは認識していたが、「参加調印した国々はこの内容を守ると約束した」と述べている(註51)。
この要求は、とても簡単には認められない内容だったために、エルサルバドル大統領は他国すべての大統領に対して、SPS問題を議論する会議を呼びかけ、またすべての国の経済産業大臣とのフォローアップ会議も呼びかけた(註52)。結局、エルサルバドルは食用肉と乳製品に関して、米国の食の安全と検査システムに準じることに合意をし、その結果、米国の食用肉と乳製品に必要とされている検査を行なわないことになった(註53)。米国は同様の要求を、ペルーとのFTAに署名する際の条件として提示し、そのことが農業分野の章が発表される際の論争点の一つとなった(註54)。
米国は、米国の基準に適合しないという理由から、その基準に達していない協定参加国からの食肉の輸出に関する相互的な承認を提案しなかった(註55)。

データ保護の期間延長(グアテマラ):CAFTA5年間のデータ保護を規定している。米国は、たとえ特許がないすでに存在する医薬品であっても、新たな使用がなされた臨床試験データに対してさらに3年間の独占権を付与するように要求した。このことは、仮に特許がなくても、その医薬品が新たに使用される際の独占期間中は、ジェネリック薬品の販売を事実上阻止するものである(註56)。米国はCAFTA交渉中にこれを提案したが、中央アメリカ諸国の交渉官から激しい抵抗にあったために、提案は拒絶された(註57)。それにもかかわらず、グアテマラはこの3年間の独占権を付与することを要求された(註58)。

より多くの医薬品にデータ保護が適用(ドミニカ共和国):CAFTAの条文に書かれていないにもかかわらず、米国はドミニカ共和国に対して「承認手続き」の間、ほとんどすべてが古い成分である医薬品に対してでさえデータ保護を認めるように圧力をかけた。ドミニカ共和国は、これに同意した(註59)。

企業のデータ保護がより簡単に可能に(グアテマラ):「承認手続き」の中で、米国はグアテマラに対して、大手の有名製薬メーカーが販売承認登録できた際に、いかなる期間の制限もしないようにすること、またそのメーカーがデータ保護の恩恵を受けられるようにすることを求めた(註60)。これは、グアテマラにてより多くの医薬品のデータ保護が独占され、グアテマラ国民が新薬を手にするまで長い期間待たなくてはいけないという結果をもたらしている。

特許の共通承認(グアテマラ):「承認手続き」の中で、米国はグアテマラに対し、グアテマラで特許の申請がなされなくても、米国や他国において特許分野での自動的な承認が可能になるよう圧力をかけた。これはCAFTAの条文で求められている内容でなかったにもかかわらずである(註61)。この変更は、知的所有権に関する法律の中で適用可能である重要なセーフガードを取り除くことにつながる。つまり、何を特許として認めるべきか、そしてその基準を高いものに設定するというその国独自の基準をなくすということを意味している(註62)。

特許の二次使用(グアテマラ):「承認手続き」の中で、米国はグアテマラに、古い医薬品における新たな使用と、既存の化学製品に対して、特許を適用させるように圧力をかけた。
それはCAFTAの条文で求められている内容でなかったにもかかわらず、である(註63)。国連「健康に対する権利」特別報告では、この「エバーグリーン戦略」(訳注:特許を有する企業が実質的に該当医薬品に対する特許権の保護期間を延長し市場を独占できる方法)や、医薬品に関するその他の知的所有権の保護のさらなる強化に対して警鐘を鳴らしている(註64)。

燃料の輸送に関する契約(ドミニカ共和国):米国企業シェブロンは、ドミニカ共和国の2つの法律が、米国企業が燃料輸送サービスを提供することを妨げており、条約と不適合な国内規制などに関する不適合措置(NCM)が適用されていないとして、これら法律に異を唱えた(註65)。
ミニカ共和国は、これら法律が中米自由貿易協定(CAFTA)に違反しているとは考えておらず、この法律は国家安全保障上、必要であると主張した(註66)。同国は、「米国に対して、この問題については柔軟になるよう求めた。特に、ドミニカ共和国はこれまで繰り返し米国から出されてきた、法律改正の要求に応じてきたからだ。それらは、CAFTAに適合させるための国内法の見直しが正式に終わった後でも行なわれてきたものだ」と語ったとされる。ドミニカ共和国政府がこれらの変更に抵抗し続けてきた理由の一つは、「ある問題が決着した直後に、新たな問題が生じるという、CAFTAの実施手続きに困憊した」からだと推測される(註67)。度重なる米国による圧力の下で、ドミニカ共和国は二つの法律を無効化することに合意した。その数日後、USTRは「ドミニカ共和国は、CAFTA発効に向けたすべての必要条件を満たした」と発表した(註68)。

【註】 ※註に関しては近日中に日本語への翻訳を行いウェブサイトに掲載予定である。

1.See eg the North American Free Trade Agreement Sec. 101(b) CONDITIONS FOR ENTRY INTO FORCE OF THE AGREEMENT — The President is authorized to exchange notes with the Government of Canada or Mexico providing for the entry into force, on or after January 1, 1994, of the Agreement for the United States with respect to such country at such time as— (1) the President—
(A) determines that such country has implemented the statutory changes necessary to bring that country into compliance with its obligations under the Agreement and has made provision to implement the Uniform Regulations provided for under article 511 of the Agreement regarding the interpretation, application, and administration of the rules of origin, and (B) transmits a report to the House of Representatives and the Senate setting forth the determination under subparagraph (A) and including, in the case of Mexico, a description of the specific measures taken by that country to— (i) bring its laws into conformity with the requirements of the Schedule of Mexico in Annex 1904.15 of the Agreement, and (ii) otherwise ensure the effective implementation of the binational panel review process under chapter 19 of the Agreement regarding final antidumping and countervailing duty determinations; and (2) the Government of such country exchanges notes with the United States providing for the entry into force of the North American Agreement on Environmental Cooperation and the North American Agreement on Labor Cooperation for that country and the United States. (H.R. 3450 (103rd), signed by the president December 8, 1993.) Similar language was included in the 1988 Canada-United States Free Trade Agreement Implementation Act Sec. 102(b).
2.USTR Increases Pressure on Guatemala to Drop Data Protection law, Inside US Trade, 14 January 2005
3United States-Korea Free Trade Agreement Implementation Act, Section 101 (b) (H.R. 3080 (112th), signed by the President on 21 October 2011.
4Third World Network, ‘The TPP and the US Congress – without Fast Track Authority’ 20 November 2013, http://www.twnside.org.sg/title2/FTAs/General/TPP&USCongress-withoutFastTrackAuthority_21%20Nov2013.doc
5http://www.ustr.gov/trade-agreements/free-trade-agreements/korus-fta
6‘Democrats Urge Caution on Implementing FTA After Peru Passes Legislation’, Inside US Trade, 16 January 2009
7‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006; ‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
8‘Dominican Republic Moves Closer to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 1 December 2006
9‘Honduras, Nicaragua May Implement CAFTA Next Month as Guatemala Lags’, Inside US Trade, 31 March 2006
10‘Panama Moves Ahead With FTA Implementation As October Goal Nears’, Inside US Trade, 7 September 2012
11‘Dominican Republic Moves Closer to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 1 December 2006
12‘USTR Calls for Further Steps After Guatemala Approves CAFTA Bill’, Inside US Trade, 26 May 2006
13‘New Peru FTA Decrees Anger Civil Society over Labor, Investment’, Inside US Trade, 4 July 2008.
14‘New Peru FTA Decrees Anger Civil Society over Labor, Investment’, Inside US Trade, 4 July 2008.
15Email communications between staff of the Office of the U.S. Trade Representative, the U.S. Embassy in Lima, other U.S. government officials, and officials of Peru’s Trade Ministry (MINCETUR), July 2008 – January 2009.  Obtained via U.S. Freedom of Information Act request, March 2010.
16‘U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006
17‘NCTO Steps Up Pressure For Legislation Implementing CAFTA Fixes’, Inside US Trade, 26 May 2006; ‘U.S., Dominican Republic Fail to Agree on New CAFTA Pocketing Concessions’, Inside US Trade, 2 February 2007
18‘Dominican Republic Continues to Work For CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 12 January 2007
19‘Dominican Republic Continues to Work For CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 12 January 2007
20‘Industry Highlights CAFTA Implementation Problems in Costa Rica’, DR, Inside US Trade,16 February 2007
21‘Industry Highlights CAFTA Implementation Problems in Costa Rica’, DR, Inside US Trade,16 February 2007
22‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006
23.‘Democrats Urge Caution on Implementing FTA After Peru Passes Legislation’, Inside US Trade, 16 January 2009
24Letter to USTR Michael Froman from 153 House Democrats, 29 May 2014, http://democrats.edworkforce.house.gov/sites/democrats.edworkforce.house.gov/files/documents/5.29.14-TPPLettertoFroman.pdf
25USTR, New Opportunities for U.S. Exporters Under the U.S.-Korea Trade Agreement,  http://www.ustr.gov/trade-agreements/free-trade-agreements/korus-fta
26.‘New Peru FTA Decrees Anger Civil Society Over Labor, Environment’, Inside US Trade, 4 July 2008
27‘USTR Calls for Further Steps After Guatemala Approves CAFTA Bill’, Inside US Trade, 26 May 2006
28Panama was required by the US FTA to adopt the Budapest Treaty on the International Recognition of the Deposit of Microorganisms for the Purposes of Patent Procedure of 1077, as amended in 1980s; the Patent Cooperation Treaty of 1970s, as amended in 1979; the Trademark Law Treaty of 1994; and the International Convention for the Protection of New Varieties of Plants of 1991. ‘Panama Touts Progress on IPR Treaties Ahead of Meeting with USTR’, Inside US Trade, 20 July 2012
29.‘Panama Moves Ahead With FTA Implementation As October Goal Nears’, Inside US Trade, 7 September 2012
30.‘USTR Announces Delay in CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 6 January 2006; see also Honduras, Nicaragua May Implement CAFTA Next Month as Guatemala Lags, Inside US Trade, 31 March 2006
31‘USTR Announces Delay in CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 6 January 2006
32.‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006
33‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
34‘U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006
35.‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
36.‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
37.‘New Peru FTA Decrees Anger Civil Society Over Labor, Environment’, Inside US Trade, 4 July 2008
38‘New Peru FTA Decrees Anger Civil Society Over Labor, Environment’, Inside US Trade, 4 July 2008
39‘Panama Moves Ahead With FTA Implementation As October Goal Nears’, Inside US Trade, 7 September 2012
40.‘New Peru FTA Decrees Anger Civil Society Over Labor, Environment’, Inside US Trade, 4 July 2008
41‘On the Fifth Anniversary of Peru FTA Bagua Massacre of Indigenous Protestors, State Department Cables Published on Wikileaks Reveal U.S. Role’, Amazon Watch/Public Citizen, 9 June 2014 http://www.citizen.org/documents/press-release-peru-bagua-massacre-amazon-watch.pdf
42‘Costa Rican High Court Rules Against CAFTA Legislation’, Inside US Trade, 12 September 2008; ‘Costa Rica Pushes For Deadline Extension for CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 19 September 2008; ‘Costa Rica Gets Three More Months to Pass CAFTA Implementing Bill, Inside US Trade, 3 October 2008; ‘Costa Rican Court to Review CAFTA Bill Again; Deadline Looms’, Inside US Trade, 24 October 2008
43‘Costa Rica Approves Final Bill to Implement CAFTA’, Inside US Trade, 14 November 2008
44‘USTR Calls for Further Steps After Guatemala Approves CAFTA Bill’, Inside US Trade, 26 May 2006
45.‘U.S., Dominican Republic Fail to Agree on New CAFTA Pocketing Concessions’, Inside US Trade, 2 February 2007; ‘Honduras, Nicaragua May Implement CAFTA Next Month as Guatemala Lags’, Inside US Trade, 31 March 2006
46.‘USTR Calls for Further Steps After Guatemala Approves CAFTA Bill’, Inside US Trade, 26 May 2006; US, Guatemala move closer, 30 June 2006
47.‘U.S., Dominican Republic Fail to Agree on New CAFTA Pocketing Concessions’, Inside US Trade, 2 February 2007; ‘U.S. Says Dominican Republic Fuel Resolution Violates CAFTA’, Inside US Trade, 16 February 2007
48.‘U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006; ‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
49.‘U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006
50‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006
51‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
52‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006; ‘Grassley Backs USTR in SPS Fight With CAFTA Countries’, Inside US Trade, 27 January 2006
53USTR, National Trade Estimates Report, 2007, 193 http://www.ustr.gov/archive/assets/Document_Library/Reports_Publications/2007/2007_NTE_Report/asset_upload_file13_10942.pdf
54‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006
55‘U.S. Demands on SPS Pose New Obstacles to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 20 January 2006
56For example aspirin was used as a painkiller and then it was found to be useful in thinning the blood to prevent strokes.  The use of aspirin to prevent strokes is a ‘new use’ of an old medicine.
57U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006
58‘Bush Announces Start of CAFTA Implementation For El Salvador’, Inside US Trade, 3 March 2006
59‘Dominican Republic Moves Closer to CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 1 December 2006
60‘Portman Says CAFTA Implementation By Guatemala Months Away’, Inside US Trade, 7 April 2006; ‘USTR Announces Delay in CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 6 January 2006
61‘U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006
62The WTO’s Agreement On Trade-Related Aspects Of Intellectual Property Rights (TRIPS) allows member countries, including Guatemala, to set what constitutes new, inventive and industrially applicable, http://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/27-trips_01_e.htm. This can be set high (as countries such as India have done), which means that fewer patents are granted, so fewer medicines and other technology are available only at the monopoly prices during the patent.
63‘U.S., Guatemala Fight on CAFTA TRQ Allocations for Rice, Pork Exports’, Inside US Trade, 3 February 2006
64http://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=A/HRC/11/12
65‘Dominican Republic Continues to Work For CAFTA Implementation’, Inside US Trade, 12 January 2007; ‘New Fuel Transportation Resolution Possible CAFTA Violation in DR’, Inside US Trade, 26 January 2007
66‘New Fuel Transportation Resolution Possible CAFTA Violation in DR’, Inside US Trade, 26 January 2007
67‘U.S. Says Dominican Republic Fuel Resolution Violates CAFTA’, Inside US Trade, 16 February 2007
68‘Dominican Republic Implements CAFTA After Concession To U.S.’, Inside US Trade, 2 March 2007

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STOP TPP!! 市民アクション
http://stoptppaction.blogspot.jp/

2014820
翻訳:磯田 宏(九州大学農学研究院)
内田聖子(アジア太平洋資料センター)
東山 寛(北海道大学)

【本件に関する問い合わせ担当】
アジア太平洋資料センター(PARC)内田聖子
TEL. 03-5209-3455 FAX. 03-5209-3453 E-mail: office@parc-jp.org

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2014年4月14日月曜日

日豪EPAで、日本は牛肉関税を削減。しかし豪州牛肉団体は不満を表明(全訳)

2月のシンガポール閣僚会議後、突如浮上し、あれよあれよという間に大枠合意に至ってしまった「日豪EPA」。私はこの協定を、「ゾンビ協定」と呼んでいる。この協定は2007年に交渉が始まったが、日本の主要農産品(牛肉、乳製品など)の関税交渉が両国でまとまらないまま、塩漬けになってきた。それが突如、このタイミングでなぜ息を吹き返したのか。言うまでもなく日本・豪州それぞれが「TPP交渉のカード」として日豪EPAを使おうとしたからである。
日本政府は、日豪EPAで牛肉関税を一定程度譲歩する形でまとめれば、その結果が米国との関税交渉への「牽制球」になると考えているらしい。しかしここには2つの問題がある。まずは日豪EPA交渉を進めるにあたって採択された国会決議(牛肉などのセンシティブ品目は交渉から除外あるいは再協議にする、期限を切っての交渉はしないなど)はすでになし崩しで反故にされているという点。2点目は、日豪EPAでの牛肉関税の結果は、米国とのTPP交渉の牽制球などに決してなっていないという点。その証拠に、日豪EPA大枠合意直後の日米閣僚会議では、米国はこれまでと変わらず「関税ゼロ」を主張し、会議は物別れに終わっている。
 では豪州側での受け止めはどうなのか。
 今回は、北海道大学の東山寛氏が翻訳してくださった、米国の貿易専門のジャーナル”Inside U.S. Trade”の記事を転載させていただく。東山氏に改めてお礼申し上げます。

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日豪EPAで、日本は牛肉関税を削減。しかし豪州牛肉団体は不満を表明(全訳)

原文:”Australia-Japan FTA Cuts Beef Tariff, But Aussie Ag Industry Not Satisfied”
Inside U.S. Trade,April 11, 2014

豪州と日本は今週、二国間の自由貿易協定の交渉を妥結したことを発表した。この協定は、豪州の牛肉輸出、そして幾分小さなものであるが、酪農品の輸出に対して、日本のさらなる市場開放を行うものになる。しかし、この協定は、農産物の貿易を完全に自由化するには至っておらず、センシティブな農産品のいくつかを完全に除外扱いにしている。
このEPA協定は、豪州のアボット首相が訪日中の47日に発表されたが、豪州の農業者の要求を満たすのに十分ではない。47日の声明の中で、豪州農業者連盟は「農業に関する成果全般に失望した」と述べた。
この団体が指摘するところによれば、この協定は豪州の牛肉・園芸品・水産品にとって積極的な成果のように見えるが、「酪農品・砂糖・穀物・コメといった多くの品目に対する市場アクセスと交易条件を改善していないか、改善しているとしてもごくわずかだ」とのことである。
酪農品について言えば、日本は、プロセスチーズ原料用のチーズに対して、より良い交易条件を提供することに合意した。しかし、フレッシュチーズの29.8%という関税の引き下げには同意しなかった。このチーズの関税問題は、豪州の酪農生産者にとって最優先の目的だったのである。
バター、粉乳、コメについては、この協定から完全に除外された。複数の情報筋による。他方、日本政府は、ある種の砂糖の関税を引き下げることに同意した。ただし、豪州の生産者が述べるところによれば、この種の砂糖を彼らは日本に輸出していない。また、日本政府は、豚肉の関税削減を約束した。しかし、価格システム(訳注:差額関税制度)には何らの変更もなかった。豪州の豚肉生産者が述べるところによれば、このシステムは、貿易に対する禁止的な障壁となっている唯一のものである。
複数のビジネス界の情報筋が述べるところによれば、アボット政権は、豪州の農産物に対する要求を完全に満足させないようなEPA協定を受け入れようとしてきたように見える。その理由は、アボット政権が、政権発足の初年目のうちに、日本との協定に署名することを強く望んでいたからである。それは、前労働党政権との違いを際立たせる意味合いも込められているだろう。
アボット政権は、昨年9月に発足したが、韓国・日本・中国とのFTAを、2014年中に妥結するという目標を公式に設定してきた。このうち、韓国とのFTAは昨年12月に合意している。
今週発表されたこのEPAは、日豪両国が米国とその他9ヶ国と共に参加しているTPP交渉に対して、いかなる影響を及ぼすかという問題を投げかけ続けるだろう。
USTRのフロマン代表は今週、この二国間協定は、TPP協定に何らの影響も及ぼさないと主張した。しかし、米国などの複数の農業関係の情報筋の中には、この評価に異を唱える者もいる(訳注:関連記事において、日豪EPATPPに「悪しき前例」という影響を与えるとしている)。
牛肉について言えば、日本は18年間かけて冷凍牛肉の関税を38.5%から19.5%に引き下げることに合意した。生鮮(訳注:冷蔵)牛肉に対しては、15年間かけて23.5%に引き下げることを合意した。日本の農林水産省が発表したファクトシート(概要)の翻訳による。
この冷凍・冷蔵牛肉共に、段階的な関税削減は直線的ではない。冷凍牛肉の関税は、初年目に30.5%に引き下げられ、2年目は28.5%、3年目は27.5%になる。それ以降は、12年目の25%まで直線的に削減し、さらに、それ以降は別なかたちで、18年目の19.5%まで直線的に削減する。
冷蔵牛肉について言えば、関税は初年目に32.5%に引き下げられ、2年目に31.5%、3年目に30.5%になる。これ以降は、15年目の23.5%まで直線的に削減される。
この日本の農林水産省のファクトシート(概要)によれば、豪州は伝統的に、冷蔵牛肉よりも多くの冷凍牛肉を日本向けに輸出してきた。2012年における日本の輸入量はそれぞれ、冷凍牛肉が18.1万トン、冷蔵牛肉が12.7万トンである。
また、日本は、現行の日本の牛肉に対するグローバル・セーフガード(訳注:WTO上認められている日本の牛肉セーフガード)に、豪州が服さなくても良いことを合意した。日本の牛肉セーフガードでは、17%を超える(訳注:前年四半期対比ベース)輸入の急増時に、38.5%の関税を50%に引き上げることが認められている。
これとは別に、日本は豪州の冷凍及び冷蔵牛肉に対して、専用のセーフガードを措置する。これも日本の農林水産省のファクトシート(概要)による。冷凍牛肉に対しては、そのトリガーレベル(発動基準)は、初年目が19.5万トンであり、10年目に21.0万トンに引き上げられる。冷蔵牛肉に対しては、そのトリガーレベル(発動基準)は、13.0万トンから開始され、10年目に14.5万トンに引き上げられる。
日本は、牛肉関連で、この他にいくつかの譲歩を行った。これは、47日に発表された豪州政府のファクトシート(概要)による。例えば、豪州産牛肉の内臓肉の輸出については、低関税輸入枠の拡大が措置される。このことは、豪州産牛肉の保存品・加工品についても同様である。
47日の声明の中で、豪州肉用牛評議会は、このEPAは豪州産牛肉の輸出機会の拡大であるとして歓迎している。しかし、この団体は、この協定は牛肉関税の撤廃に失敗し、冷蔵と冷凍牛肉に異なる関税を設定したことへの失望を表明した。豪州食肉・肉用牛団体は、48日の声明の中で、牛肉産業はこの関税削減から「大きな利益を得る」と述べた。その利益についてこの団体は、豪州産牛肉の対日輸出は、20年間で55億豪ドル増加すると予測している。
酪農部門について、豪州政府がアピールしている主要な譲歩は、プロセスチーズ原料用チーズの対日輸出条件の改善であり、これはベルビータもしくはアメリカン・チーズ・スライスに相当するものである。
現在、プロセスチーズ原料用チーズは、1kgの国産チーズに対して2.5kgの輸入チーズの比率で、加工者が国内で製造されたチーズを使用することを条件に、無税で日本に輸入されている(訳注:抱き合わせ制度)。この仕組みは、日本に無税で輸入されるプロセスチーズ原料用チーズの数量を制限する上で、効果的に機能している。国内で製造されるチーズの数量を、輸入される原料用チーズと結びつけることによって、である。
今回のEPAの下で、日本は、豪州産のプロセスチーズ原料用チーズに対して、新たな割当量(枠内数量)を開放することに合意した。それは、4,000トンから開始され、20年目に2万トンまで拡大する。枠内の輸入は変わらず無税であるが、国産チーズ1kgに対して輸入チーズ3.5kgという抱き合わせ比率を設定し、より優遇的な仕組みが措置された。
あるビジネス界の情報筋は、この譲歩内容を「巧妙なマジック」だと特徴づけた。その理由は、豪州の生産者は、彼らの競合者に対して関税上の優位を何も得ておらず、彼らが得たのは幾分ましな抱き合わせ比率のみだからである。いずれにしても、この抱き合わせ比率が優遇的な割当の下で続けられるという事実は、豪州が日本向けに輸出可能なプロセスチーズ原料用チーズの数量が、依然として日本の国内生産に規定され、制限されることを意味する。この情報筋が指摘するところである。
これに加えて、この情報筋が主張するところでは、日本におけるプロセスチーズの需要は、フレッシュチーズに対する需要とは対照的に伸びていない。フレッシュチーズは、クリームチーズやモッツアレラといった製品が中心である。
フレッシュチーズの29.8%という関税を半減すれば、豪州の生産者は、米国・NZの競合者に対して大きな優位を与えられるだろう、とこの情報筋は述べる。しかし、この関税は、今回のEPA協定の下でも残ったままである。豪州酪農産業評議会は、47日の声明の中で、酪農品は「しくじった」と表現した。
日本はこれ以外のチーズ製品に対して、追加的な市場アクセスを与えることに合意した。その中には、シュレッドチーズ原料用チーズ、プロセスチーズ、おろしチーズまたは粉チーズ、ブルーチーズが含まれる。しかし、複数の情報筋は、これらの譲歩が生み出す商業的価値は限定的だと特徴づけている。
これに加えて、複数の情報筋が言うには、日本はチーズ製品に対する最恵国待遇(MFN)条項に合意した。このMFN条項は、日本が将来のFTA協定においてより改善されたアクセスを提供した場合、同じ待遇を豪州にも広げて適用することを約束することになる。これには、日本がTPPにおいて米国・NZに対して行うすべての譲歩を含むが、チーズ以外の酪農品についての譲歩には適用されないだろう。
同じく酪農部門において、日本は乳タンパク濃縮物やカゼインのような、特定の乳製品に対する即時撤廃の無税アクセスを与えることに同意した。また、アイスクリームとフローズンヨーグルトに対する枠内数量の拡大にも同意した。これは、豪州政府のファクトシート(概要)による。
砂糖について言えば、このファクトシート(概要)は、豪州の輸出者は「国際規格に沿った粗糖の関税撤廃と調整金の削減から利益を得る」と述べている。ただし、これ以上の説明はない。
この種類の砂糖に対する関税は、184%から110%の実行関税率に削減される。これは、豪州の砂糖生産者団体である、豪州サトウキビ生産者団体の48日の声明による。しかし、この譲歩は、豪州の生産者に利益をもたらさないだろう。その理由は、彼らが主に異なる種類の砂糖を日本に輸出しており、その品目の関税は、70%で変わっていないからである。この団体が述べているところによる。
この団体は、今回の協定について、豪州産砂糖の日本向け輸出の市場アクセスの改善に失敗した、と批判している。そして、2004年の米豪FTAの再来だと呼んでいる。米豪FTAでは、砂糖は完全に除外扱いされた。「またしても砂糖は通商交渉で永遠の除け者となり、サトウキビ生産者が干されたと感じるのは当然だ」とこの団体は述べている。
豚肉について言えば、豪州政府のファクトシート(概要)は、豪州の豚肉生産者は「豚肉及び豚肉製品の大きな優遇的なアクセス」を得ることになる、と述べている。ただし、これ以上の説明はない。
しかし、あるビジネス界の情報筋が述べるところによれば、日本の譲歩は、新たに5,600トンのTRQ(関税割当)を与えるというかたちをとっており、その数量は5年かけて14,000トンに引き上げられる。この枠内数量の豚肉に対する従価税は、おおむね50%削減される。
この情報筋が述べるところによれば、この措置は、豪州の豚肉生産者に対して大きな商業的利益をもたらす数量ではない。理由は2つある。第1に、現在の従価税の平均は24%であり(訳注:従価税は4.3%)、50%の削減が大きな金額を生み出すことはない。第2に、豚肉輸出に対する最大の障壁は従価税ではなく、日本のゲートプライスシステム(訳注:差額関税制度)である。この制度は、今回のEPAの下でも、豪州の輸出者にとって変更されていない。この情報筋が述べるところである。
この制度は、1kg当たり526円という参照価格(訳注:分岐点価格)を下回る豚肉の輸入に対して、スライド式の関税を課すものである。この参照価格を下回る輸入に対しては、実際の輸入価格と参照価格の差額に相当する関税が適用される。従って、低価格の輸入品は、高い関税を支払うことになる。
豪州政府のファクトシートが述べているところによれば、今回のEPAは「迅速な関税撤廃を大部分の」対日輸出されている豪州産園芸品に与える。それには、果実・野菜・ナッツ類・ジュースが含まれる。
また、日豪EPAは、ボトルワイン、スパークリングワイン、バルクワインの関税を7年かけて撤廃する。豪州産大麦の輸出には、無税アクセスの拡大が与えられる。いずれも、豪州政府のファクトシート(概要)による。その結果、豪州の園芸・ワイン生産者はこのEPA協定を評価している。
全体を通じて、この豪州政府のファクトシート(概要)は、日豪EPAを「日本が過去に結んだFTAの中で最も自由化レベルが高い協定」とアピールしている。このファクトシート(概要)が述べるところによれば、豪州の対日輸出の97%以上が、協定が完全に履行されれば、優遇的なアクセスを受けるか、もしくは無税になる。
この豪州政府のファクトシート(概要)は、工業品・サービス・投資・知的財産・政府調達の交渉成果も強調している。このEPAは、投資家と国家の紛争解決手続(ISDS)を含んでいない。このことは、豪州外交貿易省の広報官による。


2014年4月12日土曜日

TPP交渉の不都合な真実 ―ブルネイ以降、重ねられてきた秘密交渉の数々

 TPP交渉は、日本が参加した20137月以降、それまでの秘密性がさらに強まり、ほとんど「潜伏交渉」とでもいうべき姿になった。10月のバリでのAPEC会合、12月のシンガポールでのWTO閣僚会合など、大きな国際会議が開かれる度に、TPP参加国が並行して集まり、米国はその都度「年内妥結」「最後の大仕事」などと意気込みを見せてきた。しかし、それは今も実現されていない。

 年が明けてからの2月シンガポールでも同じことの繰り返しだ。そしてつい先日の46日、日本政府はオーストラリアとの経済連携協定を大枠合意。それが米国とのTPP関税交渉の際の「牽制球」「歯止め」となると考えているらしい。しかしその思惑はすでに破たんし、直後の日米閣僚会議にて甘利TPP大臣とフロマンUSTR代表との関税協議はまたしても不発に終わった。

「いったい、8月以降に何度、交渉を繰り返してきたと思っているんだ」。
 フロマンも、そしてもしかしたら甘利大臣はじめ日本政府も、このように不満を漏らしているかもしれない。
 そう。それが問題なのだ。
 冒頭で述べたとおり、8月以降、TPP交渉は地下深く潜った。すべての交渉参加国の全分野の交渉官が一堂に会し、約10日間開かれてきた「ラウンド」(交渉会合)は、8月の第19回ブルネイ交渉で最後となった。なぜラウンドが開かれなくなったのかは、当時の米国の思惑による。日本も交渉に参加し、その勢いで「年内妥結」を目指していた米国にとって、2-3か月に一度の大掛かりなラウンドを開いていたのでは間に合わない。ターゲットにしたい国は日本(農産品)、ベトナム(繊維問題・国有企業)、マレーシア(知的財産・国有企業)など限られる。したがって米国にとってみれば、すべての参加国が集まるラウンドなど「時間の無駄」、特定の国と、特定の分野で次々と話をつめて、一気に妥結に持ち込みたい――その結果、ラウンドは「中止」となったのだ。

 これを境に、TPP交渉は恐ろしいほど複雑で見えない動きで進んでいく。二国間交渉、各分野ごとの交渉官のみが集まる中間会合、主席交渉官会合、閣僚級会合――とあらゆるレベルでの交渉が複線化し、政治化していった。挙句の果てには、すべての参加国が集まっているAPECなどの際に、米国が恣意的に特定の国だけを呼びつけ行う「グリーン・ルーム」(WTO交渉にて米国が行った不平等で不正義な交渉スタイル)と呼ばれる交渉までもが出現した。

TPP交渉を追う我々国際NGOも、「いつ、どこで、どの国の誰が、何の分野で」交渉しているか、という複雑な情報をつかむのに苦慮している。各レベル・分野の交渉が同時多発的に参加国のあちこちで開催されているのだから、当然である。これまで19回も重ねられてきたラウンドには、ステークホルダー(利害関係者)として参加各国の企業や労働組合、NGOなどが登録し、参加の機会を得られた。会期中には各国の主席交渉官によるステークホルダー向けの会見も行われる。私自身、2013年中に3度、TPP交渉会合にNGOとして参加してきたが、このようにステークホルダーとして登録できたから可能になったのだ。しかし、もはやラウンドは行われず、それに伴ってステークホルダーが公式に参加資格を得られなくうなってしまった(もちろん企業ロビイストはそれでも交渉の場に行くし、我々NGOも同じように見えない交渉から何とか情報をつかもうと努力しているが)

 さて、本題である。
「いったい、8月以降、何度交渉を繰り返してきたんだ!?」。
 これは交渉する側がいうべき不満ではなく、私たちTPP参加国の人々こそが、知らされるべきことであり、またその秘密性を問うべき点である。
 米国NGO・パブリック・シチズンら私たち国際NGOは、20137月以降(つまり日本が交渉参加して以降)の秘密交渉の詳細を調査した。以下、特徴的な結果をご紹介したい。

■多国間交渉
閣僚会合 2
主席交渉官会合 3
中間会合(分野別会合) 17

2国間交渉(秘密度が高いため特定は困難であるが)
日米協議 少なくとも10回(合計で18回以上との分析もある)
  
■ブルネイ・ラウンド以降の各種交渉を日数に換算してみると
中間会合 47
閣僚会合 8
主席交渉官会合 15
二国間交渉 16

 驚くべき数字である。
 これだけ重ねてきたにもかかわらず、まとまらない「交渉」とは何なのか。たとえば企業が計画したプロジェクトが、関係者などとの調整がつかずこのように延々と実行されなかったとしたら、「もう無理」と判断されるだろう。TPP交渉参加国は、すでに3年間以上、そしてブルネイ以降はほぼ1年近く、膨大な時間と費用を使ってきている。経済合理性という観点からいっても、この交渉は「もう無理」ではないか。
 このデータは、さらに詳細に詰めた後、改めて広く発信していく予定なのでご注目ください。



2014年2月18日火曜日

チリの政権交代はTPP交渉に何をもたらすか

 20131215日、チリ大統領選挙。中道左派のミチェル・バチェレ前大統領が当選し、4年ぶりに大統領に返り咲く。野党連合の支持を得て企業増税や教育無償化などの改革を訴え、格差への不満がくすぶる国民から支持を得た。任期は20143月から4年間となるので、もうすぐ就任という時期だ。
 この報せが届いた瞬間から、私たちTPPウォッチを行う国際NGOグループは、今後チリがTPP交渉で果たすであろう役割について強い関心を払い続けてきた。残念ながら日本ではマスメディアにも深い考察はなく、国内のTPP反対グループの間でもあまり強い関心がもたれていない。2月に入ってからで少し遅いニュースとなるが、ぜひこの視点をご紹介したい。

Photo: UN Women Gallery / Flickr
 2013年1028日、バチェレ氏は1117日に行われる大統領選に向けた選挙公約で、「TPPの見直しを行う」と宣言した(註1)。
 その理由は2つ。一つは、TPPそれ自体が、チリにとって最も重要な貿易相手国である中国との関係を損ないかねないという判断。もう一つは、TPPの強い自由貿易度が、自国内で貧困や格差をさらに広げ、社会的基盤をも揺るがしかねないという判断だ。
 昨年末にTPPに反対して退任、その後バチェレ選対に入ったコントレラス元TPP交渉官は、オバマ政権のもと進められるTPP交渉の危険性について訴えている。
「オバマ政権が欲する経済モデルを無批判に受け入れることは、我が国への脅威となる。国際的な経済変動の中で、TPP参加国は最終的に経済危機の影響に晒される。投機的な資本の流れをさらに自由にすることは、我々の経済の安定性を保護する合法的なツールを奪う。TPPは、チリの公共政策を形作る能力を制限し、金融機関を支配し、健康、教育と経済発展の問題に関与する。」(註2)
 バチェレ氏自身も、TPPは、知識財産、医薬、政府調達、サービスと投資などの分野で、すでに締結している米・チリFTAの間接的な再交渉を求めてくることになると警告している。
 
 少し話が脱線するが、こうしたバチェレ氏の方針について、日経新聞がウソの報道をしている。下記、バチェレ氏当選のニュースを伝える同新聞の記事引用を、抗議の意味を込め、記者名も入れて紹介する。
「 【サンティアゴ=宮本英威】南米チリは15日、女性2人による大統領選挙の決選投票を投開票し、野党・左派連合の候補で前大統領のミチェル・バチェレ氏(62)が与党候補を破った。4年ぶりに中道左派が政権に返り咲く。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の参加国であり、引き続き自由貿易を重視する経済政策を続けるとみられる。」(赤字筆者。以下略)

 TPPをめぐる方針としては、まったくの「ウソ」である。バチェレ氏は明らかにTPPのような自由貿易協定を見直すと公約に掲げているにも関わらず、「自由貿易重視」と書くとはあまりにも悪質である。日本の新聞にまた一つ絶望した。

 さてバチェレ政権に話をもどそう。
 バチェレ氏が前大統領だったのは20062010年の4年間である。好調な銅輸出を背景に女性の年金を拡充。任期中は高い支持率を保っていた。
 チリは、中国を含め多くの国とFTAを結び、2005年にはTPPのP4メンバーとして協定に調印、2006年より発効している。現在のTPP交渉国のほとんどの間にも、すでにFTA締結済みである(カナダ、メキシコ、ペルー、米国、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、日本(EPA))。米国とのFTAを締結したのは200366日(200411日協定発効)である。つまりバチェレ氏が政権に就く以前に、米国とのFTAが締結されていたのだ。
 米国とのFTAや、NAFTAのような数か国間での自由貿易協定は、米国以外の国に悪影響を与えてきた。NAFTAからちょうど20年を迎える今年、「NAFTAの負の遺産」に抵抗する運動も改めて強まっており、同時にその負の影響を考察したレポートも数多く出されている。別の角度から見れば、自由貿易協定の「影響」は、ただちに出るものではない。もちろん単純な貿易額や輸出入統計、GDPのように数値としてすぐにはじきだされるものもあるが、実際にそれらにFTAがどこまで関連しているのかという因果関係や、より社会的なインパクトについての因果関係を見出すまでには少なくとも10年はかかると私は見ている。
 チリが米国とのFTAを結んだのは、2003年。ちょうど昨年で10年だった。バチェレ氏が出馬表明でTPPを見直すといったのは、単なるイデオロギーの問題ではない。ペルーなども同様だが、米国とのFTAによって、チリでは貧困層が医薬品へアクセスできないという問題が生じ、そもそも貧困層が増えるなどの影響が出てきている。だから、彼女はTPPを見直すと公約に掲げたのだ。

 バチェレ氏の再選と歩みを同じくして、チリでは12月、49名の国会議員がTPP交渉の透明性を求める書簡を公表した。各国でも問題になってきている「秘密交渉」について、チリでも「非民主的」として情報公開を求める動きが国会議員の中にも生まれているのだ。

 バチェレ氏が就任するのは来月の311日。オバマ大統領の4月アジア歴訪の直前だ。あくまでも「早期妥結」と「自国に有利な内容での妥結」の両方を無理強いしている米国に、チリがどのような対応をしていくのか。その動きと主張に注目したいと思う。そして何よりも、私たち日本の市民社会がチリの有権者、国会議員に学び、呼応していくことが求められている。

【参考資料】

2013年12月9日月曜日

反対する者を「隔離」するためのTPP交渉での強引な戦術

 TPP閣僚会合が開催されているシンガポールにいるNZのジェーン・ケルシー教授から重要な情報が届いた。日本のTVではまったく「自然に」報じられているが、会場ではテーマごとに数か国だけが集まり協議を行なっている。参加国は12か国であるにもかかわらず、である。
 
 彼女からの緊急メッセージの全文(英語)は下記のサイトから読むことができる。
 Heavy-handed tactics in TPPA talks aim to isolate dissenters(反対する者を「隔離」するためのTPP交渉での強引な戦術)
 http://www.itsourfuture.org.nz/heavy-handed-tactics-in-tppa-talks-aim-to-isolate-dissenters/

 このやり方は「グリーン・ルーム」と呼ばれWTO交渉で実施されてきた。要は事務局長などが議題ごとに設定したインフォーマル会議であり、ここに恣意的に選ばれた代表だけが参加し決めていくという極めて非民主的な運営方法だ。この方法は、米国をはじめとする先進国の主導でなされ、途上国はほんの一部しか参加できず、大きな批判の対象となった。その悪評高き「グリーン・ルーム」が、現在シンガポールTPP閣僚会合でもやられている、というのだ。

 ケルシー氏によれば「どのテーマにどの国を呼ぶかの選別・決定には米国がかなり関与している」という。例えば知的財産分野では米国と対立する5か国(NZ,マレーシア、チリ、シンガポール、カナダ)のうち「たった1か国」だけが「グリーン・ルーム」に呼ばれている。これもWTO交渉でも見られた構図で、米国にとっては反対する国々が多くいれば分が悪い。しかしまったく呼ばないのも批判を浴びる。だから反対勢力の国々の中から1~2か国だけを参加させ、反対する国を孤立させながらも、形式的には反対派とも合意したとしながら進めていくのである。

 このような「グリーン・ルーム」形式は、決定プロセスや協議内容も含めてもちろん「秘密」である。そしてそのこと自体が大問題だ(日本のメディアは「グループごとに協議しています」などと能天気に報じるが)。すべての分野において全参加国が同じテーブルについて協議しない限り、交渉の正当性は認められない。

 日本政府は、こうしたやり方自体を批判し、グリーン・ルームをやめさせるべきである。

2013年12月8日日曜日

秘密保護法案の可決と、秘密の貿易交渉TPP

  12月6日、特定秘密保護法案が可決してしまった。
 国会周辺の大規模な抗議デモ、全国各地に広がる反対の声、野党の批判、そして政権与党・自民党内からも慎重論が出ている中、安倍政権は一方的な強行採決に踏み切った。この暴挙は歴史的にも決して忘れてはならない。最大の怒りをもって抗議したい。

 私はこの間、秘密保護法案反対の立場から、集会やメディアで発言してきた。その際、ほとんどがTPP交渉に反対という文脈で語ってきた。つまり、TPP交渉こそが、「何が秘密かも秘密」の貿易交渉であり、その本質において秘密保護法とまったく似ているのである。

 すでに3年以上も重ねられてきたTPP交渉は、貿易交渉、しかも幅広い分野をカヴァーしているという点で、私たちの生活そのもの、農業や医療、雇用など社会の基盤や価値観そのものに影響を与える。にもかかわらず、完全な秘密裏で進められてきた。比べるのもおかしな話だが、貿易交渉はいわゆる安全保障や軍事機密ではなく、いってみれば単なる「貿易の話」だ。しかしそれがここまで秘密に進められる事態というのは、まさに「異常な協定・異常な交渉」である。

 なぜTPP交渉が秘密なのかはすでにさまざまなところで述べてきたが、過去のWTO交渉や各種の貿易交渉において、各国政府は交渉過程や中身を、自国の業界団体や市民に一定程度明らかにし、利害を調整しながら交渉を進めてきた。そうしなければ国内の理解も得られず、また獲得したい利益を得ることもできないからだ。

 しかしWTO交渉は暗礁に乗り上げ、ほとんど無意味化している。なぜなら、アフリカはじめとする途上国やブラジルなど新興国、そして米国など先進国の利害は徹底的に対立し、まとめようにもまとまらないからだ。その対立の背景には、各国政府の後ろに、交渉の中身を知る各国市民・業界団体の大きな声がある。米国にしてみれば、こうした声はまさに交渉を進める上での「障害」に他ならない。だからTPP交渉は、絶対に交渉内容を外にもらさない、自国の国会議員や市民にすら「秘密」にして、クローズドの部屋の中で粛々と決めてしまいたい、という意図のもと進められてきた交渉なのである。交渉そのものへの批判の声などもっての他、聞く必要も姿勢もない、それがこの交渉の姿なのである。

 これはまさに、秘密保護法の審議過程を彷彿とさせるものである。「聞きたくない批判や、異論、疑問も聞く必要はない。説明とは『相手を説得し納得してもらうもの』ではなく『説明する側が十分だと思うだけすればそれで終わり』」。これはこれまでのTPP交渉における首席交渉官のブリーフィングの場で一貫してとられてきた態度である。これも秘密保護法審議における安倍政権の態度とぴったり符号する。しかしこれは単なる偶然の一致ではない。すでにTPP交渉で敷かれてきた秘密主義が、形をやや変えて秘密保護法という姿をもって私たちの前に現れたのであり、その本質は、徹底した官僚主導と、市民の知る権利の剥奪であり、民主主義の否定である。

 秘密保護法案が可決した翌日の12月7日、シンガポールでTPP閣僚会合が始まった。この間、メディアを含め秘密保護法関連の話題が多く、正直TPP交渉については人々の意識から少し遠のいた印象がある。しかし米国は今回の交渉を「年内最大の山場」と位置付け、難航している知的財産、関税、国有企業などの分野で政治的決着をつけ、「実質合意」や「大筋合意」を宣言する案も浮上しているという。

 現実的には、いくら政治的決着といっても、米国とマレーシア・ベトナムなどの国での対立の溝は深く、また日米間でも関税交渉は遅々として進んでおらず、中身の伴った「合意」には程遠い。米国は他国に強硬な姿勢を取りたいと狙っているが、しかし同時に国内的にはTPA(貿易権限)問題で大もめである。外顔では強面を演じてみても、内心は国内でのTPA取得ができるかどうか、議会からの反発をどう抑えるかなどが気が気でならない状況である。

 私自身は、TPP交渉は早期でまとまらず、今後も交渉がある程度長期化していくと考えている。最近報道された韓国の交渉参加問題も長期化の一要因となるかもしれない。その場合、重要となるのは日本の態度である。先にウィキリークスによって暴かれた知的財産分野のテキストによれば、日本は非親告罪化に反対するなど米国とは異なる主張をしていた。私はこのリーク文書が真実だという立場に立つが、このような主張を貫き、また関税問題では国民に約束をした通り農産品5項目を守るという立場を崩さないことが重要だ。そしてそれらが実現されないのであれば、自民党自らが決定しているように、TPP交渉から脱退するべきである。

 最後に一つだけ指摘しておきたい。秘密保護法案が可決された後、こんな声をよく聞く。「この法案はひどい。でも先の選挙で自民党が圧勝した原因は私たちの側、国民の側にもある」というものだ。選挙という制度のもと正当に選ばれた政権なのだから、選挙民の私たちの側の問題だ、という。しかしTPP問題に焦点をあててみれば、果たして本当に責任は私たちにあるのだろうか? 自民党は1年前の衆院選にて「TPPには断固反対」といって農山村で多くの票を集めた。しかしその3か月後には公約を完全に破って交渉参加した。選挙民にとってはこれこそが大嘘の裏切り行為であり、嘘をついて大勝した自民党の側に責任があるはずである。

 TPP交渉はこれからも秘密裡に進められていくだろう。しかし私たちはこれからも、国内・国際のあらゆるルートを使って、交渉に関する情報を入手し、広く市民に発信していく。また政府に対しては、説明会や情報公開請求などの公式のチャネルを通じて、説明と対話の場を求めていきたいと思う。実際、これまで日本での情報公開は決して十分でなく、むしろ秘密だらけの状態である。秘密保護法が可決されてしまったこの時点から必要なのは、その状況を跳ね返し、これまでよりも市民が情報を得られるスペースを1ミリでも押し広げる取り組みである。現時点から1歩でも状況を後退させてはならない。

2013年10月11日金曜日

形だけの「年内妥結」―失墜する米国の威信と他国の抵抗

「結論ありき」で中身はボロボロの交渉
カナダの市民によるキャンペーンから
 インドネシア・バリ島でのAPEC会議が終わった。APEC会議の隙間をぬってTPP参加国首脳による会合が持たれ、直ちに「年内妥結」を高らかに表明する―これが当初のシナリオだった。
 しかし、そのシナリオはもろくも崩れた。米国内の政府機能停止という理由からAPEC直前に決まったオバマ大統領の「欠席」。しかしこれは直接的なきっかけに過ぎない。確かに強烈なイニシアティブが不在だったことの影響はあるが、交渉の実態はそんなに単純ではない。
「年内妥結」という「目標」が明確に打ち出され始めたのは、3月・シンガポール交渉会合の頃からだ。私自身、シンガポール、5月ペルー、7月のマレーシアと3回の交渉会合に国際NGOとして参加したきたが、会合終了のたびに、「我々は年内合意に向けて大きく前進をした」という文言が前面に出された交渉国による記者発表が聞かれてきた。
 しかし、蓋をあけてみると中身は「妥結」には程遠い。知的財産や環境、国有企業問題、市場アクセス(関税)など各国の対立点の溝は大きい。特に5月ペルー交渉の頃から、マレーシアは明らかに対米姿勢をはっきり打ち出してきた。例えば知的財産分野では、大手製薬会社の特許保護による利潤追求を主張する米国と、国内にエイズ患者が多く抱え、薬の特許保護による薬価高騰やジェネリック薬へのアクセス困難を懸念するマレーシア・ベトナムの対立は鮮明だ。ここには、「利潤か、いのちか」という本質的な問いがはらまれている。
 環境分野では先進国である米国・日本などは高い環境基準を求めているのに対し、マレーシアやシンガポール、ベトナムなどは抵抗を示す。その根底には、3年半もの間米国主導で進められてきた「市場主義」を自国に直ちにあてはめれば、国内の貧困悪化や不安定化などを招くというアジア・中南米諸国の事情があり、また一貫して交渉を我が物顔で牛耳ってきた米国への不満がある。
 独自の判断で情報を出し、市民社会にもアピールするマレーシア
 注目すべきは、TPPは「徹底した秘密交渉」でありながらマレーシアは自国の判断で様々な形での説明や情報公開を国民に対し行なっているという点だ。例えば「29章あるとされる交渉テキストのうち、すでに14章が確定している」との政府発表を行なったり、交渉会合直後に、国民の誰もが自由に参加できる説明会を実施し約700名が参加したりという具合にである。
 さらに、マレーシア政府は過去の自由貿易交渉において、「レッドライン」と呼ばれる独自の基準を持っている。「交渉でこれ以上の譲歩はできない。それをするようであれば撤退する」という線引きである。このレッドラインは具体的な項目が40ほどあり、国民にも公開されている。TPP交渉においても、このレッドラインを適用していくという方針が8月に明確になった。
 APEC前後の時期に、ナジブ大統領は次のような発言をしている。
「TPPはこれまでマレーシアが結んできたどんな自由貿易協定とも違い、投資や貿易だけにとどまらない範囲をカバーしている。そのうちのいくつかは国の自己決定や主権を脅かす。マレーシアは、TPP交渉で決してイエスマンにはならない。閣議や国会審議を経て参加を決め、国民に説明責任を果たす。内政への自主権、知的財産権、投資家対国家の紛争解決、政府調達、政府系企業、環境、労働など、国家主権に関わる重要なテーマが含まれている。そのために年内妥結ができなくても問題ではない」
 ここには明らかに、拙速に形だけの妥結を急ごうとする米国への強烈な批判とけん制が込められている。
 もちろん、マレーシアには国内の政治背景として、TPPによってマレー人優遇政策が揺らげば政権の安定も脅かされるという事情がある。マレー系財界からの強い圧力が政府にはかかっているのだ。しかし強調したいのは、この3年半、エイズ患者支援団体や医療団体、NGOなどは政府に粘り強いロビイ活動を行なっており、その成果がいまの政府の姿勢に影響を与えているということだ。その中心人物の一人であり、私たち国際NGOの仲間でもあるマリー・アシュンタ・コランダイさん(東南アジアたばこ規制連合)は語る。
「最初は小さな団体がバラバラに活動していましたが、やがて連携をし、政府への働きかけが広がりました。著名な医師や、厚生大臣も患者の権利や健康が優先されるべきという私たちの主張に賛同して、政府へのプレッシャーをかけ続けたのです」
 他国も米国主導の交渉と、極度の秘密裡に進められる交渉そのものに対する抵抗を少しずつ示し始めた。国会議員ですら交渉テキストも見ることができず、また交渉の詳細なプロセスを知ることができないという「異常な協定」に対し、ペルーやチリの国会議員は自国政府に対し情報公開を求める動きを起こしている。
ニュージランドのキャンペーンサイト
 ニュージーランドでは、APEC前に市民団体による「It's NOT Right(TPPは権利でもないし民主主義ではない」というスローガンの大キャンペーンが始まった。著名な俳優やミュージシャン、TVコメンテーターなども登場して、TPPの非民主性を訴えるアクションだ。これらはやはり「企業の利潤か、民主主義か」という重大な問題提起である。こうした動きはいまはまだ点在しているに過ぎないが、形だけの交渉が進む中で、きっと多くの国で国会議員や市民を巻き込んでの運動につながる可能性を秘めていると私は考えているし、そうしなければならない。
堕ちる米国の「威信」、焦る米国財界
 こうした抵抗の中、いま米国は「苦境」に直面している。何としても来年の中間選挙までにTPP妥結を成果としてあげたいオバマ政権だが、事態はそれどころではない。
「政府機能停止で資金がなく更新しない」というUSTRウェブ
 大きくは国内財政問題だ。外遊に出ることもできないほど深刻化する状況を、他のTPP参加国はシビアに見つめている。APECが終わった直後の109日、私はTPP交渉を担う米国通商代表部(USTR)の公式ウェブサイトを見て愕然とした。通常であればTPP交渉会合後には高らかに「交渉は前進」という公式見解が掲げられているはずのトップページは、何のコンテンツもなく、ただ「政府機能停止に伴う資金調達失効によりウェブ更新していません」と書いてあるのだ。猛然とTPPを進めようとしてきた米国USTRがウェブも更新できない事態とは、ブラックジョークを通り越し虚しい。
 USTRの資金難というのはかねてからささやかれていた。ブルネイ会合後の個別分野ごとの「中間会合」は、交渉の速度を速めるために設定されたもので、10以上の分野が各地で同時多発的に開催されてきた。それらのほとんどは米国にて、いくつかの分野がカナダやメキシコだ。つまり米国にとって最も移動距離が少なくてすむ北米で開催されているのだ。米国は移動コストも人件費も削減できるということになる。
 一方、米国財界と政府との足並みも完全に一致しているわけではない。これまでは「年内妥結を急げ」と強烈なロビイ活動を行なってきた多国籍企業だが、「形だけの合意」「スケジュールありきの妥結」では、自分たちの獲得目標が二の次にされるのではないかとの懸念を持っている。つまり妥結を急ぐがために、内容を他国に譲歩してしまうことへの危機感だ。米国財界は当然のことながら、高い自由度の貿易協定を望んでいる。また知財のように米国企業の特許保護を求めている。そこを譲歩しての年内妥結は、結果的に利益にならないのだ。大手医薬品企業の連合体である米国工業薬品協会(Pharma)は、「拙速な交渉の進展ではなく、中身の獲得を優先せよ」との声明をUSTR向けに出している。いってみれば財界の勝手な言い分でもあるのだが、いずれにしても米国内での齟齬は確実に存在する。
9月、USTR前での市民によるアクション
 そしてさらに米国市民社会からの反対の声の高まりもある。NGOパブリックシチズンらTPPに警鐘を鳴らしてきた様々な団体は、APEC前から猛烈にキャンペーンを展開し、市民への発信を広げてきた。「Expose The TPP」(TPPを晒せ=公開せよ)は、TPPの問題点についての解説や具体的なアクションツールなども満載のウェブサイトだ。9月、米国・ワシントンで首席交渉官会合が行なわれた際に米国市民はUSTR前に集まり抗議行動を行なった。秘密交渉の非民主性を全面的に訴えるアピールだった。
 こうした世界の動きの中で、日本政府そして私たち日本の市民社会はどのような立ち位置にいるのか、また何をすべきなのか。
 まず、思うように交渉を先に進められない米国は、推進役を日本に担ってもらいたい意向ではないか、というのが国際NGOの見方だ。簡単に言ってしまえば米国の意思を日本に実行させるということだ。その証拠に、11月の首席交渉官会合は日本で開催される可能性もささやかれている。これはもちろん日本にとって最悪である。そもそも日本政府はこれだけ不利な交渉に遅れて参加しておきながら、攻めるもの・守るものの方針や具体目標を私たちに示していない。関税交渉だけがTPPの内容ではなく、医療や保険、金融など多くの分野において、いったい政府が何を獲得しようとしているのか、まずは明らかにすべきである。(そもそもの参加が公約破りだったということは言うまでもなく、その意味では即時撤退することが原則的には正しい)。
 国際市民社会は、日本の市民に期待をしている。「これだけ不利な交渉に遅れて入り、どの国よりも日本の人びとにとってTPPは負の影響を与える。そのことを多くの人が知れば、さらに反対運動は広がり、強くなる」と考えられているのだ。言い換えれば、それだけ私たちにとってTPPは「異常であり危険」ということだ。TPPの年内妥結は、現実的には無理である。まともにやればあと1年以上はかかる交渉を、米国は政治的決着によって妥結しようとしてくるだろう。そのこと自体を阻止し、間違っても日本がそこに加担しないように働きかけなければならない。