2021年8月12日木曜日

知識の共有:ジョー・バイデン大統領が国防生産法を利用してグローバルなパンデミックを終わらせる方法

 

知識の共有:ジョー・バイデン大統領が国防生産法を利用してグローバルなパンデミックを終わらせる方法

 Zain Rizvi, Jishian Ravinthiran, Amy Kapczynski

202186

 原文:Sharing The Knowledge: How President Joe Biden Can Use The Defense Production Act To End The Pandemic Worldwide

https://www.healthaffairs.org/do/10.1377/hblog20210804.101816/full/?utm_medium=social&utm_source=twitter&utm_campaign=blog&utm_content=rizvi

翻訳:内田聖子

この数ヶ月間、デルタ株が世界中の国々に壊滅的な被害を与えてきた。現在、デルタ株は米国にも上陸し、新たな感染の波を引き起こしている。新型コロナウイルスの変異株の急速な出現は、世界中でのウイルスの蔓延が国家安全保障上の脅威となっていることを明確に示している。

ジョー・バイデン大統領は、私たちが共有している疫学的な現実を認識している[1]。大統領は、「世界的に猛威を振るうパンデミックが収束しない限り、米国が完全に安全になることはないと理解しています。どんなに広い海も、どんな高い壁も、私たちの安全を守るのに十分ではありません」と述べている。大統領は、ウイルスとの世界的な闘いでの方策を模索しているわけだが、そうであれば国防生産法(DPA)に基づく大統領の権限を最大限に活用して、世界規模でのワクチン生産を行うべきである。

製造方法および専門知識の共有は、迅速に製造量を増加させるためには不可欠だ。しかし、多くの製薬企業は、世界の製造能力を十分に活用できるようにするための共有には消極的だった。カナダや韓国の製造者がワクチン生産の増強を提案しても、断られたり、無視されてきた。例えば、韓国政府は、10億回分のmRNAワクチンを直ちに製造する能力を提供できると述べた[2]が、提案に意欲的な製薬会社からmRNA技術を確保できていない。

世界保健機関(WHO)によると、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの10数カ国以上の国の19社の製造メーカーがmRNAワクチンの生産拡大に関心を示している[3]。しかし、モデルナ社もファイザー/ビオンテック社も、世界の保健分野のリーダーたちが直接呼びかけている[4]にもかかわらず、これらの取り組みを全面的に支援しようとしていない。バイデン政権も、これら企業に技術の共有[5]を求めてきた。

世界的な製造能力の拡大は喫緊の課題だ。なぜなら、寄付や二国間の契約によって低所得国および中所得国でのワクチン供給量を増加させようとしても、世界規模の需要を迅速に満たすことはできないからだ。

世界の人口に接種するためには約110億人分のワクチンが必要[6]だが、これまでに米国政府はわずか4,000万人分のワクチンを寄付したにすぎない[7]G7による最近のコミットメントには、米国がファイザー社のワクチンを寄付することも含まれていたが、2022年末までに追加的に10億人分のワクチンを提供[8]するにとどまっている。

バイデン大統領は、国防生産法(DPA)を活用することで、世界がワクチン技術の恩恵を受けられるために協力できると同時に、将来の変異株から米国を守ることができる。国防の名の下に、大統領は自身の権限を用いて、製薬会社に技術移転契約の締結を要求したり、妥当な補償額と引き換えに希少な製造方法を提供するよう求めることができる。急増する投資と組み合わせることで、大統領は国防生産法を利用して、数十億回分のワクチン生産が可能な地域ハブを迅速に設立することができる。そうすれば、大統領は何百万人もの命を救い、また何兆ドルもの資金を節約でき、そして新たなウイルスの脅威から米国の人々を守ることができるのである。

ワクチンのレシピの共有

技術移転とは、「開発と製造の間、あるいは製造拠点の間で、文書および専門知識とともに、あらゆるプロセスの移転を管理する論理的な手続」を意味する[9]。ワクチン製造の文脈では、技術移転の目的は、ワクチンを製造するために必要な知識を受け容れ側の拠点に設置することである。第三者である製造メーカーは、知的財産権の障壁が解放されれば、独自にワクチンを製造することが可能となる。しかし、ノウハウを共有すれば、短期的に生産能力を拡大することが可能だ。今回のパンデミックにて、これまでどのように技術移転が行われてきたかを踏まえれば、私たちは3つの一般的な教訓を得ることができる。

第一に、技術移転は迅速に行うことができる。Knowledge Ecology International(KEI)がまとめたデータによれば、新型コロナウイルスのワクチン・メーカーはいずれも技術移転が始まってから6カ月以内に生産を開始している。例えば、ビオンテック社は20209月にがん抗体の製造工場を購入[10]した後、20213月までにスタッフをトレーニングし、規制当局から認可を受け、そしてmRNAワクチンの商業生産を開始できた[11]

第二に、技術移転は比較的限られたリソース(資源)の下でも可能だということだ。ノババックス社では、約10人からなるチーム[12]が世界中を飛び回りながら、複数の技術移転を行なった。アストラゼネカ社では、もっぱらZoomのビデオ通話やウェビナーを通じて仮想的に専門知識を共有することで、アルゼンチンのパートナー企業[13]に技術移転を行なうことができた。

第三に、企業は独自に限定的な技術移転を開始したのだが、それは十分ではなかった。世界中の製造メーカーは、技術を入手できれば生産量の増加に貢献できると述べている。しかし、ワクチンの開発企業は、技術の共有に消極的であり続けてきた。また技術が共有された場合でも、結果的にパートナー関係が制限されたり、範囲が狭くなるなどした。例えば、ノババックス社は当初、インド血清研究所(SIIに、抗原そのものの製造ではなく、バイアルの充填と仕上げのみを許可していた。

この失敗は、商業的な関心にも起因している。製薬会社は、競合他社と思われる企業に専門知識を提供することに消極的だ。特に、将来的により収益性の高い疾病分野で役立つ可能性があるmRNAなどの技術を保有する企業においてこの傾向は顕著である。企業にとっては、より収益性の高い疾病に関する場において、より大きなシェアを獲得できるのであれば、新型コロナウイルスのワクチンに関する技術へのアクセスを制限し、そしてロイヤリティを手放すことが利益の最大化につながる可能性がある。既存の産業界主導のアプローチの下では、将来の投機的な私企業の価値が、技術の共有によって得られる現在の甚大な公共の利益を上回ってしまう。

従って、グローバルな新型コロナウイルスのワクチン製造の可能性を最大限に引き出すためには、政府の介入が必要である。ガラス製バイアルのような独占されていない原材料の不足は問題ではあるが、従来の方法で対処できるため、一時的な問題である。しかし、独占を克服するためには、知的財産権に関する措置(TRIPSの免除[14]を含む)と、情報およびデータの共有を義務付ける協調的な行動の両方が必要である。米国政府は、新型コロナウイルスの研究・開発への世界最大の資金提供者として、パンデミックを終わらせるために必要な知識の共有を企業に要求できるという特異な立場にある。

技術移転を義務付ける法的権限

国防生産法(DPA)は、第二次世界大戦中の戦争権限法に基づき、国防を支援するための広範な権限を大統領に与えている。安全保障上の必要性が戦時下をはるかに超えるものであることを認識し、米国議会は「国防」の定義を時代に応じて繰り返し修正してきた。

現在の「国防」の定義[15]には、「外国に対する軍事的または重要なインフラの支援」、「重要なインフラの支援および保護」(衰退すれば「国家の公衆衛生」が弱体化してしまうようなシステムおよび資産を含む)、「緊急時の準備活動」などが含まれている。

世界的なワクチン生産能力の拡大は、国防生産法における国防の必要性の定義に完全に合致しているものだ。世界のワクチン生産能力は、ワクチン供給の拡大、パンデミックの収束、そして米国の人々の安全を守るために必要な重要インフラである。 新型コロナウイルスによって、すでに60万人以上の米国人が亡くなっている。新型コロナウイルスが海外で複製され続ければ、現在のワクチンが効かなくなるような有害な突然変異が起こる可能性が高まり、再び危機的状況に陥り、より多くの米国人の命が奪われることになりかねない。

たとえ変異株がワクチンを免れることがなかったとしても、新たな変異株は感染力が強く、またより重篤な疾患を引き起こす可能性があり、ワクチンを接種していない何百万人もの米国人に高いリスクをもたらすかもしれない。例えばデルタ株はこのような脅威をもたらしている。全世界でのワクチン接種を達成するための計画は、新たな変異株が全米の人々にもたらす脅威に備え、またそれを最小限に抑えるための活動でもあり、したがって「緊急時の準備活動」として確立されている。

国防生産法の条文の下では、大統領は、世界的なワクチン接種という国防上の必要性を支援するために、米国に拠点を置く製薬会社に対し、製造方法の共有を義務付けることができる。ここでは国防生産法によって与えられた2つの権限に焦点をあてるが、私たちは他の権限についても論じている[16]

まず、国防生産法の第1編では、国防の必要性を促進するために、大統領が直接「物資、サービス、施設を割り当てる」権限を付与している[17]。同法では、「物資」について、「商品」「製品」「物品」などの目に見えるものだけでなく、「そのようなあらゆる物資の使用に付随する技術情報もしくはサービス」も含まれると定義している[18]。ワクチンの製造工程に関する情報は、まさにこの法律が、国防という目的のために大統領によって割り当てられる物資の定義に明確に含む技術情報である。

第二に、国防生産法の第1編[19]、大統領令13603[20]および施行規則[21]では、連邦政府は企業に対し、国防を促進するような契約を受け入れ、優先的に締結するよう要求できることが明確にされている。

米国政府は、ワクチン生産の規模拡大のためにこれら企業と契約し、その技術を移転する能力を明らかに有している。例えばファイザー社は、米国政府との契約[22]の一環として、パートナー企業である欧州のビオンテック社から、製造ノウハウと製造工程を米国に移転することに合意した。国防生産法は、大統領がさらに一歩進んで、国防上の必要性を高めるために、米国の製薬会社に対してこれら契約を受け入れ、優先的に行うよう要求できると定めている。

国防生産法を利用して、米国政府は「技術ハブ」を設立することが可能だ。連邦政府はこの法律を利用して、新型コロナウイルスのワクチン製造に関するノウハウを、米国生物医学先端研究開発局(BARDA)などの米国政府機関と共有することを義務付けることが確実に可能である。そして、米国生物医学先端研究開発局は、国防生産法から独立した政府の権限の下、この重要な情報を世界に向けて発信し、世界の新型コロナウイルス・ワクチンの生産量を増加させることができる。例えば、米国生物医学先端研究開発局は、海外での製造施設の建設や外国人材育成の支援を通じて、世界各地でインフルエンザ・ワクチンの現地生産を促進するプログラムを成功させてきたような専門知識[23]を活用することができる。

米国政府はまた、外国の製造企業や世界保健機関(WHO)と新たなパートナーシップを結びつつ、企業に対して海外での技術共有を直接要求することができる。国防生産法は、その適用範囲を米国とその領土に限定しているように見えるが[24]、少なくとも2つの理由から、海外への技術移転を実現するために米国内で使用することが可能である。 第一に、歴史的な慣習によって、こうした形での国防生産法の使用が支持されている。同法は、少なくとも2003年以降、米国企業から外国への契約および発注を優先させるために繰り返し使用されてきた。特に、バイデン政権は米国のアストラゼネカ社からインド血清研究所(SII)へのワクチン原材料の変更に関して、国防生産法を使用した可能性[25]が高い。

第二に、国防生産法自体が、様々な外国での使用を含むように明示的に修正されてきた。地理的な制限は1950年の法律の一部として成立した。しかし2009年、米国議会は国防生産法における「国防」の定義を修正し、「外国に対する軍事的または重要なインフラの支援」を含めるようにした。これは米国議会が、米国内での国防生産法の使用が、外国の重要インフラを支援することを明確に想定していることを示すものである。米国に拠点を置く製薬会社に対して、そのノウハウを外国および海外メーカーに移転するよう要求することは、明らかに外国の重要なインフラという必要を支援することになる。

いずれにしても連邦政府は、世界のワクチン生産拡大のためにノウハウを移転する米国企業に対して、連邦政府の補助金、投資、技術のリスク調整後の価値を考慮しながら、合理的な補償を行うべきである。例えば、モデルナ社は、ワクチンの臨床開発を行い、製造工程の規模拡大の方法を学ぶために、政府から10億ドル近くの資金を得ている。また同社は、ワクチンに組み込まれている政府の重要な特許技術を使用する許可を得ていない。これについて研究者たちは、同社の2021年の米国での売上予測に基づけば、米国政府はモデルナ社に対して10億ドル以上の補償金を要求できる可能性があると推測している[26]

企業による法的な異議申し立ては可能だが、成功する可能性は低いだろう。例えば、アメリカ合衆国憲法修正第5条の収用条項は、正当な補償なしに政府が私有財産を公共のために収容することを禁止している。技術の共有が収用条項に該当するかどうかは明らかではないが、仮に該当したとしても、公共の利用のために共有が行われ、正当な補償が支払われる限り、裁判所は共有を阻止すること(つまり、差し止め命令を出すこと)はできない。パンデミックを収束させるためにノウハウを共有することは、明らかに公共目的であるため許可され、公正なロイヤリティを確保することで「正当な補償」という要件を満たすことになる。実際、米国最高裁判所は、「正当な補償による救済が可能である限り、差止命令による救済は妨げられる」としてきた[27]

グローバルな協力

バイデン政権は、世界的なワクチン供給に戦時下の対応[28]を行いたいと述べている。国防生産法は、技術を共有し、世界のワクチン生産を強化するための強力な一連のツールを提供する。パンデミックを収束するために知識を共有することは、単に正しい行為ではない。それは、米国の人々を守るための最善の方法でもある。

新型コロナウイルスの海外への感染拡大は、ウイルス対策に限界のある国々を引き続き苦しめることになるだろう。また、海外での感染は、ワクチンが効かなくなる可能性のある、より危険な新たな変異株による感染リスクを高めることにもなる。新たな変異株の脅威は、世界中の何百万人もの人々の命を危険にさらす。新型コロナウイルスによって亡くなった米国人の数は、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ベトナム戦争、9.11事件での死者の総数をすでに上回っている。バイデン大統領もこの驚異的な犠牲者数を認識している[29]

しかし、このパンデミックは、これまでよりはるかに深い国際協力がなければ終息しないだろう。世界中で十分な量のワクチンを生産するために、海外への技術移転を支援し、地域ハブを創造することで、米国はこの世界的な悲劇の収束に貢献するだけでなく、将来のパンデミックに対処するために必要なインフラを構築することができる。このようにして、バイデン政権は、このパンデミック、そして潜在的には他のすべてのパンデミックを終わらせることができる。


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