2015年7月27日月曜日

マウイ閣僚会合での国際市民団体、NGO、専門家の活動 その1

マウイのTPP閣僚会合にて、NGOや専門家が協力して以下のような取り組みを行います。
私自身は、コーディネートやプレスワークを中心に行います。記者の方でご関心ある方は直接会場にお越しになるか、kokusai@parc-jp.org までご連絡ください。



市民団体の専門家らによる記者会見について
7月28日、29日、30日 10:30〜

記者会見は、Westin から徒歩2分のHula Grill で10:30AMから行われます (2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI)。Hula GrillはWestinのすぐ隣です。プール横の歩道を右に曲がって、北方面(海を左手に)に歩いてください。Whalers Villageに入って、右手の2件目のレストランがHula Grillです。

マウイTPP閣僚会合で何が危機に瀕しているか

2015年7月28日(火)
10:30〜

場所:Hula Grill, 2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI
TPPの未解決の問題や、TPPを締結するために閣僚らが行うかもしれない政治的取引が、全TPP参加国の国民、公衆衛生や環境に及ぼす影響について、市民団体の専門家らが説明します。

会見者
  • 山田正彦       TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団共同代表、元農林水産大臣 (日本)
  • デボラ・グリーソン   ラトローブ大学教授、公衆衛生協会
    (オーストラリア)
  • マーティー・タウンセンド    シエラクラブ自然保護団体、ハワイ会長 (アメリカ)
  • ピーター・メイバードッグ    パブリックシチズン医薬アクセス部ディレクター(アメリカ)
TPP交渉の憲法との衝突:東京地裁での訴え提起

2015年7月29日(水)
10:30〜

場所:Hula Grill, 2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI
交渉の差し止めを求める裁判を東京地方裁判所に起こした原告団の弁護士二人が、TPP参加国の国民にとってのこの訴訟の意味を説明し、訴状の法的議論を概説します。

会見者
  • 山田正彦 TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団共同代表、元農林水産大臣
  • 三雲崇正 TPP交渉差止・違憲訴訟弁護団メンバー、新宿区議会議員
市民団体、学者、医療提供者らが説明する、TPPが公衆衛生に及ぼす影響

2015年7月30日(木)
10:30〜

場所:Hula Grill, 2435 Kaanapali Parkway, BLDG. P1, Lahaina, HI
TPPに参加している12カ国の閣僚や政府代表者がマウイで会合を行う中、TPPが公衆衛生に及ぼす悪影響について市民団体、学者、医療提供者らが説明します。

会見者
  • ジューディット・ルイス・サンフアン 国境なき医師団(MSF)キャンペーンマネージャー兼法政策アドバイザー(アメリカ)
  • デボラ・グリーソン   ラトローブ大学教授、公衆衛生協会
    (オーストラリア)
  • ピーター・メイバードッグ    パブリックシチズン医薬アクセス部ディレクター(アメリカ)


2015年6月28日日曜日

日本政府のTPP交渉にかかる出張経費、9億円を超える


★日本政府のTPP交渉にかかる出張旅費、
9億円を超える★

―多額の税金が使われていながら、
国民には中身が知らされない「秘密交渉」で
いいの!?――


 このたびPARCは、日本がTPP交渉に参加して以降の政府交渉官の出張旅費・会議費について、関係する5省庁に情報開示請求を行いました。その結果、2013年3月~2015年2月末までの2年間で、9億円を超えていることがわかりました。長期化する交渉が、経費を増加させていることがデータから読み取れます。
 5省庁から届いた領収書はなんと1570件。PARC事務所ではボランティアの皆さん、TPP反対運動で御一緒している皆さんにもご協力いただき、一枚一枚を手作業で入力しました!
 この経費の財源は私たちの税金であるわけですが、9億を超す額であるにもかかわらず、交渉内容が一貫して秘密であることは国民からすれば納得いくものではありません。この「コスト」は、果たして日本にとって本当にメリットとなるのか、「ムダ金」に終わるのか、私たちは改めて政府に交渉内容の十分な説明を求めます。

★プレスリリース全文はこちらからご覧いただけます↓↓
http://www.parc-jp.org/teigen/2015/tpp_research20150624.html
リリース後、「東京新聞」「朝日新聞」「ロイター」等で早速取り上げられまし
た!
●東京新聞:「TPP出張費 2年で9億円に 長期交渉で膨張」
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015062502000141.html
●朝日新聞:「TPP出張旅費、9億円」
 http://www.asahi.com/articles/DA3S11824591.html
●ロイター:「TPP交渉の旅行経費など、2年間で9億円超=NPO法人調査」
 http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0ZA36720150624

2015年6月18日木曜日

ゾンビが生き返る!?米国議会の攻防を見て思うこと






 6月17日(水)、下院の議員運営委員会(ルール委員会)にて、先週いったん否決されたTPA/TAAパッケージ法案の今後の採決をめぐって議論された。TAAとTPAはセットであり、上院では2つがセットになった法案が採決されたが、下院ではTAAが否決された時点で、パッケージ法案としては否決。すでにTAA法案の方は7月30日まで採決期間が延長されていた。

昨日、ルール委員会のセッションズ委員長はじめ推進派が考えたのが、「新TPA法案」だ。これは要するに、TAAとセットでは可決できないため、TAAとTPAを切り離して下院独自の新たなTPA法案をつくる、という目論見。その際に「利用された」のが、「消防士年金法案」という、聞いたこともない法案だ。これはそもそも明日に採決される予定となっていたが、これを突然修正!(もともとの法案にTPA法案を加える形)して、「新TPA法案」とするのだというから驚きだ。何でもアリ、というのはまさにこのことだと思った。要するに、TPA法案を単独で通すために「消防士年金法案」という乗り物が選ばれたという話。ちなみにこの消防士年金法案というのは従来民主党が推進してきた法案で、民主党議員は反対しにくい。その意味では「最善の乗り物」を選んだのかもしれない。

 その「新TPA法案」の採決は、現地時間18日(木)10:00~13:00ということ。日本時間の18日23:00~深夜2:00くらいの間。もしこの「新TPA法案」が可決されれば、上院に送られて再度採決されることになる。上下両院の民主党議員は、TAAが必ず可決するという「保証」がなければ、単独の「新TPA法案」には賛成できないと言う(当然だろう)。この要請を受け、ベイナー下院議長とマコネル上院院内総務は昨日、「TPAとTAAの両法案を可決して大統領の下に送ると確約する」との共同声明を出した。ベイナーは下院民主党のTPA賛成派議員に対して「TAAは通る」と言っている模様。TAA法案自身も、7月末よりも早い時点のどこかで再採決され、新TPA法案とは別の法案として上院に送られると見られている。上記の不安を払しょくするためにも、おそらく上院ではTAA法案が先に採決され、その後に「新TPA法案」というようになるだろう。何とも複雑で、ルールがコロコロ変わるのでついていけない。米国の国会議員自身も、「さて、今投票した法案だけど、いったい何の法案だったんだっけ?」という感じではないだろうか。

 こうした動きは、米国でこれからも日々刻々と変わるだろう。基本的には、TPA法案について私たちが何かすることはできない。あるとすれば米国の市民社会の仲間たちに熱いエールを送ることくらいだろうか。法案が次々とセットになったり単独になったりとめまぐるしい動きは確かに「おもしろい」のだが、しかし注意しなければならないのは、オバマ大統領とTPA推進派は「どんな手を使ってでもTPAを通す」ことを決意していることだ。そのむき出しの欲望は目を覆いたくなるし、民主主義という観点から言えばさすがに「一線を超えている」。推進派は本性を暴露して、ゾンビ化したTPA法案を生き変えさせようと死に物狂いでうごめいているわけだが、私たちはただそれを対岸の火事として傍観していてよいわけではない。

 日本では甘利大臣が「アメリカには責任を持ってTPA法案を通してもらいたい」などと発言している。すでに「TPP漂流はアメリカのせい」という責任のなすりあいが始まっているかのようだ。米国の議会でのやりとりは確かに醜態であるのだが、ではそんな米国に誘われるままに交渉に入り、説明も不十分なまま聖域を放り出す危険や、国会決議も守れていない危険を冒しているのは、いったいどこの国なのか?

 私たちは日本政府に改めて、「こんな茶番の交渉、米国の勝手極まる交渉はもうやめよう」と強く訴えなければならない。米国議会を見ながら、強く感じることである。

2015年5月6日水曜日

日本の国会議員もTPP交渉テキストの閲覧が可能に!?―妥結へ向かう「落とし穴」にしてはならない







★秘密主義は米国の"ジャイアン・ルール"?

   2015年3月、私はブログにて「米国の国会議員はTPP交渉テキストの全文の閲覧が可能 ―日本ではなぜ、できないのか?」を執筆した。その反響は非常に大きく、多くの方々が「なぜ?」「驚いた」という声を寄せてくださった。その後、4月に入り国会議員への働きかけも仲間たちと行ない、民主党、社民党、共産党などの野党議員が国会にてこの件を質問し、政府との間でのやりとりも繰り広げられた。
 私が指摘したかった最大のポイントは、単に「米国では政府が自国議員にテキストを見せているようだから、日本の国会議員もそうしてほしい」という話ではない。
  すでに米国は2012年以降、厳しい条件つきとはいえ、国会議員に交渉テキストを閲覧させてきていた。また政府が任命する「貿易アドバイザー」といわれる役職の人間(約600人中、8割強が財界メンバー)にはテキストを閲覧させている。さらには今年1月以降、TPA法案提出がなされず、国会議員や市民社会からの秘密主義への不満が最大に達した際に、米国政府は公式な見解として「すべての国会議員へのテキスト全文へのアクセスを可能とする。これまで許されなかったスタッフの同行も許可する」という方針を打ち出した。USTRのホームページにもそう記載されている。4月27日付の米国紙『The Hill』の調査によれば、2012年から今日までの3年間で、40人の上院議員、3人の下院議員がその時々のUSTRの規定に従いTPP交渉のテキストを閲覧している。
  一方、TPP交渉参加12か国の間には「保秘契約」というものがある。そもそもそこには何と書かれているのか。そして米国のこの3年間の措置はこの保秘契約に違反しているのか、いないのか―ー。要するに、「保秘契約とは見せかけの約束であり、実は米国は他国には厳しい保秘義務を強いる一方、自国内では国内政治の都合で好きなように契約の解釈や運用を変えているというダブルスタンダードを用いているのではないか?」という疑念だ。これを私は「究極のジャイアン・ルール」と呼んできた。つまり米国と他国との間のこの不平等・非対称性こそが、TPPの持つ本質であり、「秘密主義」などと言っているのは実はまやかしに過ぎなかったということだ。そして最大の問題は、日本政府がこのような不平等ルールやその実態について、これまで一度も指摘をしたり苦言を呈したりしてこなかったのかだろうか?ということだ。

★国会議員からの情報開示を求める声

2015年4月10日 東京新聞
2015年4月9日日本農業新聞
 この問題を追及する国会議員の質問は4月上旬から下旬にかけて次々と行なわれた。詳しくは「 国会質問編 」を参照いただきたい。この質疑応答を見ていてわかったのは、これまで日本政府は米国のテキスト公開の具体的な運用実態を細かくつかんではいなかった、ということである。例えば4月22日に開催された「TPPを慎重に考える会」主催の学習会の際、内閣官房の交渉担当官は米国でのテキスト公開の実施について「現在調査中」とのみ答えている。また遡って3月30日、福島みずほ議員による「なぜ米国では議員への閲覧ができて日本ではできないのか?」との一連の国会質問に対して、甘利大臣は「アメリカ政府自身も条約上の守秘義務というのは他国にかなりきつく言っているところでありますから、その中でどういう開示の仕方をしていくんだろうと。全て公表しますということが本当にそのまま通るとはなかなか額面どおり理解できないところでありますから、アメリカの開示がどういう形になっていくのか注視をしているところであります」、「まずアメリカがどういう開示をしていくのか、それと、当然、アメリカと日本の秘密保持義務が掛かる掛かり方も違ってくると思いますから、その辺のことをしっかり精査をしたいと思っております」と答えている。


 その後も議員からの質問は止まることなく、マスメディアでも「米国では国会議員に開示」と報じられてきた。さらには民主党ら野党は4月24日、TPP交渉などで政府に情報開示を求める「情報開示法」案を衆院に提出。これらの動きが連続する中で、日本政府も無視できない状況が生み出されてきた。
  そして決定的だったのは4月16日、米国でのTPA法案提出である。この法案では国会議員へのテキスト開示を今まで以上に、しかも妥結前にも進めるとの記載がされている。死にもの狂いでTPA法案を早急に可決させたい米国のジャイアン・ルールも、ここまで勝手極まってくるか、という印象を私は持たざるを得なかった。もちろん書かれている通りの情報開示がなされる保障はない。米国NGOや労働組合などは、TPA法案に書かれた情報開示はまやかしに過ぎないと即座に批判し、国会議員だけでなくすべての国民へのテキスト開示を求めている。もちろんそれは当然の正しい主張だと思う。私はTPA法案に猛然と反対する米国市民社会に賛同しつつ、一方でこんな勝手なルールに振り回されて続ける日本政府の態度を問うてきたのだ。

★日本政府による「国会議員へのテキスト開示」方針

 こうした状況を受けて、5月5日、米国訪問中の西村内閣官房副大臣は、「日本の国会議員にもTPP交渉テキストの閲覧を許す」という方針を記者会見で発表した。すでに日本のニュースでも報じられているが、一部分しか伝えられないはずなので、独自に入手した会見全体の記録から、テキスト開示に関わる部分の副大臣のコメント要旨を少し詳しくご紹介する(副大臣は他にもTPA法案の見通しや日米協議などについてもコメントしているが今回は割愛する)。

・情報開示について、今回(米国の)議員と話し、USTRは対外的に情報を出さないという条件で議員にテキストへのアクセスを認めていることを確認した。日本でも(日本に)戻ってから相談するが、来週以降テキストへのアクセスを国会議員に認める方向で調整したい。
・日本の場合、外に情報を出さないという一定のルールづくりを詰めなければいけない。米国では守秘義務が厳格で、ある議員は「何か漏らすと訴追される」とも言っていた。日本では国会議員に守秘義務、罰則がないため方法を考えなければいけない。
・このルール・方法についての法令整備を行う時間はないだろう。国会と一定のルールについて整理し、一定の約束の下でアクセスできるようにしたい。
・USTRがどの程度まで閲覧を認めているのかは、USTRに照会をかけている。USTRのやり方を参考にしたい。
・なぜこの時期にかといえば、交渉が最終段階に来ていること、USTRも同様の運用をしていることなどが理由である。日本でも国会議員からいろいろな委員会で質問を受けており開示を求められているので総合的に判断し検討したい。できるだけ早いタイミングで行いたい。

 確かに、これまで日本では国会議員にも一切テキストの開示も閲覧も許されてこなかったことを考えると、いわゆる説明責任という観点からは一歩前進、ではある。「日本も米国にならってやっと交渉テキストを公開するのだ。よかったじゃないか」と思う人もいるかもしれない。しかしここには大きな落とし穴が用意される危険性が大いにあることを強く指摘しておかなければならない。連休明けからこの件は話題になると思うが、下記の論点・問題を抜きに、日本政府の「開示への前進」を評価してしまうのはあまりにも表面的かつ危険である恐れがある。
 
【国会議員によるTPP交渉テキスト閲覧にあたっての5つの論点】

1.そもそも「保秘契約」の中身とは何なのか?
 先述の通りTPP交渉には12か国間で取り交わす「保秘契約」がある。この契約の中身自身が「秘密」であるため、私たちには「どのような情報を漏らしてはいけないのか」「どの範囲までなら許されるのか」「違反したらどうなるのか」などの内容すらわからない。約束の中身、つまり立ち返る規範がわからなければ、実際の行為が違反しているのかどうかも当然わからない。
  今回のテキスト開示の問題でいえば、米国が2012年頃から国会議員に条件付開示をしてきたこと、また貿易アドバイザーには閲覧させていることは、果たして保秘契約違反なのかどうか。あるいは今年に入って米国がすべての国会議員への全文アクセスを許可すると大々的にアナウンスしたことは、違反にあたらないのか?  さらにいえば、日本がこのたび「国会議員へのテキスト閲覧を許す」と発表したことは、契約違反にあたるのかどうか?またこれまでは「保秘契約があるので無理」だったのに、なぜ今は「可能」なのか―ー?
  仮にこれらが保秘契約違反だったとしたら、すでにTPP交渉は破たんではないだろうか。あるいは違反していなかったのだとしたら、なぜ今まで日本政府は「米国のように」積極的に開示してこなかったのか。いずれにしても国会での説明はもう免れることはできない。国会議員への閲覧を許可する際の大前提として、政府は保秘契約の中身について開示する責任がある。そしてもちろん、形骸化し一国だけのわがままルールとなっている保秘契約それ自身を、早急に破棄すべきと私は考えている。

2.米国や他国のテキスト開示の実態はどうなっているのか?
 これも先述の通り、これまで日本政府は各国における情報開示のやり方について、詳細な把握は十分できていなかったようだ。甘利大臣や西村副大臣の答弁や記者会見でのコメントからもそのことが伝わる。甘利大臣も西村副大臣もそろって「USTRに照会中」「アメリカと日本の秘密保持義務が掛かる掛かり方も違ってくると思いますから、その辺のことをしっかり精査をしたいと思っております」というような発言をしている。要は米国の実態を把握し、それに沿ってやるということのようだが、政府が把握した結果について、保秘契約内容の開示とも関連し、私たち国民に知らせるべきである。
  さらにいえば、12か国で交渉しているはずのTPPなのに、なぜ日本政府は「米国の情報開示の方針や方法を調べる、参考にする」としかいわないのか。マレーシアやベトナム、カナダ、メキシコは? ジャイアンに許可をもらえばその範囲内のことはできる、ということなのだろうか? ここでも「誰が(どの国が)TPPというルールを支配しているのか」が明らかであり、また貿易問題以外の日米関係の不平等性もかかわってくるのではないか。

3.開示の具体的な運用のしくみやルールはどのようになるのか?
 5月5日の西村副大臣の記者会見コメントでは、具体的な運用やルールは帰国後に検討する、ということであった。実はこの運用やルールづくりがもっともやっかいであり、そして情報開示を本当の意味で民主主義を具現化したものとするのか、あるいは単なる形式やエクスキューズとするのかの分け目となる。かなり技術的な議論にもなるが、仮に国会議員へのアクセスが可能となる場合、大きく言って下記のような内容・条件が確保される必要があると私は考えている。
 ①テキストは原文(英語)と政府による日本語訳の両方をセットにしなければならない
  国会議員も国民も、原文だけを見せられても意味不明である。しかし政府による翻訳あるいは抄訳だけ見せられても不十分である。原文と翻訳の両方をセットにして閲覧可能とするべきである。
 ②国会議員本人だけでなく、専門性を持つ秘書などのスタッフの同行も許されるべき
  米国ではすでに今年に入って、スタッフの同行も許可されている。TPPの交渉分野は非常に広く、国会議員自身だけでは必ずしも専門性をもった分析が十分でない場合もあるので、閲覧には必ず秘書などのスタッフ同席が許されるべきである。
 ③テキストに書かれていない内容の説明を政府は議員の要請に応じて行なうこと
  国会議員が閲覧したテキストに関して、交渉プロセスや日本政府の方針などについて説明を求めた際には、テキストそのものに書かれてある文言以外の、交渉プロセスにおける議論や各国の主張の違い、日本政府の具体的提案などについて政府は説明しなければならない。米国の国会議員はすでに、単にテキストを見せられることでは意味があまりなく、交渉のプロセスや「書かれていないこと」(例えば為替操作禁止条項など)について政府はどのようにするつもりか、他国は何を主張しているのか、などの説明を政府に求めてもいる。考えてみれば当然の話だが、テキストの「行間」も併せて開示されなければ意味がない。
 
4.大筋合意や妥結の前に開示はなされるのか?
 西村副大臣が国会議員へのテキスト閲覧の方針をコメントしたのは5月5日。折しも安倍首相訪米の直後であり、そしてTPP交渉全体の行方を握る米国TPA法案の審議がいよいよ本格化するという時期である。この「タイミング」は何を意味しているのだろうか。素直に考えれば、米国が国会議員への全文テキスト閲覧を発表したのが3月18日、その後の4月上旬~下旬にかけて日本では国会議員の質問や情報開示法案の提出などが起こる。これと並行して日本政府が米国における閲覧の状況を調べ、その結果5月5日に発表、となる。
  しかしやはり気になるのはTPA法案の動きと日米協議の進展具合である。穿った見方をすれば、日本で国会議員に何らかの形でテキストを公開するということが、日米協議やTPA法案問題とも関連しながら囁かれる「夏までの妥結」に向かうエクスキューズになりはしないか。つまりいよいよ合意や妥結が近づいてきたというタイミングで、「ある程度の情報開示」を与野党の国会議員への「説得材料」にするという危険性である。
  TPP交渉テキストは、それ自体を何百回見ても本当の狙いにたどり着くのは困難な代物だろう。だからこそ、先に書いた「書かれていないことについての説明」や「交渉のプロセス」の説明が重要なのである。そのことを考えるとき、これから日本政府がどのようなスケジュール感で議員に閲覧を許していくのかが決定的に重要である。「大筋合意」に至るまでの間に、閲覧と説明がなされなければならないし、逆にいえばそのことがなされない限りは、妥結をしてはいけない、という「条件」を国会でしっかりと規定していかなければならない。もちろん政府が閲覧と説明をしたからといって大筋合意をしてよいということにはならない。閲覧や説明は前提条件であって、それがなされて初めて、日本にとってTPPが有益なのかどうかの議論が始まる、ということである。

5.国会決議で約束した「国民的議論」を
―国会議員だけでなくすべての人びとにテキストは開示されなければならない
 この点は、1~4までの国会議員への閲覧に関する論点とは位相が異なる。しかし何よりも重要な問題である。2013年4月、自民党は国会決議で情報開示に関して以下のことを採択している。
「交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること」。
 この決議に照らしてみると、これまで国会への報告はもちろんのこと、国民的議論に足るような情報提供が十分になされてきたとは言い難い。政府は、何回も各地で説明会を実施したりホームページで交渉に関する情報をたくさん提供している、という主張を繰り返しているが、それでは本当の意味での「国民的議論」は起こるはずがない。なぜなら、提供される情報とは、常に交渉の日程やどの分野で行ってきたかなどの概要、あるいは「テキストがほぼ固まっているのはこの分野」「この分野はまだ決着がついていない」などの説明であり、肝心の「中身」についてはまったく説明されないからだ。
  なぜ政府が中身を説明できないのかといえば、これまで何度も繰り返してきた「保秘契約」があるからという理由だ。しかし先述のとおり、保秘契約そのものの平等性・普遍性がすでに破たんしている可能性がある。そのような契約のもと情報が長らく開示されていないのだとすれば、あるいは「開示してもいいはずの内容を日本政府の独自の判断でしてこなかった」のだとすれば、政府の責任はあまりにも重い。
  TPPは机上で練られたテキスト文書の上だけで完結するはずはない。私たちの暮らしや仕事、地域社会のあり様、社会の制度、主権そのものまでをも脅かす危機であるからこそ、懸念や反対の声が今も続いているのである。米国のなりふり構わぬルール違反(あるいはダブルスタンダード)が徐々に明らかになってきている今、「もういい加減、秘密隠し”ごっこ”はやめよう」と毅然と主張することこそが、日本政府がすべての交渉国そして日本の人びとに対するフェアで誠実な態度ではないだろうか。そしてそのことは、民主主義国家の政府として決して誤った選択ではなく、長期的に見て国際的にも大きな信頼を得られる英断であると私は思う。
  
情報開示の問題は、TPPに賛成であれ反対であれ、あるいは「わからない」という立場の人であれ、大きく、等しく、かかわる問題である。私たちが日々協働している米国NGOパブリック・シチズンの創設者ラルフ・ネーダー氏は、かつて「情報は民主主義の通貨である」と語った。正しく、誰にも歪められていない情報に等しくアクセスできることで初めて、私たちは考え、他者の意見や立場も知り、比較もしながら、自分の意見を決めることができる。そもそもここまで情報が隠されてきたこと自身が「異常な」協定であり、あり得ないという当たり前の論理を決して手放さずに動いていきたいと強く思う。 


2015年4月24日金曜日

2015年TPA法案をめぐる問題―日本政府は「法案提出」に騙され、いかなる交渉も進めてはならない―




1.はじめに―2015年TPA法案の概要

2015年4月16日、米国にてTPA法案が議会両院に提出された。法案名は「the Bipartisan Congressional Trade Priorities and Accountability Act of 2015」であり、直訳すれば「2015年 超党派貿易の優先事項と説明責任に関する法律」である。提出者は共和・民主の超党派議員であり、通商問題を所管する上院財政委員会のオリン・ハッチ委員長(共和党)、同ロン・ワイデン(少数党)筆頭委員(民主党)、そして、下院歳入委員会のポール・ライアン委員長(共和党)の3名である。下院歳入委員会の民主党筆頭委員はサンダー・レヴィン議員だが、共同提出者には名を連ねていない(レヴィンはその後TPA法案を批判するレポートを提起)。
2014年1月にもTPA法案は提出されているが、審議されないまま廃案となった。その後の昨年1年間、TPP交渉自体は大きな進展がなかった最大の理由の一つは、「オバマ大統領には貿易促進権限(TPA)がない」というものだった。つまりTPP交渉各国は、交渉妥結をしても後で米国議会から内容が覆され再交渉となるのを避けたい。TPAを取得するまではぎりぎりの詰めた交渉には挑めない、との態度をとってきたのだ。特にカナダやチリは、「オバマ大統領にTPAがない間はいかなる譲歩もしない」と明確に主張してきた。
その意味で、米国で「いつ、どのような内容でTPA法案が提出され、果たして両院議会で可決されるのか?」ということがTPP推進・反対を問わず大きな注目の的となってきた。
2014年11月の米国大統領中間選挙後、議会における勢力は共和党優位に変わった(図1参照)。その後、年明けの1月からはもっぱらTPA法案の話題が中心となる。当初は1月下旬に出されるという噂もあったが実現せず、その後は2月か、3月か、とされ、とうとう4月16日まで遅れこんだのだ。なぜか。共和党・民主党両党の間でのTPA法案をめぐる駆け引きが難航し、内容での一致が難しかったからである。例えば、法案提出者でもある民主党のワイデン議員は、労働組合からの激しいロビイを受け「TPA法案にはTAA: Trade Adjustment Assistance (and enforcement)」を盛り込まなければ合意しない」と主張してきた。TAAとは、自由貿易の結果、失業した人への支援プログラムで、例えば失業者が職業カウンセリングやトレーニング、失業期間の所得補助や医療保険を受けられることになる。こうした内容を盛り込まなければ法案も提出できないとの主張するワイデン議員とハッチ議員との間で調整が進められてきたのだ(しかし結果的にTAAはTPA法案には入らず、「別法案」として提出されることになった)。
また後述する「為替操作禁止条項」をめぐる議会内での意見の対立や、秘密交渉に不満を募らせる両党議員に対する措置など、今回のTPA法案を提出し可決させるためにはいくつものハードルが存在していた。
こうした問題から法案自体の提出が遅れこんだわけだが、一言でいえば今回のTPA法案は、基本的に2014年TPA法案をそのまま踏襲しつつ、何とか議会で「可決してもらうため」に、端々に各要望へのリップサービスを散りばめた法案といえる。例えて言うならば、夏休みの終わりの数日で大慌てで宿題をこなし、何とかいい点がもらえるようあちこちに「先生が気に入るような内容や表現」を書き込んだようなものだと私は思う。


2.TPA法案をめぐる論点
 
 新TPA法案提出の直後、米下院歳入委員会のスタッフが2014年法案と新法案の一言一句を比較し、相違点の一覧リストを作成した(註1)。これを見れば一目瞭然だが、法案のほとんどの部分は2014年法案と同じである(2014年法案も2002年TPA法をほぼ踏襲している)。
以下にTPA法案の問題点を挙げる。これによって、いかにTPA法案が不十分で脆弱なものかをご理解いただき、間違ってもこのような法案の「提出」をテコに、日本政府は日米協議あるいはTPP全体交渉を進めてはならないということを強調したい。

(1)この法案は大統領に一括して権限を与える「貿易促進権限」法案なのか?

先述の通り、両院議会に提出された新TPA法案は「the Bipartisan Congressional Trade Priorities and Accountability Act of 2015」であり、直訳すれば「2015年 超党派貿易の優先事項と説明責任に関する法律」である。
 実は本来TPAとは「Trade Promotion Authority」つまり「貿易促進権限」といわれ、2002年のTPA法案はまさに「Bipartisan Trade Promotion Authority Act of 2002」(2002年超党派貿易促進権限法)という名称であった。だが2014年時のTPA法案提出の際には「Trade Priorities Act=貿易の優先事項に関する法律」という名称で出されている。内容は2002年TPA法をほぼ踏襲したものである。頭文字だけをとった略称では同じTPAだが、大統領に貿易促進権限を与えるという意味あいよりも、議会から見た「優先順位」を定める法律の要素が強い。そして今回出された新TPA法案の名称には2014年法案にさらに「Accountability=説明責任」という言葉が加えられている。つまり新TPA法案は、大統領に全権を与える法律ではなく、①貿易交渉における米国にとっての優先順位を議会が規定し、②政府に対して国会議員への情報公開を徹底させるための法律であり、この条件を守っている限りにおいて、大統領に一定の権限を与えるというものだ。2014年法案の時点から、略称にした場合に同じ「TPA」にする意図が込められていたわけだが、今回の新TPA法案でも同じ手法が使われている。
 日本のメディアは2014年法案時点から「TPA=貿易促進権限」法案と表記している。しかし根本に立ち返ると、今回の法案の正式名称は同じ「TPA法案」であっても、日本語表記をする場合には「貿易の優先事項と説明責任に関する法」案とするのが正しい。単なる翻訳・文言の違いを指摘しているのではない。大統領への「貿易促進権限法案」と、議会の側から提起される「貿易の優先事項と説明責任に関する」法案とでは、意味する本質と印象が大きく異なる。TPA法案をめぐる「作為」はまさにこのような部分に象徴されているのである。

(2)TPA法案は大統領に「貿易権限」を無条件に与えていない。
法案では、「新しいメカニズム」として上院と下院どちらかが、交渉内容がTPAの要件を満たしていないと判定した場合、TPAの円滑な手続きを中断することができるしくみが盛り込まれている。言ってみれば一度与えた政府の権限を、交渉内容如何によっては議会が剥奪できるというものだ。これはハッチとワイデンの対立点であった「修正権限」にかかわるものであり、議会が政府に再交渉を求めやすくする条項が盛り込まれたといえる。この点も、本来のTPAの趣旨とは大きく異なるといえる。
しかしながら、この修正権限については、米国内でも議論が分かれるところではある。市民団体の中では、「修正権限が強められたといっても従来のしくみと同じであり、大統領に大幅な権限を与えてしまえば後戻りができなくなる」との懸念も表明されている(だからこそ米国内では市民社会からTPA法案に強い反発があるのだ)。おそらく今後の法案審議の中で、このメカニズムについては数々の論議が巻き起こるだろう。しかし現時点で、そのような意見対立や解釈の違いが存在するということ自体、新TPA法案の持つ脆弱性が露呈していると言わざるを得ない。
従来、日本では「TPAが成立しなければ、政権が合意に至っても、議会は内容について様々な修正を求めることができる。これでは各国は安心して交渉を進めることができず、これが交渉停滞の原因のひとつになっている」との解説がなされてきた。しかし今回の法案を文字通り解釈する限り、仮に法案が可決しても、議会には交渉内容に異議申し立てをし、大統領から権限を取り上げることが可能である。しかも2015年TPA法案は2014年法案よりさらに議会の権限を強めている。要するに仮にTPA法案が通ったとしても、交渉相手国は決して「安心して交渉を進める」ことなどできないのである。


(3)情報開示についての非対称性―TPA法案では国会議員への情報開示を約束している。では保秘契約とはそもそも何だったのか? 日本政府はTPA法案が可決されたら、同様の措置を日本の国会議員にも保障するのか?
 新TPA法案と2014年TPA法案との違いの一つは、情報開示に関する項目である。新TPA法案では、国会議員への情報開示として、全国会議員に加え「セキュリティ・クリアランスを得たスタッフも協定案を閲覧できる」という内容が追加された。また「各国政府が協定に署名する60日前には交渉内容を、一般の人もアクセス可能なUSTRのウェブサイトにて公表し、情報を更新していくこと、また協定が妥結した場合に米国の目的と利益にどの程度合致しているのかについての説明を掲載すること」という内容も付け足されている。
 これらの項目が加えられた背景には、交渉が始まって以来続く、米国の国会議員からの秘密交渉への批判の声がある。TPA法案提出の約1か月前の3月18日、USTR代表のフロマン氏は「今後、米国政府はすべての国会議員に交渉テキスト全文を閲覧できるようにする」との方針を示した。USTRのウェブサイトにも同様の内容が1月時点で掲載されている。これらは秘密主義を問題視する両党議員への措置であり、TPA法案に書かれた情報開示が意図するものと同じ趣旨であろう。つまりこれらはすべて秘密主義を批判する国会議員にもTPA法案に賛成してもらうための「説得材料」である。
 しかし当然、これらの措置がとられたとしても市民社会に完全にオープンにならない限り、TPP交渉それ自体が問題であるという点は残る。
 米国は新TPA法案で、いわば自己都合で情報開示に関する規定を書きこんでいる。しかしそれは、日本も含む11か国と交わしている保秘契約と矛盾しないのだろうか。他国が国会議員の閲覧も許していないのはこの保秘契約があるためであり、米国だけが許されて他国は許されないということはあってはならない。すでに新TPA法案が出される以前から、米国は条件付ではあるが国会議員への交渉テキスト閲覧を許可してきている。そのこと自体が非対称・不平等であるわけだが、果たして日本政府は「米国並み」の情報開示を本気で行うつもりがあるのだろうか?

(4)そもそもTPA法案が可決する可能性は極めて低い。

 すでに指摘してきたが、今回の新TPA法案は、2014年法案に、各方面からの批判に対する「対応措置」として変更を加えたものに過ぎない。しかも日米協議や安倍首訪米から逆算したタイムリミットぎりぎりに、乱暴な手を使って提出された「問題法案」である。法案提出がなされた4月16日の朝10時から行われた公聴会では、法案提出もされていないのに公聴会が「形式的に」開催されたことに対し民主党議員を中心として猛烈な批判の声があがった。法案の内容以前に、手続き面でも慎重かつ公正といえない。法案提出直後のニューヨークタイムズは、TPA法案は「オバマ大統領の再任以来、もっとも困難な法案審議となるだろう」と予測した。米国NGOパブリック・シチズンはTPA法案の問題点を指摘しつつ、「法案は賛否の可決にすら至らないまま消えていく可能性もある」と分析する。

 実際、法案が可決する見込みは低いと言わざるをえない。

 法案が出された直後の4月17日、マレーシアのNGO「The Consumers’ Association of Penang(CAP)」と「Sahabat Alam Malaysia(SAM)」は「マレーシアは米国のTPA法案に騙されてはいけない」と題した声明をリリースした(註2)。ここでは非常に冷静な「過去の実績」と「票読み」に基づき「TPA法案が可決される可能性は極めて低い」と指摘している。下記にその理由を引用する。

①米国ではこれまで提出された法案のうち実際に法律となったのはわずか2-5%である
②法案可決のために下院では定数435の過半数218人の賛成票が必要だが、実際には困難である。
 *今回の法案は、「出された時点で死んでいた」法案である2014年TPA法案とほぼ同内容である。この時TPA法案を支持した下院民主党議員は、201人中、たった8人だった。民主党下院の院内総務ナンシー・ペロシでさえ法案に反対した。下院共和党では100人以下の賛成しかいなかったといわれている。
*法案成立の可否について、下院では、共和党が過半数を確保しているものの、オバマ大統領への不信と反発から、共和党右派(ティーパーティー等)を中心に法案への反対が見込まれている。3月、ウオールストリート・ジャーナル紙は「50~60人の共和党議員がTPA法案に反対」と報じた。つまりTPA賛成の共和党議員は186~196人であり、下院の過半数218人を得てTPA法案を可決するためには、最大32人の民主党議員の賛成が必要となる。しかし下院民主党でTPA賛成は15人ほどしかいない。つまり下院での可決は非常に困難である。
*主要な民主党議員がTPA法案に反対している(下記)。
・サンダー・レビン議員:下院歳入委員会のランキング・メンバー(上院または下院の少数党に所属するその委員会の最古参議員)。彼はTPA法案の問題点を指摘する6ページのリストを法案提出直後にリリースした。
・クリス・ヴァン・ホレン議員:下院予算委員会のランキング・メンバー。
・ハリー・レイド議員:上院院内総務。
・エリザベス・ウォーレン議員:影響力のある上院議員。

③そもそも大統領が議会からTPAを取得するのは大変に困難である。議会はビル・クリントン大統領の8年の在任期間中、6年間TPAを与えてこなかった。在任中、クリントン大統領は1995年、97年、98年の3回にもわたりTPAを議会に求めてきたにもかかわらずである。またその後のジョージ・ブッシュ大統領は、TPAを得るのに実に2年間も費やした。またTPAの期限が切れた後、大統領は2007年と2008年TPA延長を求めたがいずれも議会は却下している。

 上記の理由の他に、「為替操作禁止条項」の記載について付け加えたい。
 ④為替操作禁止条項
TPP交渉に日本が参加する以前から、米国の国会議員の間では日本による円安誘導政策への批判が強く、日本参加以降も、これら議員は為替操作禁止条項をTPP交渉に盛り込むように強く求めてきた。今回の新TPA法案が提出される前、為替操作禁止条項が持ち込まれるのかどうかが注目された。というのも、為替条項をTPP交渉のテーブルに乗せれば、交渉は紛糾することは必至であり、ただでさえ懸案分野が残っている中で、米国自らが交渉をさらに難航させるという選択はしにくい。また議会の中には「そもそも日本の円安誘導政策は為替操作にあたらないのではないか」という意見や、「為替操作禁止条項は巡り巡って米国自身の首を絞めかねない」などの慎重論も根強く、議論を二分していたのだ。
 結果的に、為替操作は2014年TPA法案の文言をすべて引き継ぎ、新TPA法案にも以下の通り盛り込まれた。

 通貨政策に関する米国の原則的な交渉目的は、米国との貿易交渉の相手国が、効果的な国際収支調整を避けるため、または交渉している相手国に対し不公平な競争上の優位を得るための為替操作を、協力メカニズム、強制力のある規制、報告、監視、透明性や適切と思われる他の手段を用いて、防ぐこと。

 実はこの為替操作禁止条項の条文についての評価は難しい。文言の趣旨は為替操作禁止であるが、実際にどのような手段や方法、メカニズムを使って実施するのかはあいまいである。結果的には、為替操作禁止を求める勢力にとっても、逆に入れずにTPP交渉を粛々を進めたい勢力にとっても不満が残る書きぶりであり、これによってTPA法案賛成に議員を取り込める可能性は低いと考える。法案提出後、すでに為替操作禁止条項については民主党からも修正要求が出てきている。もちろんここでいう「為替操作をする国」として想定されるのは日本や中国であるので、私たちも警戒していかなければならないことは当然である。

3.日本政府はTPA法案提出に「乗せられて」交渉を進めてはならない

 米国でTPA法案が提出された4月16日以降、日本政府は待っていたといわんばかりに動いている。甘利大臣はじめ関係者は「TPA法案提出を歓迎」と表明、4月26日からの安倍首相の訪米前に二国間協議を収束させることを目指した。考えてみれば法案提出された4月16日というのは日米協議の最中であり、日米協議が終わるまでというのがTPA法案提出のぎりぎりのタイミングだったともいえよう。
 法案提出がされたことを契機に、日米二国間協議は加速し、直後の19日からは日米閣僚会合が急きょ開催される運びになった。ここでは日米間の懸案である米の輸入枠や自動車に関する議論がされたと伝えられている。
 米に関していえば、そもそも「聖域」とされ国会決議でも「聖域を守る。守れなければ交渉撤退する」と約束しているにもかかわらず、米国からの主食米21万5000トン(主食用17万5000トン、加工用など4万トン)の輸入要求への妥協策として、「主食米5万トン輸入」などの案が政府から出されているという(それでも米国は納得していない)。これが本当であれば、まさに「なし崩しの譲歩」であり、国益に反する行為である。
さらに今回、自動車に関しても大きな問題が明らかになった。米国は関税撤廃を段階的にであれ行うことに難色を示してきた。その上で、原産地規則を厳しく設定するよう求めているというのだ。TPP参加国でない国による部品供給を受ける日本メーカーの車は「日本産」といえない、という論理だ。「日本産」といえるためにはTPP参加国でつくられた部品や生産・加工にかかった費用が一定比率を超えなければならない。NAFTAでは自動車で62.5%、日本が過去に結んだEPAでは約40%だ。TPPでNAFTA並みの比率が適用されれば、多くの部品や現地組み立てを中国やタイと取引している日本車のほとんどは「日本産」といえなくなる。それでは困るのでどうすればいいか、といえば、要は「アメリカの部品を買い、アメリカの現地工場で組み立てなさい」ということになるわけだ。自動車に限らず他の製造業にとってもこれは無関係でない可能性もある。
自動車はもともとTPPにおける日本にとっての「攻める分野」であったはずだ。しかしそれがこのような形で逆に「攻められる分野」へと180度変質していっている。日本政府はいま何を「国益」と位置付けて交渉しているのだろうか。もはやこれは「交渉」でなく「一方的な日本の切り売り」としか表現する言葉が見つからない。そしてこのような行為が、可決する見通しも十分でなく形式だけ取り繕うために提出された「米国でのTPA法案」に乗じて行われていることに怒りを禁じえない。

TPA法案提出直後から、米国市民社会は猛然と怒っている。その内容はもちろんのこと、提出の経緯も極めて不透明で非民主的だったからだ。ワイデン議員の地元オレゴンでは連日のようにデモが行われ、4月21日にはUSTR前では労働組合など1000人がTPPとTPA法案への反対デモを行った。デモの中で与党・民主党の会派に参加する無所属のサンダース上院議員は「これまでの自由貿易協定でも政府は雇用が創出されると言ったが誤りだった。TPPも失敗する」と訴えた。さらに4月22日には市民団体らがワシントンでデモを企画している。これら市民社会からの反対は、ダイレクトに国会議員へ伝わっている。この声を無視して、TPA法案賛成に回る議員(特に民主党)が多数いるとは私には思えない。安倍首相が訪米時にどれだけのリップサービスとラブコールをしたとしても、である。
ニュージーランドのジェーン・ケルシー教授は、「TPA法案提出は、5月下旬の閣僚会合を実現し、そこで妥結に持ち込もうとするための単なるデモンストレーションの効果しかない」と指摘している。法案はただ提出されただけであり、可決の見通しもない。そのようなものを根拠に、交渉を進めることはあまりに危険であり無謀である。

最後に、先ほど紹介したマレーシアのNGOの声明文から引用したい。そのまま同じことが日本にもあてはまる。

「これまで述べてきた理由から、マレーシアはただ単に議会に提出されただけのTPA法案に騙されてはなりません。米国の上院・下院の両院において実際にTPA法案が可決しないうちは、マレーシアは今後TPP交渉でいっさいの譲歩をしてはなりません。
 最も重要なことは、マレーシアはTPP協定にサインしてはならないということです。なぜなら、国連のエコノミストによる費用便益(コスト・ベネフィット)分析が明らかにしたように、『マレーシアの利益になる』とされているいくつかのTPP交渉分野で、実際には敗北し、そこで支払うコストはマレーシア社会のすべてのセクターにとって非常に重い負担になるのです」


【註】
1▼”Side-by-side Comparison of the 2014 and 2015 TPA Bills--Prepared by Ways and Means Committee Democratic Staff”