3月4日からシンガポールで開催される第16回TPP交渉。日本国内では日米首脳会談後、日本の参加表明問題で大揺れだ。しかし国内の状況は実はTPP交渉そのものにはあまり大きな影響は与えていない、というのが私の見方だ。なぜならば、日米首脳会談は、単に両国の首脳がTPPに関して話をしただけであり、それがただちに日本の参加を保証するものではないからだ。また国内ではマスメディアがこぞって「TPP交渉 参加へ」などと書き立て、それが規制事実のように語られている。その根拠とされているのが日米TPP共同宣言なるものだが、これ自体も国際的には大したインパクトを与えていない。
どの国にも「守りたい領域、分野、品目」があるのは当たり前の話で、それを交渉の中でかけひきによって決めていくことも当たり前のルールだ。TPPはもともと「聖域」については除外しておらず、だからこそ、現在のTPP交渉の中で米国やカナダ、オーストラリアなどの国の間で関税問題でもめている。ただそれだけの話である。むしろ、「牛肉と自動車」という特定分野にふれ、その内容に関する事前の作業を完了させる、という点が大問題。牛肉と自動車というのは、言うまでもなく米国が日本の市場をねらっている分野(牛肉)と、日本から入ってきてもらっては困る分野(自動車)である。つまりどちらも米国にとってのセンシティブ品目だ。これだけを作業完了するということは、つまり「米国の意向を十分に反映させた上でTPPに入る」といっているに等しい。もし対等な、「共同声明」だというのなら、日本のセンシティブ品門である米や乳製品について、なぜ同じように盛り込まないのか。要はこれは「日米共同宣言」などという美しい内容ではなく、その本質は「日本を米国に売り渡す宣言」なのである。少なくともその2品目については。
これをもって、「聖域ありと確認」と喧伝するマスコミの暴挙というしかない醜態は、どうしても指摘しておかねばならない。牛肉・自動車で米国の都合に合わせるという内容の宣言を、「聖域なき関税撤廃ではない」とわざと無関係や文脈に読み替え、発信を繰り返している。決してこのような大嘘に騙されてはいけない。こうした茶番は他のTPP交渉参加国にとってはあまりに滑稽で無意味なものに見えるだろうと私は思う。
さて、TPP交渉である。私は5日~12日までシンガポール交渉の場に参加する。長年協力関係を築いてきた米国のNGOパブリックシチズンの助力を得て、ステークホルダー会議への参加もできることとなった。
現地からもできるだけ交渉の過程や市民社会の動きを発信していきたいが、まずはその一回目として、「ステークホルダー会議」についてご紹介する。
米国でのUSTRと市民社会の代表とのステークホルダー会議 |
まず、TPPに限らず国際会議や協定の交渉の場面では、さまざまな利害関係者(ステークホルダー)を登録させ、ある一定の条件内での会議参加が許される。これ自体は市民社会の運動の成果でもある。もちろんTPPの場合は、各国の交渉官がテキスト(条文)については交渉する最も重要な会議にはステークホルダーは入ることはできない。すべてが密室で、行なわれているわけだ。しかし、TPP交渉の場合、会期中、最低1日はステークホルダー会議に充てられている。交渉会議自体が行なわれるのと同じ超高級ホテルにおいて、数十のステークホルダーがプレゼンテーションをしたり、個別に各国交渉官とコンタクトをとったりという日だ。今回の交渉の場合は、3月6日(水)がその日に設定されている。
本日、シンガポールのTPP交渉担当部局から、今回のステークホルダー参加者リストが届いた。下記である(名前の後ろの番号は登録NOであまり意味はない)。
★第16回 TPP交渉 ステークホルダー会議 参加リスト(2月28日時点)
Textile and
Fashion Federation Singapore (TaFf) 1
U.S. Association
of Importers of Textiles and Apparel 2National Council of Textile Organizations 3
Bodynits International Ptd Ltd 4
Ghim Li Global Pte Ltd 5
Nike Inc 6
SL Ponie Pte Ltd 7
Tung Mung International Pte Ltd 8
Adidas 9
Hung Yen K&D co. ltd - Carvico Group 10
US-ASEAN Business Council, Inc. 11
American Chamber of Commerce in Singapore 12
US Chamber of Commerce 13
TPP Apparel Coalition 14
Rubber and Plastic Footwear Manufacturers Association 15
U.S. Business Coalition for TPP 16
CropLife America 17
Biotechnology Industry Organization 18
PhRMA 19
Personal Care Products Council 20
USDEC/NMPF 21
Canadian Agri-food Trade Alliance 22
CONCAMIN 23
Mexican Footwear Chamber (CICEG) 24
Camara Nacional de Industriales de la Leche (CANILEC) 25
Olivares & CIA. in representation of AMIIF 26
Entertainment Software Association 27
Malaysian Organisation of Pharmaceutical Industries (MOPI) 28
ANAFAM 29
University of Auckland 30
New Zealand Medical Students' Association 31
Harrison Institute 32
Bryan Cave International Consulting (Asia Pacific) Pte Ltd 33
Cargill 34
General Electric International Inc. 35
Google 36
Platts (a division of The McGraw-Hill Companies) 37
Actavis, Inc. 38
FedEx Express 39
MFJ International 40
Mylan Inc. 41
NAvistar 42
Salesforce.com 43
Time Warner 44
Visa 45
Ford Motor Company 46
GS1 Singapore Limited 47
Campaign For Tobacco-Free Kids 48
Knowledge Ecology International 49
Oxfam 50
Public Citizen 51
Australian Fair Trade and Investment Network 52
ONG Derechos Digitales 53
Consumers International 54
FTA watch 55
Malaysian AIDS Council 56
Malaysian Women Action for Tobacco Control & Health 57
Southeast Asia Tobacco Control Alliance 58
Third World Network 59
Red Peruana por una Globalizacion con Equidad - RedGE 60
Wildlife Conservation Society 61
TRAFFIC Southeast Asia 62
Dairy Farmers of Canada 63
ITUC - Asia Pacific 64
MTUC 65
TFCTN, S Rajaratnam School of International
これを見て、驚く方が多いだろう。先ほど私は「市民社会の力」でステークホルダー会議が実現できてきた、と書いたが、その話と上記のリストはあまりにも差がある。つまりほとんどが米国の大企業ないしは企業連合組織であり、いわゆるNGOや労働組合など本来の市民社会の声を代表する勢力はほんの一握りだ。
ニュージーランドのジェーンケルシーさんはオークランド大学として登録し、パブリックシチズンも登録、アジアのNGOとしてはThird World Networkなども名を連ねており、心強い限りだが、それでも全体の中では少数だ。
実はTPP交渉の特異性はこのステークホルダー会議に表れている。WTO交渉のときでさえ、ここまであからさまに企業・企業連合が大挙してステークホルダーとして登録され、交渉会議が行なわれているのと同じホテルにおいて、いってみれば「企業のプレゼン、つまり営業や商談」をするなどということはなかった。例えば、フェデックスやカーギル、VISA、GEなどの米国企業は、シンガポールやベトナム、マレーシアなどの交渉官に、こんなことをいうのだろう。「TPP交渉がまとまって発効すれば、これからはあなたの国にこれだけの安くてよい製品を輸出しますよ」「あなたの国にもっともっと投資しますよ」と。
交渉もまとまっていない、そのプロセスもまったく秘密裡にされているにもかかわらず、大企業と各国政府の間で商談がなされ、流れがつくられているのだとしたら、それはまさに、「大企業の、しかも米国の大企業のためのTPP」ということの証明だ。
私はこの目で、上記のリストに載っているような企業のプレゼンや陰に陽に行なわれる個別の会話や「商談」を、できる限りこの目と耳でつかんでこようと思っている。そしてもちろん、市民社会を代表するステークホルダーたちが、各国交渉官に直接、アピールできるという機会は重要である。TPPがカヴァーする多くの分野で想定される懸念や、各国の人々の実感、反対運動なども伝えていくことが大事だ。私も国際的なつながりを生かし、仲間たちとともにその一翼が担えればいいと願っている。
日本にも強く発信していくので、ぜひ交渉期間・その後にフォローをしていただきたい。
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