作品の原題は、『fire in the blood』。2013年にインドで製作された作品です。監督のディラン・モハン・グレイ氏はこれまでも数々の社会派ドキュメンタリーを製作してきました。
映画の舞台は、1990年後半から2004年の間、アフリカにてエイズによって1000万人もの人が亡くなった時代。1日に8000人という死者も珍しくなく、多くの家では庭に墓を次々と建て身内を葬るといったすさまじい状況でした。
しかし、それら人々の死は決して必然ではなく、むしろ「避けられた死」でした。なぜなら当時すでに抗レトロウイルス薬(ARV)3種混合剤がHIVの増殖を防ぐと判明しており、先進国では劇的に治療が進んだからです。しかしアフリカをはじめ途上国には、特許で保護され高額なその薬は届きませんでした。
映画では、この特許権という壁を破り、未曽有の死を止めるために闘った多くの人が登場します。南アフリカの白人支配と闘い、自らもHIV感染者であるザッキー・アハマッド、米国の知的所有権問題の著名なNGO「KEI International」のジェームス・ラブ、インドのジェネリック医薬品製造会社シプラ社のユスフ・ハミード、そしてウガンダの医師ピーター・ムジェニイ、国境なき医師団等――。彼らの行動を通して、特許権というものがいかに強固に製薬産業を守っているか、アフリカへの差別、米国における政府と企業の結託という、耐え難い「現実」が次々と私たちに突き付けられます。
私がこの映画に初めて出会ったのは2016年4月、米国の反TPP運動の仲間たちから回ってきた、ニューヨークでのセミナーのチラシでした。スティグリッツ教授やロリ・ワラック(パブリック・シチズン)等の著名な研究者や活動家のトークの前のメインイベントとして、この映画が上映される、とそこには書かれていました。
一目で、この作品に惹きつけられました。ニューヨークには行けませんでしたが、すぐにウェブサイトで映画を購入し視聴しました。それから版権交渉、字幕製作、商品化と、インドと日本の製作関係者の方々と一緒に、この半年奔走してきました。思えば、その道のりの間に、11月の米国大統領選でトランプ氏が勝利、12月には日本の国会でTPP協定と関連法案が批准、そして1月には米国のTPP離脱=TPPの死が確定しました。こうした情勢を見ながら、常にこの作品で問われた医薬品特許問題の行方を注視してきました。残念ながら、私たちの世界は、映画で描かれた時代よりもさらに悪くなっている、と言わざるを得ません。
時代は2017年になり、すでに特許権と命をめぐる闘いは第2幕へと移っています。ご存知のとおり、TPPでは映画に出てきたWTOのTRIPS協定がさらに強化され、そしてTPPは崩壊したけれども、特許保護という「中身」は、RCEPなど別の乗り物へと移動し、その威力を発揮しようとしています。
トランプ大統領がつい先日、「アメリカの医薬品価格を下げる」と表明し、それが注目を浴びていますが、実はトランプ大統領は製薬企業に、医薬品価格を下げさせる代わりに、薬の認可期間の手続きを驚くほど簡単にしてやる、という取引をしようとしているようです。これで製薬会社がYESというかはわかりませんが、いずれにしてもトランプの方針は、「アメリカでの医薬品価格は下げるが、他の国は知らない(あるいはさらに強い特許保護を求めたり、インドのジェネリック薬製造を妨害しようとする)」という方針で、決して国際社会に貢献しようとか、途上国の人々にも医薬品アクセスを、と考えているわけではない、ということが稲場雅紀さんとのトークでも明らかになりました。トランプ出現以降、「自分の国のことを優先して考えるのは当然だ(主権の行使だ!)」という論調をよく見ますが、そのことと引き換えに、途上国の人々や他国の貧困層の命を犠牲にしてよいという道理はありません。とりわけ医薬品という分野については、SDGs(持続可能な開発ゴール)でもか掲げられているように、途上国・先進国問わずすべての人々に医薬品アクセスを保証することが、国際社会の目標であり責任です。
本作品は、2013年にリリースされた直後から大きな反響を得てきました。日本でも知られるサンダンス映画祭(米国で開催される映画芸術科学アカデミー公認の映画祭)の2013年公式作品として招かれると、一気に世界中に広がりました。これまで、インドはもちろん、米国では数十か所で上映、イギリス、フランス、ドイツ、アイルランド、タイ、ニュージーランド、ペルーなど多くの国で大規模な上映会が開催されています。
医薬品や医療は、私たちに欠かせないものです。その医薬品の特許権をめぐってはどのような問題があるのか? 途上国の人々が薬を得られないのは「仕方ない」のでしょうか? 私たちには知らされていない現実は、まだまだたくさんあります。この作品を、一人でも多くの方に見ていただき、日本での薬価や医療制度のことも含めて、考える題材にしていただければと思います。
★DVDは1枚3000円で販売しています。
★各地での上映会も大歓迎です。詳細はPARC事務局までお問合せください。
http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/fireintheblood.html
★公式ホームページ(英語)
http://fireintheblood.com/
トランプ大統領がつい先日、「アメリカの医薬品価格を下げる」と表明し、それが注目を浴びていますが、実はトランプ大統領は製薬企業に、医薬品価格を下げさせる代わりに、薬の認可期間の手続きを驚くほど簡単にしてやる、という取引をしようとしているようです。これで製薬会社がYESというかはわかりませんが、いずれにしてもトランプの方針は、「アメリカでの医薬品価格は下げるが、他の国は知らない(あるいはさらに強い特許保護を求めたり、インドのジェネリック薬製造を妨害しようとする)」という方針で、決して国際社会に貢献しようとか、途上国の人々にも医薬品アクセスを、と考えているわけではない、ということが稲場雅紀さんとのトークでも明らかになりました。トランプ出現以降、「自分の国のことを優先して考えるのは当然だ(主権の行使だ!)」という論調をよく見ますが、そのことと引き換えに、途上国の人々や他国の貧困層の命を犠牲にしてよいという道理はありません。とりわけ医薬品という分野については、SDGs(持続可能な開発ゴール)でもか掲げられているように、途上国・先進国問わずすべての人々に医薬品アクセスを保証することが、国際社会の目標であり責任です。
本作品は、2013年にリリースされた直後から大きな反響を得てきました。日本でも知られるサンダンス映画祭(米国で開催される映画芸術科学アカデミー公認の映画祭)の2013年公式作品として招かれると、一気に世界中に広がりました。これまで、インドはもちろん、米国では数十か所で上映、イギリス、フランス、ドイツ、アイルランド、タイ、ニュージーランド、ペルーなど多くの国で大規模な上映会が開催されています。
医薬品や医療は、私たちに欠かせないものです。その医薬品の特許権をめぐってはどのような問題があるのか? 途上国の人々が薬を得られないのは「仕方ない」のでしょうか? 私たちには知らされていない現実は、まだまだたくさんあります。この作品を、一人でも多くの方に見ていただき、日本での薬価や医療制度のことも含めて、考える題材にしていただければと思います。
★DVDは1枚3000円で販売しています。
★各地での上映会も大歓迎です。詳細はPARC事務局までお問合せください。
http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/fireintheblood.html
★公式ホームページ(英語)
http://fireintheblood.com/
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